6,奥義的な。
今回は、初心者救済ダンジョンに、アークはサラのお供として入った。
すでに、サラには剣術スキルlevel3《斬撃飛ばし:昏》を伝承してある。
「斬撃を飛ばし、盲目状態にしてから叩く、ふむふむ」
覚えは早いようで、二度のチャレンジでミノタウロスを撃破する。
ダンジョン内生成モンスターを撃破することで、スキルを上げるための経験値を獲得できる。これが救済ダンジョンの所以。ダンジョン外でも、経験値的なものは獲得できるが、そのかわり『下手したら死ぬ』というリスクがある。
ミノタウロスのいたエリアを抜ける。
段階的に敵モンスターも強くなっていく中、サラは剣術技能レベルを8まで上げた。すでに自力で得た剣術スキルが複数あるが、お気に入りで使いこなしているのが、《斬撃飛ばし:昏》。遠距離攻撃が可能で、確定でデバフ付与というのは、level3にあるまじき便利さ。
しばらく進むと、先に攻略していた別パーティと遭遇。
そこの男剣士が、アークを見るなり、にやにや笑い出した。
「見ろよ、あの女剣士。猫なんか連れているぜ。ここは散歩コースじゃないぞ」
「おれ、猫嫌いなんだよな。蚤がいやがる」と、その仲間も反応。
サラがムッとした様子で、
「うちのマスコットキャラがバカにされている!」
「にゃい(マスコットキャラと言っているお前も、とんでもない話だぞ)」
「ミィくんに、蚤はいない! ……よね?」
「……」
やがて救済ダンジョンのラスボス・エリアにたどり着いた。
この手のダンジョンあるあるだが、ラスボスだけは別格的に強い。
鬼型のモンスターで、先ほどのパーティが絶賛苦戦中。
魔炎という、通常の防御スキルではガードできない地獄の炎が、襲いかかる。
どうせここで死にかけても、ダンジョン外にワープするだけだが。
反射的にアークは跳んで、拳闘スキルlevel8《紫陽花の蹴り》を、鬼型ボスに叩き込んだ。
これによって魔炎が消え、先ほどの失礼な男剣士たちは助かる。
一方、大ダメージを受けた鬼型ボスは狙いを、サラに向けた。
「あ、わたしがピンチだよ、ミィくん!」
「にゃぁ(自力でどうにかしろ。君ならばできる、おそらく)」
ここでサラに閃きが訪れる。剣術技能を一定高めたことで、スキル奥義をひとつ覚醒したようだ。
「奥義《獄の斬》!!」
もともとアークによってダメージを受けていた鬼型ボスは、サラの奥義技で一刀両断された。
莫大な経験値が入ることだろう。これでサラも、たった一日で、歴戦の剣士──は言い過ぎだろうが。
先ほどの失礼な男剣士たちが、アークの前で頭を下げた。
「さっきは、助かった、感謝する。ここまできて、一からやり直しになるところだった。強いな。あんたは、ただの猫ではないようだ」
「にゃぁ(そもそもが、猫ではない。猫では)」
その後、サラと一緒にダンジョン外にワープしてから、
「バカにしてきた人たちを助けてあげるなんて、ミィくん。人がいいなぁ~。いや、猫がいいのかな」
「にゃい(どうでもいいが、『人がいい』は褒め言葉ではないぞ)」
親になった気分だ、とアークは思った。




