49,同時進行クエストpart4。
アークの初期プランでは、『それなりに手を貸す』だけだった。〈名前はまだない〉は助っ人として、まずまずの活躍をする。そして反政府組織〈シグマ〉も健闘したが、王城は落とせず撤退。
無難な着地点。
ところが思いがけないことに、この戦い、先ほどからやたらと人が死んでいる。〈シグマ〉の精鋭部隊は命惜しまず突撃を繰り返し、王城の守備隊も王のため死ぬ気で奮戦。結果、王城付近は血の海で、死屍累々。
負傷した〈シグマ〉兵を引きずって遮蔽物の後ろまできたサラが、返り血を拭って溜息をついた。
「ミィくん。困ったものだよ」
「にゃあ(このままだと、とんでもない数の人間が死ぬだろう。仕方ない。アレを使おう)」
「ミィくん。なに言っているか分からないけど、それはやる気の顔だね。猫のくせに凛々しいぞ」
天災級魔術を使うにあたって、さすがに詠唱は無視できない。さらに呪文構成を書き換えることで、アークは改変を行う。
天災魔術level2(この魔術項目は最高levelが3)《血の海》。
オリジナルのままだと、設定した範囲内(半径10キロまで設定可)の生きとし生きるものが即死する、というもの。
前世のころ、この天災魔術の呪文を、半分発狂しながら会得したのも、いまや懐かしい。そもそもなぜこんな物騒な魔術を会得したのか。猫として転生し、猫的な思考回路を得たいま振り返ると、前世の自分でも理解に苦しむ。
が、とにかくアークが呪文を改変したことで、『即死』から『戦闘不能』の非殺傷魔術にすることができた。ただし防御不可の、ここまでレベルを落としても、チート級の威力。
とりあえず〈血の海〉の設定を王城周囲にして、発動。まだ守りを崩せていない〈シグマ〉陣営は影響を受けないようにした。結果、王城の守護部隊が全滅──人死には出ていないが、みな昏倒し、戦闘続行は不可となる。
いきなり激しい争いが終わり、はじめ〈シグマ〉兵たちは戸惑っていた。だがやがて、これがミィの仕業と分かると、
「いまのは、その猫どの力ですか!」
「さすが〈名前はまだない〉のエースですな!」
「これほどの魔術を使えるとは!」
などなど〈シグマ〉陣営から賞賛の数々。
クローバーがくしゃみしながらやってきて、やたらと勇気を振り絞った様子で、ミィの尻尾を触った。
「サラさん、ミィさん、感謝します。これでさらなる血を流さずに王城を占拠することができます。やはり〈名前はまだない〉に助力を求めたのは正しかったようです」
「まぁ、うちのミィくん。本気を出したらこんなものだよ」
と、サラは『想定どおり』という感じで流してから、アークを抱き上げて耳元で囁いた。
「ちょっと、ちょっと。ミィくん。ここまで本気の本気をだしたら、本当に王城が落ちるなんだけど? 革命成功しちゃうんだけど?」
「にゃぁ(知らん、知らん)」




