45,同時進行クエストpart1。
ケイトの家に居候をはじめて、早10日ほど。
アークは、この家の日向ぼっこベストポジションを見つけだし、ヒマさえあればそこでゴロゴロしていた。
このかん〈名前はまだない〉ギルド──ちなみに独立してからは半年ほど──は、市民からの依頼を精力的にこなしていた。ただ『街道に出没するゴブリン退治』程度の内容なので、サラに任せておいても安心できた。
それに、悪魔が怖いぜと逃げていたドーグも帰還し、ケイトも『〈名前はまだない〉の給料が100倍になった』ので、こちらの活動に専念できるようになった。つまり、実に珍しいことに、〈名前はまだない〉が、ちゃんとパーティらしく活動していたわけだ。
そんなある日。アークがケイト宅で一人(正しくは一匹)、『猫に転生してから魚が好きになった』のか『前世から魚好きだったのか』という自問自答を繰り返していた。
するとまずケイトが帰宅して、サラの姿を探す。
それからアークに言った。
「ミィさん、事実上の〈名前はまだない〉リーダーのミィさんに報告する。先ほど、〈シグマ〉の使者が接触してきた」
「にゃぁ(勝手にリーダーにするな)」
「どうやら王都騎士団と冒険者ギルドが連携を取り、本格的に〈シグマ〉討伐に乗り出すとのこと。これは王よりの勅命とも聞く。さすがに目と鼻の先で反政府組織が活動していることに、我慢の限界が来た様子」
「にゃい(意外ではない。というより、騎士団とギルドの手柄争いがなければ、もっと早くに協力していたことだろうなぁ)」
「そこで〈シグマ〉もまた、あえて攻勢に出るらしい。王都側勢力が〈シグマ〉拠点に仕掛けるタイミングで、別動隊が王城を襲撃し、攻め落とす作戦とか」
「にゃあ(それはまた大胆だな)」
「私たち〈名前はまだない〉には、王城攻略に手を貸してもらいたい、とのこと」
アークは毛づくろいしながら考えた。
最終決定権はサラにあるわけだが、この依頼を受けるとなると、まさしく王国に弓引くことになる。
サラの前に、ドーグがやってきて、ケイトに軽く挨拶してから、アークに言った。
「師匠。王政府の使いとかいうのがさっき来て、〈シグマ〉とやらの討伐に手を貸してほしい、ってのことですが。なんですかい、〈シグマ〉って?」
「にゃぁ(これは、嫌な予感がする)」
半時間ほどして、サラが帰宅した。ケイトとドーグから、相反するクエスト依頼を聞かされると、サラは「ふむ」とうなずき、コインを取り出す。
「じゃ、どっちの依頼を受けるか、コイントスで決めよう」
これがアークのまさしく『嫌な予感がする』で、サラの性格からして、こういう面倒な選択は、神任せにしたがる。この面倒くさがり。
トスったコインは、床材の隙間に突き刺さった。
つまり、表でも裏でもない、佇立状態。
ケイトとドーグが同時にサラを見やる。
「で?」
サラは肩をすくめた。
「思うに、王城を攻めるのに手を貸しつつ、〈シグマ〉を討伐するのに手を貸せばいいんじゃない?」




