38,アンチ雇われpart3。
ハウグ伯爵領内の中央。そこの高台上に目指すべき城塞はあった。
まさしく軍事要塞という構えであり、ぱっと見た限りでも、護衛がごろごろいる。しかし冴えている──か、または考えるのが億劫なサラが提案するには。
「上から行けばいいんじゃないかな。ミィくんの浮遊魔術で、上空から潜入しよう。どうせああいう要塞じゃ、標的は建物の真ん中にいるものだし」
「にゃぁいのにゃあ(二人分浮遊するのは可能だが、問題がいくつかあるぞ。まず標的は、自分が命を狙われているとは思っていないので、城塞の中心にいるとは限らない。案外、いまは領内を散策しているかもしれない)」
「ふむふむ。いまのミィくんの猫語を翻訳すると、『なんて冴えわたった作戦だ』だね?」
「……にゃあ(まぁ、なんだっていいが)」
ひとくちに浮遊魔術といっても、精密さ持続距離などで種類がある。妥当な《空駆》を選び、自身とサラを浮かした。猫として転生して良かったことは──人一人を浮かすよりも簡単。
いったん城塞から離れたところで急上昇し、護衛に発見される懸念を配慮──「空を何かが飛び上がった」などと叫ばれたあげく、未確認生物扱いされても困る、というわけだ。
さらに隠密魔術。不可視になるほどのものは会得していないが、敵による発見率を下げることは可能。その状態で城塞の上空まで移動し、急降下。ふわりと屋上に着地し、屋内に入る。
城内巡回兵は、アークが手早く拳闘スキルlevel3《音のない拳》で片付ける。命までは取らずに意識だけ奪い、近くの空き室に引きずり込む。
「おお。さすがステルス・ミィちゃん」
しばらく進み、豪勢な寝室に出た。真っ昼間で良かったのは、乱交『後』だったこと。何人かの裸体の女たちの中央で、肥え太った男が鼾をかいて眠っている。
「ふむ。これって、どー考えても、ここの家主だよねぇ? だけど人違いは困るし。すみませーん。ハウグ伯爵さまですか?」
名前を呼ばれた伯爵が、面倒そうに眼をあける。
「なんじゃ、わしを呼ぶ愚か者は?」
「間違いない。では正義のため、失礼します───」
サラは抜き身の剣を振り上げるも、そこで躊躇する。
「むむむ。さすがに武器をもたない相手を抹殺するというのは、気が引ける」
「にゃぁ(お前はそれでよい、サラ)」
事態をようやく理解したハウグ伯爵が、「くせものだ!」とか叫ぶ前に、アークは息の根をとめた。雷魔術+拳闘スキルで、心臓を止める一撃。
サラが念のため、ハウグ伯爵が死亡したことを確認する。
「ミィくん。猫の手を汚させてしまったね」
「にゃあ(気にするな。おまえのために汚す猫の手ならば、悪くはない)」
「いまミィくん、いいこと言った感じ?」
アークは溜息をついた。猫でも溜息がつける。転生して知ったマメ知識。




