36,アンチ雇われpart1。
巷を騒がす反政府組織〈シグマ〉。
そこから、依頼がきたらしい。
さすがにサラも、これはへたすると反政府の仲間入りにされるぞ、と困惑している様子。
「これは困ったなぁ。くるもの拒まず、すべての依頼をそつなくこなすを目的とする〈名前はまだない〉なのに。どうするミィくん? 心の安定剤のために、猫すーはーしていい?」
「にゃあ(精神安定のために使うな)」
「やはり、この依頼は受けられないよねー」
断るにしても、当人たちに会わねばならない。依頼の打診は封書できたが、続きは密会しての話し合いとなる。つまり、こちらからは断りの手紙を送りたくとも、向こうは絶賛反政府活動中なので、住所など公けにはなっていない。
「こういうのは、ちゃんと断っておかないとね」
アークを連れて、サラが密会場所に向かった。密会といっても、人気のあるカフェの入口付近のテーブル席が、指定された場所だが。あえて人込みに紛れることができる場所、ということか。
通常、飲食店にペットを連れていくことはできないが、このころにはアークは〈名前はまだない〉の『顔』として有名で、『あの三毛猫さんだけは特別だよ』と入店を許されている。とはいえ、毛が舞って迷惑にならないよう心がけるのは忘れずに、だ。
そして密会相手──〈シグマ〉の使者は、ぱっと見はどこにでもいそうな男で、まぁそれが売りなのだろう、とアークは思う。どこにでもいる風体が、このような役にはぴったりだろう。
そして断りを入れにきたサラに対して、王政府のやりかたが、いまの社会不安の根源になっていることを、長々と語りだした。
──つまるところ治安悪化の問題は、王国に難民を受け入れる愚策や、貴族優遇の格差を増進させる政策が原因やら、なんやらかんやら。
そもそも、いまだに王が政府のかじ取りをしているのが、時代遅れだろうと。
という結論に至ったころには、サラも熱心にうなずいている始末。
「うーん。そちらの考えは分かったけど、わたしたち〈名前はまだない〉は、王都市民に対して『親愛なる隣人的』な立ち位置を目指しているからなぁ。あんまりテロル的なことはしたくない。イメージダウンするし」
「ええ、ですから」
と、〈シグマ〉の使者が続けるには、
「我々が頼みたいのは、ある貴族の抹殺でして。この男は、貴族の身でありながら人身売買組織のトップでもあると、我々はつかんでいます。さらに身分の高さと王都警察への賄賂によって見逃されている。これもまた、いまの王政府の腐敗の象徴であります。ですので抹殺したい──ですがこの貴族には私設の護衛部隊がおり、これが強敵。そこで〈名前はまだない〉に始末していただけたら、と」
「まぁ~、それくらいなら、やってもいいかもしれない。どう思う、ミィくん?」
「にゃあ(なんでもいいが、報酬はふんだくることだな)」
サラは肩をすくめてから、使者に言った。
「じゃ、成功報酬の相談。わたしたち、安くはないよ」




