28,馬肉になる前にpart2。
ホブゴブリンたちに囚われていた──危うく人肉シチューになるところだったのは、旅商の一団だった。
彼らは、砂漠地帯からの者たちで、ラクダを連れていた。サラは何を思ったか、救出のお礼として、一体のラクダをもらいうけた。
「ミィくん。ついに我ら〈名前はまだない〉にも、専用の移動手段が手に入ったよ」
「にゃあ(……おまえ、そのラクダをどこで飼育するつもりだ?)」
「……ところでミィくん。馬肉シチューになるはずだった馬は?」
アークが考えるに、これははじめの第一歩が間違っていたのではないか。まず明確な事実として、ゴーダ牧場から馬が盗まれた。そして近くには、確かにホブゴブリンのたまり場があった(五体程度では拠点とは言えまい)。
だからといって、このホブゴブリンたちが、牧場の馬を盗んだ、とは限らない。目撃証人が嘘をついている可能性もある。
となると、真の盗っ人は、この唯一の目撃証人──牧場のスタッフではないのか。スタッフは、偶然にも牧場付近でホブゴブリンを目撃。市民の義務として、本来なら王都に報告するところだが、これを怠る。それどころか、転売すれば高値のつく馬を盗みだし、その犯人に仕立てようとしたのだ。
という推理を、サラに伝えるのに三十分かかった。
にゃぁの鳴き声では伝えられないので、ジェスチャーで伝えるしかないので。
「ふむふむ。つまり、目撃証人のスタッフを詰問すればいいんだね。わたしの剣がものをいうよ!」
ものをいうにはいった。
目撃証人のスタッフのもとに戻り、「嘘の目撃証言をしたね! 白状しなさい!!」と怒りの剣一閃。もちろん外すつもりだったが、手が滑り、スタッフの右足の爪先をざっくりと切断した。
「あっ」
「あぎゃぁぁぁぁあああああ僕の爪先があぁぁああああああああ!!」
「で、馬は? あの、あなたが犯人なんだよね? もし違ったら、さすがに申し訳なくて、草も生えない」
「にゃぁ(たとえこのスタッフが犯人でも、すでに草も生えないと思うがな)」
サラとしては有難いことに、このスタッフが馬泥棒の真犯人だった。つまり爪先の件も、自業自得ということになる。
さらに盗み出した馬は、はじめにアークが予想したとおり、闇市で競りにかけられるという。闇市が開かれるのは今夜ということで、場所を聞き出す。
そのあとは──王都警察に通報することで終わった。
王都警察で摘発に乗り出し、盗まれた馬は無事に保護され、主催者は逮捕された。ついでに爪先を切られた、だいぶ気の毒よりなスタッフも。
翌日。ゴーダ牧場から報酬を得たサラが言うには、
「まぁ、わたしとミィくんで突撃してもいいんだけど、正直、そこまでの仕事量をこなすほどの報酬でもなかったしね。わたしとしては、ラクダを手に入れたことが大きい。ラクくんとでも名付けよう」
「にゃぁ(おれを名付けたときから思っていたが、おまえの、その適当なネーミングセンス)」




