26,悪名は千里を。
ドーグに逃げられたので、サラはすっかり拗ねた。
「〈名前はまだない〉のパーティメンバー、やる気なさすぎだよね。唯一燃えているのが、ミィくんだけ」
「にゃあ(おれは、おまえの尻拭いをしているだけの気がするが)」
「ミィくん! ねこすーはーだ!」
「にゃぁぁあ(やめろぉぉぉ!!)」
※※
近くの小規模な町には、冒険者支部があった。支部といっても、クエストの発行だけが業務内容の小さなものだが。そこにサラが向かったのは、もう一人のパーティメンバーであるケイトの捜索願いを、わりと本気で出そうとしたから。
だがそのかわりに、近くのデネ洞窟に、狂暴なミノタウロスが逃げ込み、それの討伐クエストが出ていると知る。
「ミノタウロスかぁ~。ミノタウロスの素材は高値で売れるし、パーティ実績にもつながるというものだよ。よし行こう、ミィくん。監獄での件と相殺する活躍を示しておかないと、だからね」
いまだにパーティランクを上げることを諦めていなかったらしい。
こうしてデネ洞窟へ、てくてくと向かう。
デネ洞窟は、どこにでもある天然洞窟で、デビルバットという蝙蝠型魔物が生息しているだけだった。飛行型の魔物なので、アークの狙撃魔術が活躍する。
こうして洞窟の最深部で、ミノタウロス個体と対峙。だがこのミノタウロスの背後には、まだ子供のミノタウロスたちが複数見られた。
「にゃぁ(どうやら、家族持ちのようだな)」
サラは剣を鞘におさめる。
「なるほど。子供がいたから、それを守るため狂暴だったというわけだね。そういうことなら、わたしも話は分かるよ。今回は見逃してあげよう」
回れ右して洞窟の出口に向かうも、一本道なので、洞窟入りした別パーティと遭遇することに。
大型剣を装備したジョブ〈ソードナイト〉をリーダーとした、実にバランスの取れたパーティ一行と。
サラが洞窟の暗闇の中、相手を識別した。知り合いらしい。
「あっ。あなたたちは、パーティ〈すめらぎ刃〉のみなさん。パーティランクは先日Aになったとか。どうもです、ジョンさん」
〈すめらぎ刃〉のリーダーであるジョンが、バカにしたように笑いながらう言う。
「ほう。誰かと思えば、最近成り上がって調子にのっている〈猫〉パーティか。マスコットの猫が一番活躍しているとかいうヘボなパーティだな」
「パーティ名は〈名前はまだない〉ですよ」
サラは淡々と応じてから、〈すめらぎ刃〉のために道を開けた。
「じゃあな、〈バカ猫とその愉快な仲間たち〉」
「だーから、〈名前はまだない〉だってば」
ぞろぞろと洞窟の先に行く〈すめらぎ刃〉一行。それを見届けてから、サラが難しい顔で言う。
「ふむ、ミィくん。家族を守るため健気に戦うミノタウロスと、失礼千万なAランクのパーティ。どっちに肩入れするべきだと思う? わたしは前者に一票」
「……にゃぁ(一応言っておくが、パーティ同士の争いはご法度だぞ?)」
「うんうん不殺なら問題ないって? さすがミィくん。分かってるー。じゃ行くよ!」
本気らしいサラが、剣を引き抜き駆けだす。
アークは呆れつつも、リーダー兼飼い主についていった。
〈すめらぎ刃〉に追いつくなり、まずは相手のタンク役に、サラが剣術スキルlevel3《斬撃飛ばし:昏》を叩きこむ。この襲来はさすがに予期していなかったらしい〈すめらき刃〉メンバーたち。アークは、敵がたの最大戦力であろうジョンに、飛びつき。
「にゃぁぁぁ(誰が、バカ猫だぁぁぁ!!)」
「うわぁぁぁぁ!!」
容赦のない火炎魔術level10《劫火の絶》で、戦闘不能まで追い込んだ。
「な、なんだ! ジョン、どうした!」「お前ら、正気か!」「殺してくれる!」
と体勢を立てなおおそうとする〈すめらぎ刃〉メンバーたち。しかし時すでに遅し。アークの魔術level10──追尾と氷結の混合魔術《嵐氷の矢》は放れており、一人一人、確実に戦闘不能へとしていく。
こうして壊滅した〈すめらぎ刃〉──死人ゼロ、重傷者は多数──を置いて、サラとアークは、そそくさと洞窟を後にした。
あとに残ったのは、〈名前はまだない〉の悪名だけだったわけだ、が。
少なくともジョンたちが〈名前をまだない〉を訴えるにあたって、パーティ名を間違えることはなかったわけだ。




