20,手あたり次第感part1。
東方山脈に到着した。目的の西方山脈ではなく。
これは不可解なことだよ、という顔で、サラが地図を見ている。
アークは、そのそばで転寝していた。猫(のような生き物と思っていたが本当に猫だった)に転生してから、一日の大半を寝てばかりだ。
しかし、睡眠欲というのは、抗いがたい──とアークは思うわけである。
「ミィくん、寝ている場合じゃないよ。ところでわたし、MAPとかちゃんと読めるからね」
アークはあくびしてから、サラの右肩に跳びのり、一緒に地図をのぞき込む。
「にゃぁ(街道のこの分岐路を、おまえは右に曲がったせいで、ぐるりとまわって東方山脈に来てしまったんだろ。この方向音痴が)」
「うんうん。いまミィくんも、わたしが方向音痴ではない、ということで意見一致した感じだね?」
「にゃぁ(いい加減、おまえはおれの鳴き声を、もっと正しく翻訳できるようになったらどうだ)」
それにしても、東方山脈のこのあたりにはひと気がない。西方山脈側は賑わいもあるが、こちらには主要街道もなく、鉱山などもない。そんなところを、一台の馬車が走っていく。荷台には、見るからに高価そうなものが、乱雑に積まれていた。
アークとサラは、そんな馬車をなんの気なしに眺めていた。
「ミィくん、見た? いまの荷台に乱雑に積まれていた品々には、一部に血のようなものが付着していたことを?」
「にゃぁ(さすがだな、サラ。地図は見誤るが、大事なところは見逃さない)」
「いま、ミィくんにべた褒めされたみたい?」
「にゃい(そこまでではない)」
「何か怪しい。いまの馬車を、追いかけてみよう」
だが追跡は、すぐに中断となった。先ほどの馬車が、小さな道のはしに乗り捨てられていたためだ。サラはすかさず剣を抜き、待ち伏せ攻撃に対抗。
アークはサラの背中を守るようにして、やはり敵襲に反撃した。サラの剣術スキルを支援しつつ、近づいてきたものを片っ端から仕留める。戦いが終わってみると、10人の死体が転がっていた。
「にゃぁ(おれたちが追跡していることに気付いての待ち伏せだろうが、あの馬車にこの人数が乗っていたとは思えない。応援を要請したということは、この近くにこいつらの拠点があるのだろうな)」
「うーん。この人たち、何もの? いきなり武装して襲ってきたんだから、悪い人たちだよねぇ。というか、そこの馬車の荷台の品々は、盗品だよね? 血がついていることから、暴力的な手段で盗んだものとみていいよね?」
「にゃあ(こいつらの正体を知るには、これしかない)」
死体の記憶取得のため、死体一体の脳へと、深々と爪をつきたてる。
「あー、ミィくん。何か必要があるのだろうけど、グロいよー」
「にゃぁにゃぁ(なるほど。こいつらの正体は、〈赤牛の盗賊団〉の残党のようだ。だがこのことをお前に知らせるのはやめておこう、サラ。お前のことだから、どうせそうと知れば突撃すると言い出しかねないからな。幸い、おれの猫語は理解できまい)」
「え? いま〈赤牛の盗賊団〉と言ったの? この近くに拠点があるみたいだから、これから突撃しよう、ミィくん」
「にゃぁ(そういうところだけは正しく翻訳できるんだからなぁ)」




