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12,井戸の底は考えものpart1。

 

 ヒュドラ×2討伐によって、パーティ〈名前はまだない〉の名は、一躍轟いた。


 腕利きの冒険者たちが全滅を免れたのも、一体だったはずの討伐ランクAたるヒュドラが二体いたのに撃破できたのも、〈名前はまだない〉の猫のおかげ──という噂も。


 ただし、これは噂のレベルでとどまり。やはりじかに目撃せねば、ただの猫のような生き物──マスコットキャラともいう──が、かのヒュドラを二体を屠ったとは、信じられない。そも、この噂は地味に間違っており、実際のところヒュドラ一体を倒したのは、サラの手柄(アークによる攻撃バフ魔法がかかっていてとしても)。


 この勢いで、〈名前はまだない〉のパーティランクは『D』に上がった。

 サラは機嫌が良かったが、〈名前はまだない〉が注目の的だったのもはじめの三日だけ。


 四日目。王都内で、反政府組織〈シグマ〉による破壊テロが起こり、それどころではなくなった。


 すっかりサラは不機嫌になった。

 一方のアークは、反政府組織など初耳。どうもサラは、この手の情報に興味がないらしい。そして猫の身分としては、サラを経由してではないと、なかなかに情報は入ってこない。


 とにかくいまのところ、反政府組織は冒険者の討伐対象ではないらしく──騎士団の管轄らしい──アークも人間同士で争いたくなかったので、これは都合がよかった。


 こうしていつもの散歩道を一匹で歩いていると、困った顔をしたケイトを見つける


「にゃあ(こんなところで奇遇だな。ところで、そんな困った顔をして、どうした? 手を貸すぞ?)」


「ミィさん……サラの通訳がないので、なんと言ったのか見当もつかない。けどきっと『困っているなら手を貸すぞ』的なことを、言った?」


「にゃぃ(サラよりも適格な通訳だな)」


「実は、そこの枯れ井戸の底に、お財布を落とした……降りて拾ってこようと思ったけど……何かいる気配がする」


 枯れ井戸の底に何がいるのというのか。アークは井戸のふちに飛び乗って、真っ暗な底を見た。確かに、何か気配がする。探索魔術をかけてみると、闇属性の『何か』が反応した。


「にゃぁ(サラよりも直感が優れているな。この底には、魔物か、それに似た何かがいるようだ。リスクをおかすのはやめておけ)」


 闇属性の敵は、どんな初見殺しスキルを持っているか分かったものではない。避けられるならそれにこしたはことはないのだ。


「ミィさん。やはり何か、いた感じ? だけど、あのお財布には、全財産が」


「にゃぃ(そうなのか。しかし命はなににもかえられん)」


「──サラの、全財産が」


「……にゃあ(なぜおまえが、サラの全財産入り財布を持ち歩ているんだ?)」


「もしかし疑問に思った? 次の遠征のため、ポーションをまとめ買いして来い、というサラの指令で。人使いは荒いけど、ケチではないから。それでサラは、全財産入りの財布をぽんと、投げてよこした」


「……」


 いまやアークの食費も、『飼い主』であるサラの担当。そのサラが文無しになってしまったら、一体、今夜からごはんは何が出てくることか。


「にゃぁ(仕方ない。おれがとってこよう)」


「もしかして降りる? それなら、私もついていく。財布を落とした責任をとらないと。タンクとして、ミィさんを、守る」


「にゃあ(おまえ、タンクだったのか……)」

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