11,大物を狩りたい(後編)。
西方山脈に向かうと、道中、30人ほどの冒険者一団と遭遇。
複数パーティが合体しているようで、さすがに難敵ヒュドラを狩ろうということで、この人数なのだろう。
基本的に人好きなサラが、朗らかに挨拶した。
「ヒュドラ狩りのみなさんですね。わたしと、このミィくんもそうです。戦闘中にあうことがあったら、よろしくです」
すると冒険者一団の者たちが、アークを指さして嘲笑った。
「猫を連れた新米に何かできる。その猫を囮にして、ひぃひぃ言いながら逃げかえるのがおちだな」
当然といえば当然な反応だが、サラは怒った。
「こら、うちのマスコットキャラをなめると痛い目を見るからね! ……やれやれ、失礼な奴らだったよね、ミィくん?」
「にゃあ(お前、一番失礼だ。誰がマスコットキャラだ)」
冒険者一団を見送り、サラが拳をかためる。
「ミィくん! わたしとミィくんだけでヒュドラを倒し、あいつらをぎゃふんと言わせてやろう!」
「にゃぃ(そんなことのために力をつけてきたわけではない。いいか、強さというのは見せびらかすものではなく。そもそもお前は薬草を取りにきたのを忘れたか?)」
「ミィくんが辛辣なことを言っている気がする。よし、ヒュドラのことはいったん忘れて、ガドラ草の採取に励もう。とはいえ、この広い西方山脈の、どこらへんで採取できるのかな? ギルドで採取MAPをもらってくるのを忘れた。
ということで、ミィくん、お願いしますー。採取場所を調べる魔法とかをお願いしますー」
「にゃぁ(……最近、図々しくなってきたな、お前は)」
探索魔術を使えば、近辺の素材を遠くからでも確認できる。本当ならば実物が少しでもあれば、追跡魔術に切り替えて、もっと効率よく探せるが。
とにかく探索魔術によって、三十分後には目当ての薬草の群生地を発見。さくさくと集め、《異空収納》する。
「かなり多めにとっていけば、あの子のお姉さん以外の石化病の人のための解毒薬も造ることができる、よね」
「にゃぁ(そういうことだ)」
とるものをとったので、早々に帰ることにした。サラは少しばかり名残惜しそうだったが。
ところが西方山脈を降りかけたころ、戦闘音と悲鳴のようなものが聞こえてきた。さらに大型魔物の轟きも。これはヒュドラのものだろう。
サラが「まってました」とブロードソードを手に駆けだしていく。アークは、「あの身の程知らずさで、よくおれと出会うまで生きてこれたものだ」という溜息の「にゃあ」をもらした。
サラを追いかけて、冒険者団体とヒュドラの交戦場に入る。冒険者側ははじめこそ連携をとり戦っていたが、二体目のヒュドラが大地から乱入したため、一気に乱れた。
後方支援の魔術師たちを、二体目にやられ、前線の盾役たちがそちらの支援にいこうとしたところ、今度は一体目の《背徳の炎》という全体火炎攻撃を背中から浴びる形となったのだ。
これはヒュドラ側こそ、よく連携がとれている。はじめの一体目が囮となっていたわけだ。
サラは怪訝そうにつぶやく。
「あれ? 二体もいるよ? 夫婦? 兄弟? まぶだち? そんなことは、どうでもいい?」
「にゃぃ(どうでもいいぞ)」
ヒュドラの火炎属性攻撃に対応するため、アークは氷属性魔法を出し惜しみせず連射し、冒険者団体を守るための『シールド』領域を作る。
「うぉぉぉ、マスコットキャラさまぁぁ!! 助かったぁぁぁ!!」
「みんな、こっちだ! ここが安全圏だぞ!!」
と、まだ生きていた冒険者たちが、アークのまわりに集まってくる。
「にゃぁ(おれの後ろにいろ。そして、誰がマスコットキャラだ)」
「ミィくん、わたしがいくよ!」
ヒュドラめがけて飛び込むサラのため、足場となる氷の段を、作ってやった。
駆けあがっての一撃、剣術スキルlevel3《斬撃飛ばし:昏》。盲目状態付与はヒュドラ相手にも効果あり。
この間にアークは、二体目のヒュドラへ、弱点属性たる氷の大がかりな攻撃魔術level10《阿修の氷斬り》──氷属性の大きな鎌が敵を狩る──で仕留める。
さらに連続攻撃中のサラにバフをのっけて、一体目ヒュドラの撃破も助けた。
「おっと、必殺の奥義できめたかったのに」
「にゃあ(お前は、もっと一撃一撃を丁寧にうつべきだぞ)」
助かった冒険者たちが、アークのまえにきて、頭をさげた。
「マスコットキャラさま、さっきは無礼なことをいって申し訳ありません。まさか──まさか、こんなにすさまじい魔法を使える、マスコットキャラだったとは! 助かりました」
「ミィくん、どや顔してもいいんだよ。〈名前はまだない〉最強のマスコットキャラとして」
「……にゃぁ(まて。マスコットキャラというところを、なぜ訂正しないのだお前は……とにかく薬草を採取して帰還するぞ。みんながまっている)」




