10,大物を狩りたい(前編)。
「やっぱり、パーティの名をあげないといけないと思うんだよ、ミィくん。大物を狩って、名をあげるんだよ」
サラが決意を表明したとき、季節的に雨の多い日々だった。
こうじめじめしていると、アークは髭の手入れもままならない。この猫のような髭。ちなみに空気の流れから障害物がどこにあるか見極めるのに役だつ。
このころ──ケイトはバイトに忙しく、サラが一目見て「パーティメンバー入りおめでとう」したドーグ(自称アークの一番弟子)も、アークが無視し続けたため、いまはどこかに武者修行の旅に出ている。
ちなみにドーグの場合、「師匠が無視されるのは、おれにまだ実力が足りないからだ」という、謎のポジティブ精神。
見送るさい、アークはにゃあにゃあ言語でなんとか、決闘はしてもいいが、命はとらないように指示は出しておいた。
そして、はじめのサラの決意の言葉に戻る。
「にゃぃ(やる気は買うが、パーティメンバーも誰もいないじゃないか。というか、お前もそろそろ、バイトしたらどうだ?)」
アンデッドキング討伐のさいの報酬も、そろそろ底を尽きようとしている。
サラはすっくと立ちあがり、自宅を出た。三十分後、おかしなテンションで戻ってくる。不穏なテンション。
「聞いた、ミィくん? なんと、西方山脈内でヒュドラが目撃されたんだって。討伐難度で、かのアンデッドキングも軽く上回る、大物だよ。これを倒せば〈名前はまだない〉のランクもあがる!」
アークはその場で、猫にできる限りの威厳をもって座り、いった。
「にゃぁぁぁい(そこに座れ、サラ。お前はなんのため冒険者となったんだ? それは名をあげるためじゃないだろ。人のためになるためだ。名声を追うよりも、まずは近所の人を助けることからはじめたらどうだ)」
「うーん。ミィくんにお説教されたみたい? 分かったよ。そういうことなら、わたしも今回は、諦める。惜しいけども──じゃ、さっそく、誰か困っている人を見つけてくる!」
行動力があるところだけは、褒められる。
それにしても、そうそうな困っている人など見つかるものか。アークはあくびしてごろ寝しようとしたとたん、サラが戻ってきた。10歳ほどの少年を連れている。
「ミィくん困っている人がいた」
「にゃい(そうか……変なところで仕事が早いな)」
「さぁ、君、このミィくんにもさっきのことを話してあげて。あ、大丈夫。この猫さんは、人の言葉が分かるからね」
少年が切実に語るには、彼の姉が〈石化病〉にかかり、すぐにでも治療薬が必要。
ところが石化病は、いま貧民区ではやっており、解毒薬は在庫切れ。
薬屋がいうには、解毒薬を作るのに必要な〈ガドラ草〉という薬草が、王都内にないのだとか。
「一番手っ取り早いのは、群生地に採取にいくことなんだよ」
と、サラが補足説明した。
「にゃぃ(なら採取してくるといい)」
「採取にいくとして、ミィくんも同行してくれる?」
「にゃあ(猫の手も借りたい、ということか? そうだな。この子のお姉さんのためならば、おれも力を貸そう)」
「よし、決まり! ところでガドラ草の群生地は西方山脈で、いま立ち入り禁止中。理由はヒュドラが目撃されているからだから、きっとわたしたち、ガドラ草を採取するため、邪魔なヒュドラを撃破することになりそうだね?」
「……にゃぁ(変なところだけ、サラの思惑どおりに行くようにできている)」




