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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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事業拡大提案




 ――『話題の新技術!? Vtuberのヴェルチェラ・メリシスに迫る!』。

 ――『ジェムプロとの関係は? 今後の新技術配信に関する展望について独自調査!』。

 ――『業界最大手Vtuber事務所、ジェムプロダクションの戦略?』。


 注目記事として並んだ、数々のネットニュースの見出し。

 その多くは私――というかレイネ――が開発、発表した新技術に関するもので、SNSではよく分からない憶測が飛び交い、混乱しているらしい事が窺える。


 中でも意味が分からない類なのが、私がジェムプロの紐付きというか、元々個人勢として売り出してはいるものの、実はジェムプロがバックアップしていたのではないか、なんて話だね。


 ――「今回の魔道具に関しても実はジェムプロが開発していた」とかね。

 個人勢として活躍した私だけれど、実はジェムプロを業界最大手として信頼されているというプロパガンダに仕立て上げるために、ジェムプロが最初からフォローしていた、みたいな。


 ……いや、ないんだけど。

 まあユズ姉さんがジェムプロの人間だっていうのもあるし、ユズ姉さんとお母さんに勧められてVtuberになったのは事実だけど、かと言って活動そのものには関与してないからね。


 まったく……根も葉もないような事を、さも『ひらめいた!』みたいなノリでSNSで垂れ流して、しかもそれに同調して盛り上がっているあたり、逞しいというかなんというか。

 苦笑しつつSNSで引用して「妄想の飛躍に草」と投稿したら、なんか大量に反応が返ってきてる。


 いや、なんか「さすが陛下、煽りよる」とか書かれてるけど、煽ってるんじゃない。嘲笑ってるんだよ。


「――凛音お嬢様」


「ん?」


「不遜にも平等だの贔屓だのと騒いでいた輩は処しましたのでご安心を」


「え゛っ、そこまでするの?」


「無論です。もっとも、今回は『普段身につけているものを意識から外す』という簡単な呪いです。どこかで財布やらスマホやらを落とすか、家に忘れて後悔に苛まれるという程度で済むでしょう」


「うわ、地味に嫌なヤツ」


 致命的ではない上に、本人のミスとしか思えないような効果かもしれないけれど、地味に一日テンション下がり続けるヤツだよ。

 財布をどこかに忘れたとかだったら一日どころじゃなく凹むしね。


「まあ勝手な言い分だよね。SNSだからっていうのもあるんだろうけど、こういう自己中心的な言い分を垂れ流すのも。匿名性が高いからってイコールして言いたい事を言っていいとはならないんだけどね」


「たまに見かけますね、ネットなんだから言いたい事を言わせろ、みたいなのは」


「……いや、うん、確かにいるね。まあ、それは違うけどね。他人が見れる場所に投稿する事になるんだし、配慮して当然。それに正義を騙って揚げ足取りたがるというか、攻撃対象を探しているような連中もいるんだしね」


 ちなみにウチの高校だと、その末路みたいな授業をやるからね。


 SNSで安易に他人を誹謗中傷して炎上した末路を追った授業だったり、お店で悪ふざけした結果数千万レベルの損害賠償を求められたりっていうのもそうだけど、匿名性から犯罪に繋がった事例とかもだね。


 普通の学校とかでもやってたりするのかな。

 というか、やるべきだよね、実際。

 そんな一時の悪ふざけで人生終了するかもしれないんだから。


「ところで、凛音お嬢様。ジェムプロもようやく撮影テストが完了したようです」


「お、そうなんだ。大変だったみたいだけど、どうにか落ち着いたんだね」


 向こうの事務所にお邪魔して、今日で一週間が過ぎているのだけれど、その間にテストという形で4回ぐらいカメラ貸したもんね。


 起動可能時間がそこまで長くないからっていうのもあるけど、ユズ姉さんいわく、どうやらエフィからジェムプロメンバーにカメラの話が伝わったらしく、私もやりたいとメンバーが事務所に集まったようで、大変な事になったらしい。


 テストもかなり幅広く行えたらしいので、クオリティは非常に高いものをできそうとの事なんだけど、問題は……。


「ただ、やはり撮影場所で苦戦しているようですね」


「うん、そうだろうね」


 やっぱりそうなったかぁ。


 もともとの3D配信における背景は、基本的にはめ込み――つまり、実際に存在しない空間をCGで生み出したものでしかない。

 一方で、魔道具カメラは実際に映した映像が変化しているという代物だから、背景はそのまま映し出されちゃうんだよね。

 じゃあ一方で、背景をCGにしてそこにVtuberの映像を嵌め込むとなると、それはそれで浮いて(・・・)しまう。


 ジェムプロの3D配信は、アイドルとしての活動もあいまって歌配信というか、アイドルのライブのような歌を歌う配信が多い。

 アリーナのような空間で歌っていて、ファンのように見せた人影がサイリウムを振ったりなんて事もしていて、本当にライブが行われているように見えるし、映像クオリティも高く満足度の高いショーとして成立している。


 それが、今回の魔道具技術によってモデルだけのクオリティが上がってしまうとなると、途端に安っぽい合成映像に見えてしまう。

 バランスが取れないってなると、どうしてもね。


 そうなると、実際に撮影スタジオで設営、撮影した上で魔道具による幻術を利用して溶け込ませるっていう手間が必要になるんだけど、Vtuberとして今まで配信をしていたジェムプロに、本当の撮影用スタジオ設営のノウハウはないもんね。

 

「――そこで、お嬢様」


「ん?」


「篠宮家の人間を使って、専用スタジオを作ってはいかがでしょう?」


「……なんて?」


「箱については凛音お嬢様に城と同様に建設していただきたいと考えているのですが、舞台装置の設置、機器設定等も篠宮グループの専属従業員が行う、Vtuber向け新技術対応専用撮影スタジオを作り、運営しようかと」


「……え」


「スケールの大きいものですが、正直、そういったところで出費をしておかなければカメラの利益が大きすぎるのです。であれば、いっそ撮影機器レンタルと専用スタジオ経営という形で、この技術での撮影においては我々が牛耳ってしまった方が良いかと」


「……ふむ、なるほど……」


 確かに、それができるのであれば凄い事だけれど……ちょっとスケール大きすぎない??


 いや、でも。

 改めて整理して考えてみると、別に悪くはない、のか。


 要は大きな箱とステージ、撮影場所を作って、オブジェとして魔法の対象になるような模型、クッション、椅子やテーブルなんかを設置できるようにしておく。

 それらを先方の要望に合わせて魔法の対象にして、設置してしまえばいい。


 ジェムプロがCGでライブ会場を作ったりイベントの企画部屋なんかを作っているけれど、要するに最初から魔法をかける対象にした背景、大道具や小道具さえ用意しておいて、先方に作成したCGを共有してもらえれば投影自体は難しくない。


「……普通の専用スタジオを作るよりもずっと安く済むし、悪くはないか。でも、レイネや私がいちいち術の調整しなきゃいけなくなるよね? いちいちそれに構っていたら大変だよ?」


「その辺りは、篠宮の人間に洗脳……げふん、最新機器だと言い切って対応させるように致しますのでご安心を」


「安心できないワード(洗脳)が出てきてたんだけど??」


「気の所為でございます」


「いや、しれっと答えているからって「そっか、気の所為か」とはならないんだけどね。でも、実際にそれやるとしたら洗脳とまでは言わなくても、何か仕掛けを用意するっていうのは必要になるかぁ……」


 椅子から立ち上がって伸びをしてから、ばふん、とベッドに飛び乗って枕に顔を埋める。


「うー……、いっそ魔法広めちゃえれば手っ取り早いのに」


「いくら許可を得ているとは言え、さすがにいきなり広めるというのはなかなか難しいかと」


「分かってるよーぅ」


 魔法を広めるにしたって、そもそもこの世界の人間が魔力にどれだけの適正があるのかもいまいち分からない。

 多分、今この世界で無理やり魔法や魔力を公表したとしても、個人で扱ってそれなりと言えるレベルに到達するのは、きっと孫や曾孫というような世代になるまでは無理だろう。


 もっとも、それでようやく前世の一般人レベルに追いつけるかどうか、というところが関の山だろうけれど。


 いっそラノベみたいに魔物とかを生み出すようなダンジョンとかが生えてきて、世の中を強制的に魔法や魔力、魔物というものに馴染ませるような事態が訪れるならばともかく、あんなレベルの天変地異を引き起こして世界の法則を捻じ曲げるような真似は、いくら魔王であった私でもできないし。


「そこで凛音お嬢様、更に提案がございます」


「んー、なーにー?」


「明日、凛音お嬢様の御友人に魔法を見せ、憶えさせるというのはいかがでしょう?」


「…………は?」


「明日、御友人と遊ぶ予定だったはずです。つきましては早速魔王城に転移魔法で招待し、実は魔法が使えると教えてしまっては良いのではないかと」


「いやいやいや、待って、ちょっと待って。さすがにそれは性急というものじゃない?」


 さらっと提案されたけれど、さすがにそれはいきなり過ぎる。

 慌てて枕から顔をあげて制止した私の顔を見て、レイネは無表情のまま僅かにきょとんとした表情を浮かべて、そのまま小首を傾げた。


「そうは言いましても、あの少女たちならすでに凛音お嬢様がそういった力を使える事に気が付いておりますが?」


「え……っ。いや、それはなくない?」


「いえ、気が付いています。もちろん、魔力や魔法というものが本当に存在するのかは半信半疑という印象ではありますが、凛音お嬢様が何か超常の力を持っているという事ぐらいは、まず間違いなく。実際、すでに力の片鱗を見せているではありませんか。私と再会をしたあの日に」


「……あー……、まあ、それはそうだけど……」


「ですので、恐らくこの世界で、最も魔力や魔法というものに驚かない人間は、まず間違いなくあの3人かと思います」


「いやいやいやいや、そんなこと言われた事ないし……」


「それはただ、言葉を呑み込んでいるだけかと思われます。隠したがっているなら無理に暴こうとしない、ただそれだけの事でしょう」


 ……いや、さすがにそれはないでしょ。


 …………ないよね……?





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