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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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【配信】重大発表 Ⅰ





『待機』

『重大発表とはなんぞ??』

『最近配信頻度減らしてたし、そろそろ増やしてくれてもええんやで』

『引退じゃなければなんでもいい』


 サムネイルは特に黒背景に白字で文字を書くとかでもなく、配信頻度を下げている間に描き続けた素材絵に文字を入れたもの。自室に戻って作業して、ついでレイネが用意した夕飯を食べて戻ってきて、と忙しなく準備を進めて時刻は20時前。

 配信枠の待機中画面を見れば、すでに1500人前後の視聴者が待機していて、思い思いにコメントを投稿しているのが見えた。


「配信画面はタブレット浮かしてればいいかな」


「今後は篠宮家所有の複数の建物から回線を引っ張り、配信用回線と画面確認用回線、ゲーム用回線といった使い分けもできるように致します。その際には大きなモニターをこちらに設置いたします」


「すっごい贅沢な回線の使い方だね」


「配信者にとってラグはストレスです。負荷を分散できるなら、それに越した事はありません。それに、この城内で余す所なくWi-Fiを飛ばす事も考えれば、いずれにせよ回線は複数あった方が良いかと思っておりますので」


「……まあ、うん。それはそうなんだけどね」


 配信で遅延が発生して切断されるのは論外だし、ゲームでの回線にラグが発生すれば満足にゲームを楽しめない。そういう意味では複数の回線を使って別々の回線から繋ぐっていうのは、配信者としては悪くない選択なのかもしれないね。

 そこまでしなくても、建物の構造や立地で通信速度がしっかりしていれば気にする必要はないと思うけどね。


「その内、魔導人形にスタッフ的な役割を持たせるのも良いかもしれませんね。複数のカメラを設置して、シーン毎にカメラを切り替えたりというような事もできる方が良いかと」


「もうテレビスタジオとか映画スタジオとか、そういうレベルになりそうだね」


「イメージとしてはそちらに近いかと。もっとも、魔道具化したカメラはテレビカメラのような大仰なものではありませんが」


 そう言いながらレイネが亜空間に手を突っ込んで取り出したのは、長方形の箱のようなしっかりとしたカメラだった。横の部分に液晶がついて、先端に大きめのレンズと遮光フードがつけられ、手持ち用のスタビライザーまでついている。

 業務用を家庭用にしました、みたいな見た目だ。すごい。


「篠宮家の関連会社で作っているビデオカメラで、配信者向けに販売しているものです。これの内部に魔法陣を組み込み、動力源となる魔石代わりの代物を封入しております」


「魔石代わりになるものなんてあるの?」


「はい」


「はいはいはーいっ! わたくしめも知っておりまする! みやび様直伝の勾玉(まがたま)でございますればっ!」


 しゅばっと手を挙げて答えてくれたのはロココちゃんだ。

 ほへーっと私たちの話を聞いてお行儀よく座っていたんだけど、知ってる話題になった途端にこの反応。子供っぽくて可愛い。


「勾玉ねぇ。そんなものに魔力を封じ込められるの?」


「幻術程度の魔力ならば可能です。ただ、どれだけ効率化しても連続使用で4時間程度が限度となりますので、レンタルする際は使用時間に注意を促す必要はありそうですね。リハーサルから本番の時間を考えると、ほぼギリギリになるかと」


「確かにギリギリだね……。魔力が切れた途端に中の人が映るとか?」


「いえ、魔力が切れた時点で電源が落ちる仕様となっていますので、配信そのものが途切れる形になりますね。ですので問題はないかと」


 それなら安心だ。

 私とかレイネの場合は見たまんま現実と変わらないから、もしも顔が映ったとしてもあんまり問題はないと言えばないんだけど、Vtuberには色々な人がいるからね。

 ほら、ボイスチェンジャーを使って美少女モデルを使っているバ美肉おじさん的な人とかもいるらしいし、尻尾とか頭頂部の耳とか、そういうのがある人もいるし。


「あれ、でもこれ、すでにVtuberとしての活動している人とかのモデルの顔とかはどう読み込むの?」


「3Dモデルデータをこちらの内蔵HDDに取り込んでもらった後で、こちらのネックレスをかけてもらえれば、ネックレスをかけた者をモデルで読み込んだ姿で映し出します。最大で5人まで読み込めるようになっています」


「おぉ、すごいね」


「モデルが登録されていないままですと、背景と同様に本人の姿を3Dモデル調に改変した姿が映る、という形になりますね」


「へー」


 ネックレスはペンダントトップにロケットのついたアンティーク調のものだった。

 多分この中に魔法の対象を指定させる陣が書いてあるんだろうけれど、さすがは呪系統魔法を得意とするレイネ。対象者を指定させる為にそういう〝繋がり〟を考えるとは。


 でもまあ、このカメラを使ってVtuberデビューするってなると、キャラクター性とかを考えたらちゃんと3Dモデルを作ってもらう必要があるだろうなぁ。

 現実の自分の顔を3Dアニメモデルみたいに幻術かけたって、やっぱり自分自身にとってみれば自分がベースになって3Dモデルっぽくなっているように見えるだけで、Vtuberならではのキャラクター性とかは生まれないからね。

 そういうのがいらないなら、最初からVtuberじゃなくて普通の配信者をすればいい。


 そう考えると、このカメラを世に出したからってイラストレーターや3Dモデルの制作会社とかフリーランスとか個人事業とか、そういう人たちの仕事の幅が減ってしまう事はないかもしれない。

 ジェムプロとかクロクロとか、他にもすでにVtuberとしてデビューしてファンもいるって人なら、敢えてこのカメラを使う為にゼロからやり直す、なんて事をしたりもしないだろうしね。


「わ、わたくしめはもでる? というものを作っておりませぬ! このままでよろしいのでございまするかっ?」


「んー、どうせ幻術で顔もアニメ調になるし、出しても問題ないならそのままでいいと思うよ。あ、顔を隠したいならお面を被っててもいいけど、どうする?」


「ダメという事はございませぬ!」


「あ、いいんだ」


 神使とかいう立場な割に、意外とそこに細かな拘りみたいなものはないんだね。


「では、ロココさんの頭の横に仮面を斜めに被せておくような形はどうでしょう? 服装も巫女服ですので、そういうキャラクターに見えるかと」


「あ、確かにね。ゲームとかのキャラでよくあるやつだよね、狐面斜めにつけがちなアレ」


 何故かお面を斜めにして頭の横に避けてるやつね、あるある。

 あれってなんかオシャレに見えるよね。

 ロココちゃんの服も巫女服だし、普通にオリジナルのモデルと言い切れるだろうね。


「では、お嬢様。配信開始時間が近いので」


「はいはい、っと」


 謁見の間の隅っこ、カメラには映らない位置に開いた転移門の向こう側にあるデスクトップパソコンと無線接続してるマウスとキーボードを操作して、オープニングを流して枠を開始。


「よし、枠開けるよー。ロココちゃん、ピンマイクオンにして」


「ほぇ? あ、えとえと……光りましたっ!」


「じゃあ、バルコニーで待機しててね」


「かしこまりましたでございまする!」


 トトトっと駆け足でバルコニーに向かっていくロココちゃんを見送って、配信をスタート。


「――待たせたの、臣下ども」


『ばんわー!』

『え? え??』

『ちょっ、フル3D配信?』

『え、なにこれ。表情めっちゃ自然』

『ファーーーwww』

『どうなってるんだ、これ!?!?!?』


 コメントをちらりと見てみれば、阿鼻叫喚。

 いつもの挨拶もなく普通にオープンしたと思ったらいきなりコレ(・・)だもんなぁ、とか思いながら自分の映った配信画面を映してふわふわと中空で漂っているタブレットに目を向ける。


 美麗な3D動画というものだと、一般的にリアルさというか、人間らしい見た目になっていく。その一方で、Vtuberという存在はアニメチックなモデルだ。

 人間に近い3Dであるか、アニメに近い3Dであるか。

 処理の重さだったりはこの際関係なく、Vtuberというジャンルは必然的に後者であるが故に、背景なども含めて全てが〝そちら側〟にあるように見えなくては違和感が生じる。


 タブレットに映る私の姿は、普段のモデルよりも可動域が大きいおかげもあって、真っ直ぐ下ろしている髪がするすると肩から落ちれば、同時に映像の中の私の髪も自然とそう動く。

 現状、Vtuber業界の3Dでは『靡いているように見えるように動かす』という事はできるけれど、『本当に靡く』という事は起こり得ないのに、だ。


 だからこそ、コメントはお祭り騒ぎだった。


『ちょっ、髪! 髪の毛ヤバ!』

『陛下ちょっと髪ファサァってして!』

『いやいやいや、どんな映像技術なんよこれ』

『すっごw』


「髪がヤバいとか失礼な言葉に聞こえるんじゃが。妾の毛根が守備を薄くしたみたいに聞こえるのやめい。髪ファサァ? ん? あっ、あー、こういう感じかの?」


『は????』

『一本一本しっかりと映ってるww』

『最新の技術ってこんなすごいの?』

『最新の技術でも無理だぞ、こんなんw 実写やんw いや、モデルだけど実写? 訳分からんくなってきたw』

『こんな風にモデルの髪に一本ずつに設定なんてできないってw』

『何が起きてるんだ、これ!?』


 おぉ、混乱してる混乱してる。

 タブレットを見てついついニヤニヤしてしまうけれど、それだけでも表情が自然に笑みを浮かべている点等にも指摘が入り、現実的考察視聴者と単純感動視聴者の阿鼻叫喚のコメントが流れていた。


「さて、告知にある通り重大発表があるんじゃが……」


『いや、これだろw』

『3D配信が重大発表なんじゃないの?w』

『見れば分かるやろw』

『いや、というか3D配信を告知なしでやるヤツおる?w』


「ん? いや、この3D配信については別に重大発表でもなんでもないぞ。単純に新技術をテストしておるだけじゃもん」


『だけじゃもんって、あなたねぇw』

『わっといず新技術??』

『こんな技術があるなんて聞いてないんだが?w』

『そもそもこんなんいくらかかってんだよ……w』

『さすがメイド持ちリアルお嬢様?w』

『どんなお嬢様なんだ、マジでw』


 うん、驚くのも無理はないって私も分かってるよ。

 視聴者のみんなの気持ちはよく分かる。

 でも、これについてはしれっと表に出すっていうのが私とレイネの方針だからね、あまり細かく説明するつもりはないんだよね。


 ともあれ、そんなコメントを一瞥してから玉座の間で立ち上がれば、レイネがすっと横に移動して私とバルコニーに続く窓が映る位置取りつき、それを確認してからパチンと指を鳴らしてバルコニーの窓を開ける。

 それと同時に、ぴょっこりと顔を出したロココちゃんがこちらに向かって小走りに近づいてきた。


『いや、3D配信でそんなに遠くから来れるってどういうこと??』

『何あの小さい子』

『っていうか立ち上がった時のドレスの動きとか、3Dっぽさがないんだがw』

『巫女服ロリ!?』

『ちょっと走り方かわいいw 腕が斜め後ろでぴたっとなってる』

『子供?』


へーか(・・・)! もうわたくしめもそれに映ってよろしいのでございます?」


「うむ、というかもう映っておるぞ。ほれ」


「おぉっ、そうでございまするっ? わっ、ホントに映っておりまする! へーかへーか、わたくしめが板に映っておりますればっ!」


「タブレットを板言うでない」


『え、ちっちゃw』

『ございまするとか、古風な感じなん?』

『何この子かわいいw ぴょんぴょんしとるw』

『いや、そもそも浮いてるそのタブレット、掴めるんかいw』


「おぉっ? あ、レイネさまレイネさま、このお目々が見ているところが映っているのでございましょう? わたくし、近づけば大きく映るのでございますか?」


『ロリっ娘アップきちゃ!』

『まつ毛とか眉毛とか、まばたきの感じとかもすっごw マジでこれ3Dなんてレベルじゃないだろw』

『かわいいw』

『可愛いbot湧いてんでw』

『目くりっくりだなw』

『というかカメラマンがメイドさんなのかw』


「レイネよ、おぬしもこっちに来い」


「いえ、私は撮影を……ロココさん、ちゃんと陛下のところに戻ってください」


「レイネ様も一緒に映りましょう!」


「いえ、それは……」


 いや、台本ガン無視しちゃってるね、ロココちゃん。

 これはあれだ、台本の意味がそもそもよく分かってなかったのかも。

 私も私でサムネイル作ったりでバタバタしてたし、面倒見てあげる暇なかったからなぁ……。


 私を陛下と呼んだりするのはレイネに教わったんだろうけど、台本通りに進めるっていうのは無理そうだし、こうなったらやりたいようにやっちゃおうかな。


「くくくっ。レイネ、構わぬ。カメラなんぞ魔法で浮かせておけば良いだけの事じゃ。おぬしも映ってやれ、ロココのお誘いを無下にしてやる事もあるまい」


「……はあ。かしこまりました」


『お、スタッフ他にもおるん?』

『メイドがおるんやからセバスチャンぐらいおるやろ』

『おらんやろ、セバスチャンはw』

『執事と言えばセバスチャンだもんな、なんでか知らんけど』


 いや、セバスチャンなんて執事はさすがにいないんだけどね。

 という訳で、誰もいない事をアピールする意味も込めて、レイネが手に持っていたカメラを浮かせて私の手の中にすっぽりと収め、レイネとレイネに向かって手を伸ばしているロココちゃんに向ける。


『は?』

『陛下にカメラが突っ込んだ!?』

『いやいやいや、3Dライブでカメラ反転とかどうなってんだよw』

『しかもメイドさんしかいないじゃんw』

『カメラ今投げ渡したの?w そんな事するか?w』

『待って、カメラ揺れてるし、これ陛下笑っとるやろw』

『意味が分かんねー!!!!』


 タブレットを見れば再び濁流のように流れるコメントの数々。

 その盛り上がりぶりと困惑ぶりがどうにも可笑しく思えて肩が揺れてしまい、その揺れでカメラも微かに揺れていたのか、私が笑っているのがバレてしまった。目ざとい。






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