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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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Q.ここはどこ? A.無人島です




 夏は暑いものだけれど、それも人里離れた自然の溢れる森の中ともなれば、アスファルトからの反射熱がないだけ幾分かはマシなのだろう。

 気持ち涼しめの風が木々を揺らしながら吹き抜けていくのを魔力障壁を消して感じようとして――やっぱりすぐ魔力障壁を張り直す。


 うん、ダメだわ。暑いもんは暑いんだよ、うん。

 ほら、涼しく過ごせるのに無理して熱中症になったら身も蓋もないしね。

 虫もいるし。


「……? お嬢様、いかがなさいましたか?」


「魔力障壁のありがたみを肌で感じたところだよ、文字通り」


「……なるほど……?」


 魔力障壁を解いてみて、数秒程でやっぱ無理ってなった私のアホな行動はレイネにはバレていないらしい。

 いや、別に知られてもいいし隠すつもりもないんだけどさ。


「ところで、レイネ」


「はい」


「……ここ、どこ?」


「篠宮家が所有する無人島です」


「へー……」


 うん、知ってたよ。

 知らない場所に転移魔法で連れて来られたと思ったら、見た事のない木々や植生だなぁ、なんて思ったもの。

 そりゃあ、日本で生まれてたかが17年程度だし、日本の隅々まで網羅している訳でもなければ、そういう知識を集めた覚えもない以上、ただただ私が知らないだけで色々な植生が存在していてもおかしくないけどさ。


 だから一応、ここがどの辺りなのか魔力を走らせて調べてはみたんだよ。

 スマホは圏外だけど、魔力を走らせれば、頭の中で俯瞰したように地形を確認する事ができるからね。




 そうして見えてきたのが……島、だったんだよね。




 三日月状の島で、白い砂浜もあって、やたら海も綺麗で透き通っている。

 中央部は背の高い木々の生い茂った自然豊かな……無人島だなぁ、って把握はしてたんだよ。


「今後はこの島全てを凛音お嬢様のVtuber活動配信スタジオにしようかと思いまして」


「は? Vtuber活動配信スタジオ? こんなインフラもへったくれもない無人島で?」


「ご安心ください。インフラについては転移門を設置致しますのでパソコンは当然LAN接続ですので遅延も発生しません。Wi-Fiだって飛ばす予定です」


「うわぁ……、めっちゃ自重捨ててるじゃん……」


 いや、別にできなくはないと思うよ?

 魔法を使えば距離なんて無視してウチからLANケーブル繋いで転移門を作って接続、なんていう事も難しくはないしさ。


「というかさ、こんな場所まで用意するのにVtuberとしてやる必要ある? これができちゃうならいっそ普通に顔出して配信者として無人島配信した方が話題になるレベルだと思うんだけど」


「確かにそれも可能ですが、この場所を利用するのはあくまでも凛音お嬢様のVtuber活動のためです」


「ほう、その心は?」


「この場所に、かつての魔王城を小さくしたものを建て、配信はゲームプレイでもない限りは常にフル3D配信を行っていただきたく」


「は? 城? フル3D配信?」


「外に出てバーベキュー配信をするのも、海で釣りを楽しむも良し。浜辺に出てコテージを作る配信等でも構いません。しかし、全て実際の映像ではなく〝新技術を用いた3D配信〟と銘打った形にて行います」


「……ちょっと待って。どういうこと?」


 そこまで話してから、ようやくレイネはこれまでの経緯を説明してくれた。


 どうやらレイネは私のVtuber配信を手伝っていくにあたり、活動の幅や限界があるであろう事を感じ取ったらしい。


 Vtuber配信は基本的にLive2D、もしくは3Dを使った配信だけれど、可動領域は指定され、設定されたものしか対応しきれない。

 かといって3D配信となると箱の中――スタジオの中で多方面に設置されたカメラで専用のスーツに取り付けたマーカーの動きを読み取り、それに合わせてモデルが動く、という形になる。

 技術の進歩によって滑らかな動きなんかも表現できるようになってきたけれど、結局のところ、モデルはモデルであり、風による髪や服の揺らめき等までは当然表現ができない。

 背景に至っては合成に過ぎないか、あるいはモデルだけが3Dで背景は現実のものとなり、当然ながら浮いて見えてしまう。


 こうした課題を突き詰めて、更に撮影の幅を広げてスタジオを建設しようとして、最先端の現代技術を詰め込んだとしても、数十億というお金がかかってなお表現には限界もあるし、自由度がそこまで高くなるとは言えない。


 ぶっちゃけた話ではあるけれど、私はこれ以上『現実世界との融合』という方面での技術進歩は難しいと思っている。

 それならばVRゲーム等のように視聴者、プレイヤーが3Dの世界に入り込んで目の前にいるように見える、という方向に進化していく可能性の方が高いのではないかと思っているし、その方が自然な流れであると思う。そう考える人も多いことだろう。


 でも、レイネはそういう私の予測とは真逆の方向に行こうという訳だ。


 現実世界の映像、被写体という名の配信者を、幻術系統の魔法を仕込んで魔道具化したカメラを使い、あたかも3D配信をしているかのように見せかけるという方法を使って、現実をVtuberのテリトリーに引きずり込む、という方向で融合させるつもりらしい。


「――これにより、飲み物を飲む、食べ物を食べるという事も可能になり、表情も多種多様になり、服装もまたその時々に着ているものを着た状態で配信できるようになります」


「それってつまり、ジャージ着て寝っ転がってポテチ食べるとかを配信できちゃうってこと?」


「……できますが、オシャレできるとかそういう方向に思いを馳せていただけると」


「ごめんて」


 いや、ついね。

 オシャレに着替えれるーとかって考えよりも、飲み食いと着替えができるってなってついそっちの方を思い浮かべちゃったんだよ。


「しかしまあ、はっちゃけたね。現代科学技術じゃできないものだし、どうやってやってるんだー、なんて騒動になるんじゃない?」


「基本的には先程も申し上げた通り、〝新技術を用いた3D配信〟とさせていただきますし、もちろん魔法を堂々と公には致しません。しかしご懸念の通り、独占していてはいらぬ敵を作る事になってしまうかと思いますので、ゆくゆくは魔道具化した箇所をブラックボックス化した状態でリースを行う、専門の会社を立ち上げます」


「おー、なるほど。でも、それでもしリースしたものを破壊して解析しようとしたりされて、科学技術じゃ無理だなんて結論に至って、偶然にも魔法を使っている事がバレたら?」


「問題ございません。その時は魔力と魔法という存在を世間に出してしまってもいい、と言われておりますので」


 おー、そこまで確認取れてるんだ。

 だったら安心……って、ちょっと待った。


「確認が取れてるって、誰から?」


「この世界の神の一柱に、です」


「…………殺してないよね?」


「……凛音お嬢様。いくら神族に思うところがあるとは言え、全く異なる世界の神族にまで私が手を出すとお思いなのですか?」


「そんなのレイネだもん、勢い余ってころ……さないとは思ってるよ?」


「信用されてなさそうなのですがっ!?」


「冗談だって」


 まあ、さすがにいくらレイネでも、ね。

 それをやるっていうのはつまり、事件の被害者が加害者である人間を恨むどころか、人間という種族そのものを恨んで殺す、みたいなレベルの発想の飛躍というヤツだしね。


「いや、それにしても凄いね……。そんな事ができちゃったら、文字通りVtuberの世界が大きく変わると思うよ。うん、面白そうだね」


 それで配信して掴みが良さそうなら、場合によってはジェムプロのメンバーとか巻き込めないかユズ姉さんに相談してみるのも面白いかもしれないしね。

 そんな事を考えながら頷いていると、レイネが少しだけ困ったような表情を浮かべてこちらを見つめた。


「ただ、それを行う上で一つだけ条件を提示されておりまして……」


「条件? 別に呑めない相談じゃないならある程度はレイネの裁量で受けていいよ?」


「ありがとうございます。凛音お嬢様ならそう仰ると思っていたので、こちらとしても受けてしまってはいいかと思いますが……、今後の凛音お嬢様の活動にも関わってくる事になりますので」


「私に関わること、ね。うーん、確かにそうなると、私の判断が必要って、そういう事だったの?」


「はい。ですので、実際にお会いしていただく方が早いかと思いまして」






「――レイネ様っ、お待たせいたしましてございまするっ! 不詳、ロココ、ただいま到着しましてございま――ぴゃああああぁぁぁっ!?」






 ……空間を揺らめかせて目の前に現れた巫女服を着た女の子。

 その子がにっこにこでレイネに話しかけていたと思ったら、急に私に気が付いて叫び始めたんだけど。







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