【配信】過去の記録
大会前から想定外の騒動に見舞われ、本戦一日目は順位ポイント、キルポイントで1位のチームとその他のチームの間に圧倒的な大差がついてしまった『OFA VtuberCUP』。
待機画面で配信のコメントを見ている私の目に映るのは、どうにも盛り上がりに欠けるというか、通常の配信と同じようなコメントばかりで大会を応援しようという空気は感じられない。
まあ、コメントを管理したりっていう『インフォーサー』、いわゆる『〆』マークがつくレイネがアンチコメントをさっきから凄まじい勢いで対応してくれている。
斜め後方で黙々と作業してくれてはいるものの、時折イラッとして魔力漏れてるし、見なくても大変なのは分かる。あとで労おう。
だから呪いを飛ばそうとするの自重して??
さっきからちょくちょく私が打ち消してるんだけど、それ人に当たったら死ぬよ??
《――さあ、波乱の一日目が終わって今日で二日目となりましたが、ミウさん。どうでしょう、この展開》
《そうですねー……。私の昨日の試合に対する感想だけ言わせてもらうなら、完全に喰われた、というところですねー》
《喰われた、ですか。これはまた凄い表現が出てきましたが、どういう事でしょう?》
《ふふ、昨日の試合――いえ、今大会は完全に『魔王の宝石』チームがダークホースとして大暴れしていますからねー。特にヴェルチェラ・メリシスさんの狙撃能力でこれまで定石とされていた、全員が中距離から近距離戦闘に持ち込む戦い方が完全に食い破られているなーと。時雨さんもそうは思いませんか?》
《なるほど、確かにミウさんの仰る通りですね。今回この大会に注目をしている視聴者の皆様方はすでにご存知かと思いますが、今大会において何かと注目を集めているチームと言えば、やはり『魔王の宝石』です。ジェムプロがついに参戦し、そのメンバーとして参加する事になったまさかの個人勢、魔王様ことヴェルチェラ・メリシスさん。彼女の狙撃能力は凄まじく、つい先日もOFAの公式案件でもその実力を披露していましたね。そんな彼女に既存の戦い方が通じていない印象はありますね》
《そうなんですよー。さらに安定感、チームワークに定評あるジェムプロのエフィールさん、リオンさん、スノウさんが見事に連携していて、どうにか接近してもなかなか崩れませんからねー。見事に初日を完全に制していましたねー。チャンピオンも2試合とも獲っていましたから》
《えぇ、その通りです。この『OFA VtuberCUP』は2種類のポイント合計で一日2試合、全3日間で6試合をこなすのですが、チャンピオンで15ポイント、2位で12ポイント、3位で9ポイント、4位で6ポイント、5位で3ポイントとなる順位ポイントの加算と、1キルあたり1ポイントのキルポイントで加算されるというものになっています。その一日目を終えた段階で、『魔王の宝石』チームポイントは脅威の63ポイントですから》
《改めて見ると凄まじいポイントですね……。二試合連続チャンピオンで、しかも1試合あたりの16キル。この数字はそうそう出せませんねー……》
クロクロのVtuberと解説役のeスポーツのプロプレイヤーが実況と解説で待機時間を繋ぐ中、やはりというか話題となったのは私たちの事らしい。
まあ、無理もないと言えば無理もないけどね……。
総合スコアランキングの2位は19ポイント、3位は14ポイント。1位の私たちとの差はあまりにも大きいし、他に盛り上がるような話題はそうそうないだろうし。
《私らの話題で盛り上がってるなぁ》
《ウチらさいつよだかんなー!》
《ん、でも一番はヴェルちゃん。昨日でキルポ21はすごい》
『それはそうw』
『スナ武器でこの数字はすごいよなw』
『さすがの魔王』
『でも最高1試合で23キルってあったよな』
待機画面を映しながらの雑談中、エフィ、リオ、スーの3人からは終始リラックスした様子の会話が聞こえてくる。
ジェムプロとしての初参加。
有名な箱であって知名度も高い分、その双肩に重く期待がのしかかるはず。
しっかり爪痕を残さなきゃいけないっていう気負いが多少なりともあったのだろうけれど、初日で大きなポイントを取れたおかげで昨日よりも声色も幾分柔らかい。
まあ、注意して聞けば分かる、という程度の差ではあるけど。
「なに、妾だけがどうこうできる訳でもないからの。エフィやリオ、スーがしっかりと詰めるからこそ隙が生まれ、妾が撃てたという場面も多かったしの。キルポイントは確かに妾が稼いだが、妾だけが活躍した訳でもあるまい」
『まあ、それでもワイだったらドヤるわw』
『フォローとかサポートって数値化しないから分かりにくいもんな』
『その辺もポイントになればいいのに』
『アシストポイントはあるけど、それってキルされる寸前に入ったダメージに対してつくだけだしな』
スコアとして可視化するにあたって、一番分かりやすいのがキルポイントだ。
一応アシストポイントっていうのもつくけど、もともと大会ではそこは加点されないというのが一般的らしい。
なんでも、このアシストポイントだけを狙って遠距離から一発だけ当てたりっていう形で稼ぐプレイが一時期は結構多かったそうだ。せこい。
「大会の1試合あたりの最高キル数が23というコメントがあったようなんじゃが、誰か知っておったかの?」
《あ、それウチ知ってる! 見たよ! NoXさんってプロの人!》
「ほう、そんな人がいたんじゃな」
『ノクス知らんのか、陛下』
『世界ランキングの一桁常連やぞw』
『へー、すごい人いるんだ』
『ちな日本人な、ノグ◯』
『ノ◯ソやめーやw』
『野◯事件か……悲しい事件だったね(失笑)』
『そこにおるぞ、野◯事件の加害者であるエフィがw』
「何やらコメント欄がおかしな方向に行ってるようじゃが……エフィ、ノグ――」
《――ちょっ、まっ! ヴェルちゃん、それ以上はいけないっ!》
《華のJKから聞きたくない単語だよなー……》
《……エフィはともかく、JKとか関係なくあまり聞きたくない単語だと思う》
「いや、おぬしらの方が言っちゃいかんじゃろ、アイドルであろうよ」
《《うぐ……っ》》
「……なんか二人ばかりからおかしな声が聞こえたんじゃが……」
『陛下の言う通りなんだよなぁw』
『まあ、ジェムプロはアイドル(イロモノ)だから……』
『アイドル()』
『コイツら普通に下ネタ言うからな。いまさらよ』
え、そうなんだ。
ぶっちゃけたまに配信観るぐらいだからそういう下ネタとか言ってるイメージないんだけど。
《――っ、そ、それよりヴェルちゃん!? そのノグ……げふん、ノクスさんの記録がどうかしたのかなぁ!?》
『ごまかしが苦し紛れにも程があって草』
『あまりにも苦しい言い訳』
『俺でなくとも見逃さないね』
『さすがにそれは無理よw』
うーん、ここはツッコミを入れて盛り上げていきたいところなんだけど、もうすぐ待機状態終わって試合開始になりそうだし、ここは突っ込まない方がいいかな。
とりあえず後で調べておこう、うん。
「……ま、良かろう。なに、一試合で23キルという記録があるかを確認したかったんじゃが、それが最高記録という事で良いのかの?」
《あ、ハイ。……えっと、そうだね。私が見た限りでもあの23キルが記録ではあるよ。まだ『OFA VtuberCUP』の2回目の大会だったと思うけど、そこで出された記録だね。だから今もそれが出せるかっていうと微妙ではあるかな?》
「うん? どういうことじゃ?」
《アプデで色々変わったんだよね。あの頃って今よりバランスも酷かったしね》
『まあ当時はOFAがそこまで流行ってなかったってのもあったが』
『プレイヤーテクニックも今に比べればまだまだ荒削りだったしな』
『あとは能力バランスもな。当時は特攻ショットガン最強だったけど今は妨害スキルとかもあるし』
『比較的スコア取りにくくなった今の大会でノクスがいくつキル穫れるのか、ある意味知りたいけどなw』
ふむふむ、なるほどね。
エフィの答えを聞いた上でコメントを見た感じ、一概に今と全く同じ状況では言えないけれど、一応は認められた記録って感じなんだね。
それでも1試合23キル、ねぇ……。
「なるほど、では妾はその上をいくとしよう」
《……は?》
《え……》
《……ぉぉー》
『え?』
『マジ?w』
『さすがにそれはキツいだろw』
『いや、陛下の変態スナイプならワンチャンいけるかも……?』
『でたww』
『こーれ赤っ恥かくやーつww』
「さて、これが妾のただの大言壮語であるかどうかは試合を観ておれば分かるであろうよ。じゃが、せっかく記録があるというのなら、それを塗り替えてやるのも一興というものであろう。なあ、臣下どもよ。そうは思わぬか?」
『いや、それはそうだけど……』
『やってから言えよw』
『ビッグマウス草』
『いっそやってくれw その方が盛り上がるw』
《ま、マジで記録塗り替えようって言ってるの……?》
「うむ、マジじゃ」
《冗談かと思ってたぞー?》
《ん、大量キル狙うって聞いてはいたけど……》
「なに、せっかくもう抜けないだろうなんて言われておるような記録があるならば、それを超えてやった方が面白いじゃろう?」
『おぉぉぉっ、やったれー!』
『大量キル狙うとは言ってたんかいw』
『優勝狙いはもう狙えそうだし、いっそそれぐらいやっちゃえ!』
『いやー、さすがに厳しいと思うけど……』
『それでもやれたらかっこいいわw』
『陛下ならやってくれそうな気がするw』
すでに裏でエフィ達はもちろん、ユズ姉さんにも蹂躙目的で暴れるつもりってことだけは伝えてはあった。
だからエフィ達も初耳という訳ではないけれど、達成してから「実はそういう目標があった」みたいに言うとでも思っていたのかな?
さすがにそんな予防線は張らないよね。
実際、今日は蹂躙すると決めていたんだし、そのついでと考えれば面白い企画だ。
「エフィ達にキルを譲れとは言わんから安心せい。妾が勝手に挑戦するだけじゃからの」
《……えっと、ホントに協力しなくていいの?》
「うむ、遠慮はいらんぞ。妾は妾で狙うだけの事じゃからな」
《……うん、分かったよ。リオ、スー、遠慮はいらないってさ》
《ふっふっふー、了解! でもさぁ、それ、ウチらがヴェルちゃんよりキル獲ってもいいってことだよなー?》
《ん、負けない》
「くくっ、構わんよ。ただ、敵を漏らさなくとも文句を言うでないぞ?」
《ははっ、上等だよ》
《おう!》
《ん、本気だす》
『なんかおかしな方向で盛り上がってきたw』
『マンネリ化するよりはよっぽどいいw』
『エフィ、がんばれー!』
『スーちゃんやっちまえー!』
『リオ、テンパってデスるなよーw』
『陛下の枠なのに陛下以外への応援コメばっかで草なんだが』
《――準備が整ったようですので、試合開始します!》
賽は投げられる。
プレイヤーの画面が暗転して、私たちはランダムなポイントへと飛ばされて――――。
《――さあ、第2夜第1試合が始まりました! 早速ですが、『魔王の宝石』チーム。スポーン地点近くの箱を順調に開けていってますが……? ……ッ、ああぁぁぁーーっと、これはまさかの展開!? これは『魔王の宝石』チーム、非常にツイていない! 魔王ヴェルチェラ・メリシスの代名詞とも言えるスナイパーライフルが見つかりませんッ! ――どうなる、第2夜! 魔王の快進撃、早くも躓いたか!?》
――――後に観た切り抜きではこの試合の立ち上がりに対し、実況を引き受けている時雨さんのそんな声が響き渡っていた。
Tips:ノ◯ソ事件
様々なライバーが一つのサーバーに集結してクラフトや殺し合い、販売を行える某ゲームにて。
草むらに隠れたNoXを後方から見つけた他の配信者が「あ、ノクスいるじゃん」と発言。
しかしゲーム上あまり品質の良くないゲーム内VC音質だったせいか、エフィはその声を「え、野◯してんじゃんって言った!?」と空耳。
突然の発言にエフィが慌てて声の方向に振り返った結果、草むらでしゃがんだNoXのキャラが見えて「ふはっ、ちょっwwwwホントそれっぽいwwwwしてるわ、あれwww」と爆笑して酸欠になった切り抜きがバズってしまった悲しい事件。
そのせいでそのゲーム中はもちろん、その後もNoXはノ◯ソと呼ばれるようになった。




