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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
56/201

決意

 チーミングやらゴースティングやらでの炎上は、私が想定していたよりも大きな騒動に発展していた。

 レイネにも調べるのを手伝ってもらったけれど、モノロジーでもなかなかに大きな話題となって拡散されてしまっているらしい。


 正直に言うと、チーミングやゴースティングに対しては「くだらん」というだけが本音であって、こうも大きな騒動になるとまでは思っていなかったんだよね。

 不正とは言っても所詮は本戦ではなく練習マッチでの事でしかないし。


 そもそも私たちが倒されたのは、チーミングやらゴースティングやらとは関係のないところだからね。遅れてやって来た他チームによる急襲が原因だったし。

 弾薬と回復アイテムが両方とも枯渇気味だったから、まあ不正のせいじゃない、とも言い切れないかもしれないけど。


 配信の終わり際には、どうやら主犯格と思しきTrust999とかいう人が叫んだりもしていたせいか、彼らが諸々に関与していた事はすでに視聴者たちに知れ渡りつつあったみたい。


 エフィやリオ、スーはジェムプロの方針に従って不正行為には触れない事にしたらしいけれど、私に対しては当然ながらジェムプロから指示を出せるはずもなく。

 ただ一応ユズ姉さんにどこまで触れていいか、どうして欲しいか等は確認してある。


 結果、分かりやすく言えば「罵倒したりしないのであれば自由にしていい」というものだった。


 現在は今回の騒動における渦中の人物――つまり、江籠カルゴとかいうVtuberやTrust999とかいうプロゲーマー、それと組んでいたもう一人のあまり知らない箱にいるVtuberは参加権限を剥奪。他にもチーミングに積極的に参加した配信者やプレイヤーから参加権限を剥奪する事になるだろうというのが主催元であるクロクロと、被害者であるジェムプロ間での話の方向で話を進めているらしかった。

 ただ、そうなるとチーム数がかなり足りなくなってしまうし、練習期間も取れなくなるからスケジュールを組み直すという話にもなるのではないか、とのこと。


 ともあれ、私はこれらの動きを「昨日の今日で大変だなぁ」なんて他人事気分で見ているだけだったりする。


 私みたいな個人勢ならリスケしたって問題はないけれど、箱として各種イベントや案件を抱えている箱のVtuberや、大会を控えているらしいeスポーツのプロとなると話が変わってくる。

 そのため、話し合いはそれなりに難航しているらしい。実際、『Connect』のチャットもエフィやリオ、スーがスケジュールについて話していたりしているし。


 というかエフィもリオもスーも、私、個人勢ぞ?

 同じ箱じゃない相手がいるのに堂々とイベントのスケジュールとか堂々とチャットで話し合うの、どうかと思うよ?

 ユズ姉さんもそれを怒ったり窘めたりもせずに堂々と答えてるけど、大丈夫?

 疲れて判断できてないんじゃない?


「なかなかに難航しているご様子ですね」


「まあ仕方ないんじゃない? 大会は明々後日からの予定だったのに、このタイミングでこんな騒動が出ちゃったんだし」


 お昼を食べてゆったりとした食後のひととき。

 レイネが淹れてくれた食後のコーヒーを口にしつつ、珍しく日中に忙しなくチャットが動いている『Connect』のサーバーを一瞥してから肩をすくめた。


 配信から明けて今日は日曜。

 今年のゴールデンウィークは月曜と火曜が平日で、水曜からゴールデンウィークが始まるんだけど、その初日が1日目の本番だ。


 ちなみに明日と明後日も私はお休み。

 ユイカとトモ、それにこのみんも明日と明後日は仕事やら旅行やらで休むらしいので、私も休む予定だったりするので、9連休の真っ只中なんだよね。


 もっとも、ユズ姉さんから聞いた話から察するにこのままスケジュール通り行えるかと言うと、まあ難しいは難しいだろうね。


「しかし……この世界はやはり凄まじいですね。情報の伝達の早さは段違いです」


「そうかもね。前の世界(・・・・)じゃこんな便利なものなかったしね」


 インターネットでいつでも手軽に世界中の情報が手に入るというこの世界に対して、この世界の自分としての自我と溶け合うような形になった私とは違って、レイネにとっては未だにどこか慣れない様子であるらしい。


 レイネ、気をつけてね。

 私とレイネの「便利な世の中になったのう」っていうのは、お年寄り世代のぼやきに近いものがあるから。

 言わんけど。


「今回の騒動も、これだけ注目されているからこそ相手に批難の声が向けられているのでしょう。注目度も高く、期待されていたとも言えますね」


「さて、それはどうだろうね」


「……? 違うのですか?」


「こういう騒動で声を大にしている人間は、期待という程の大きな気持ちなんて抱いていない連中だよ」


 本当に期待して楽しみにしていたり、或いは推しと言えるような相手が楽しみにしていて、楽しむ姿を見たいと思う人間ならば、今回の騒動に対しては怒りこそ覚えても「早く解決してほしい」としか思わないのが大多数だろうからね。

 せいぜいモノロジーでお気持ち表明をする程度で、いちいち誰かを攻撃したりはしないんじゃないかと私は思ってる。


「騒動を大きくしているのは、『正義』に酔い痴れて騒いでる連中だけだよ」


「『正義』、ですか?」


「そう。目の前に分かりやすく明確な『悪』がいる。『悪』を叩いている自分は『正義』だと『自分の立場(・・)』だけを正当化して、正しい言葉や意見で包み込みながらも「『悪』を叩いた」という事実で鬱憤を晴らしているだけって連中が大多数。被害者側の気持ちを代弁しているかのように振る舞って耳障りの良い御託を並べるのもいるけど、本質は一緒。所詮は赤の他人で無関係な問題だから綺麗事を吐いて得意になってるだけ。褒められたもんじゃないね」


「あぁ、なるほど。確かにあちらの世界にも、そういう存在は一定数存在していましたね」


 炎上なんてものは目につくかどうかの違いでしかなくて、そういう連中の声がどうしたって目に付きやすく、届きやすいというだけの話でもある。

 こういう話題のネタとして使いたがる配信者もいるみたいだし、堂々と配信内で小馬鹿にしたような言い方をして視聴者の賛同を受けているような配信者だっているけど、実際のところ、そういう事をしている人間ほど騒動そのものには興味はなかったりする。


 だからこそ、無遠慮に物事を口にする事ができてしまうんだろうけどね。さっさと終わってほしいって思ってる当事者たちの事なんてお構いなしに。


 まあ、全てに配慮しろなんて土台無理な話だ。

 折り合いをつけてインターネット社会と付き合っていくしかないし、こんなの言い出したらキリがないからレイネにもそこまで話すつもりはないけど。


 そんな連中はともかく。

 騒動が大きくなったのか、それとも私に矛先を向けたいのか。私を批難してる声もちょくちょく出てるんだよねぇ、これが。

 そもそも私がチートを使っていて、それを暴こうとする為にしょうがなかったとかなんとか、前提から間違ってるものを、さも正しいかのように言ってる始末だ。


 なんというか、自分の物差ししか見えてないというか、視野が狭いというか、浅いというかちっちゃいというか……うん。


 運営が否定コメントを流した時点で完全に私のチート疑惑騒動は終わったものと考えていたし、それを今でも疑いたがる相手の為にこちらがわざわざ動いてもキリなんてないと思って放置していた。

 言いたいなら言わせておけばいい、っていうのは確かなんだけど……さっきからレイネがちょくちょく魔力を漏らしてるし……。


「……はあ。乗り気ではなかったけれど……チート疑惑はさすがに晴らした方がいいかな」


 主に私が叩かれる要因を減らすというより、レイネを暴走させないために。

 それに、ジェムプロと組んでいてここまでの騒動になった以上、それで大会でいい成績を収めてもチートだのなんだのと騒ぎ続けられてもエフィ達に迷惑かかるかもしれないし。


 チートっていうのは忌むべき行為だ。

 ゲームという、お金をかけて提供してもらえる環境のバランスを壊す。

 使っている本人は楽しいかもしれないけれど、超人的な技術を使っても「チートなんじゃないか」という疑いを抱いてしまって素直に称賛もできなくなり、やる気を奪い、ゲームの寿命を著しく低下させる。

 だったら損害賠償ぐらい請求してもいいと思うけどね、そういう行為には。


 ともあれ、私にそういう容疑がかかっているせいでエフィやリオ、スーのがんばりを無下にされたら面白くないのもまた事実。

 3人は忙しい中でも凄く頑張ってるしね。


 ちらりと『Connect』を見やれば、エフィとリオ、スーのスケジュールの調整で手間取っている。

 そこに加えて他の箱であるクロクロを含めた外のVtuber達のスケジュール都合も考えて調整しなくちゃいけなくなる。


 現実的に考えて、それはなかなか難しい。

 練習期間、練習時間の捻出、スケジュールの都合、他の仕事との兼ね合い。

 バカな真似をしたメンバーのせいでそれらを飲み込んで調整するともなれば、苛立ちも増えるだろうし、これを機に何年かに亘って行われてきた『OFA VtuberCUP』の歴史も幕を下ろすかもしれない。


 それらをどうにかする方法、かぁ。

 

 ――実は、あるにはあるんだよね。

 ただまあ、それを私がすれば、色々なものを抱え込まなくちゃいけなくなる。

 それだけの事をしてまでやる理由があるのかと言えばなかったりもする。


 Vtuberをやっているような人にはとても言えないけれど、そもそもVtuberとしてそこまでの思い入れもなく、飽きたら辞めればいい、ぐらいの感覚でしかないふわふわとした存在、それが私だ。

 そんな私だからこそできる方法があるけれど、私の性分がそれ(・・)をやってしまった以上はもう後戻りはできないというか、他ならぬ私自身が引く事を認められなくなってしまう。


 なし崩し的に始まった、魔王としての記憶を取り戻した瞬間から始まったVtuber活動。

 期せずして人気が出てしまい、大手のVtuberとコラボさえしてしまったけれど……心のどこかで、私は深く思い入れを持たないように一線を引いてきた。


 理由は単純。

 Vとして生み出された私が、どうしようもなく前世の自分だったからだ。


 今生において生きる『滝 凛音』ではなく、どこまでもかつての魔王『ヴェルチェラ・メリシス』という存在と近い……いや、見事にそれそのものだった。


 だから、心のどこかで不安だった。


 前世の()が大きすぎて、()が大事にしているお母さんやユズ姉さんという大切な家族すらも軽視してしまうのではないか、と。

 自分が自分じゃなくなってしまうような()の感情を守ろうとしていたんだと思う。


 そんなちょっとしたセンチメンタルな線引きというか、十代女子の悩みというか。

 そういうモノをわざと(・・・)残そうとしてきた。


「いかがなさいましたか?」


 ふと思考を巡らせている私にレイネが声をかけてきたので、私も改めてレイネを見つめた。


「……レイネは変わらないね。昔からこうして私の傍にいる」


「それが私ですから」


 何故少しドヤっているのかはともかくとして。

 すとん、とレイネの答えがなんだか引っかかっていたものを取り除いた気がした。


 ――うん、そうだね。

 凛音として生まれ育ち、魔王としての自我を思い出してみたところで、結局のところ本質なんてものは変わらないのだ。


 環境が、経験が人を育てていき、形成していく。

 この平和な世界に生まれ、育ち、自我を持った私であったとしても、過去の膨大な時を生きた経験や記憶が、私を普通の十代女子らしいものとは引き離してしまっているけれども。




 ――――結局、見ないフリをして放っておくのは気分が悪いと思ってしまう程度に、()()で、私なのだ。




 だったら、わざと()で在ろうとしていてもしょうがない。

 私が箱に所属していたら周りに迷惑がかかったかもしれないけれど、私は個人勢だし、多少ヘイトを買ったところで痛くも痒くもないし。




 ――――私らしく、やってあげようじゃないか。




「……ふふっ、悪くないね。レイネ、少し頼みを……――レイネ?」


「……ぁ……、す、すみません! 少し、呑まれてしまいまして……」


「呑まれる……? なにそれ、体調悪いの?」


「いえ、そうではありません。――なんなりと、ご用命ください」


 何やら熱っぽいというか、頬を紅潮させているように見えるけれど……まあレイネが大丈夫だと言ってるなら大丈夫なんだと思っておこう。


「右腕として、交渉……というか、マネージャーみたいな感じをお願いしたいんだけ――」


「――お任せくださいっ!」

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