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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
53/201

【配信】悪意には、悪意をもって Ⅲ

「さすがにジェムプロに上を取られると辛いから、今回はセントラルタワーに行こ。先にあそこを押さえておきたい」


《だなー。魔王サマのエイムがマジでシャレにならねぇし》


《これまでの試合でもセントラルタワー狙いなのは明らかだしな。今回は先に取ろうぜ》


《はぁ~い》


『盛り上がってきたw』

『チート潰せーw』

『他のチームもセントラルタワー行ってるっぽいな』

『え、激戦になるんじゃね?』


 敢えてヴェルチェラ・メリシスを警戒したからこそセントラルタワーに行く選択をしたのは自然で、当たり前だと言いたげに会話をする。

 トラストさんがなんだかニヤニヤしているような物言いに聞こえるけど……この人は元々そういう喋り方だし、気にしてもしょうがない。


 元々、私達のチームは試合中はあまり口数が多くない。

 トラストさんが『Connect』で指示を出していても視聴者が違和感を覚える事もないだろうし、『証拠が出ない』んだからバレっこない。


 ――やっと潰せる。

 そう考えただけで、さっきから心臓がうるさい。


 心臓が早鐘を打つ。

 何故か口角があがって、視界が狭まっているような奇妙な感覚を味わいながらも、私たちはセントラルタワーに向かってじりじりと進んだ。


 ちらりと『Connect』の流れを確認すれば、もうすでに他のチームも待機しているとか、向かっているとか、ジェムプロチームを見つけたなどの色々なチャットが流れているのが見える。

 こちらも武器や回復アイテムの入っているボックスを拾うフリをして時間を調整しているけれど、うん、充分色々揃った。


『――入ったぞ、ジェムプロ』


 トラストさんのチャット。

 確実にタワーに入って行ったのを確認したんだろう。

 内部を登っている間は外が見えないし、今の内に詰めないと。


《んー、他のチームもセントラルタワーに向かってるみたいですねぇ~》


《魔王サマに登らせる訳にはいかねぇっすから。あそこのチーム自由にさせるとヤベーんで》


《そうですか~? 今なら他のチームを狙ってキルポイント稼ぐっていうのも手かと思いますけど~?》


 ――……ッ、余計な事を……!

 思わず舌打ちしそうになって、眉間にピクリと力が入る。


 クロクロの水無月サツキ。

 彼女は今回の『チート潰し』の背景を知らない。

 余計なものを見つけてしまったらしいけれど……このチャンスを逃したくない。


 ――トラストさんさえいれば、チートは暴いてやれる(・・・・・・)のだから。


 普段からこの『OFA』のプロとしてプレイしているトラストさんは、スポンサーでもある『OFA』の運営からゲームマスター権限の一部として、『チート判定用ツール』というゲームマスター機能を使う拡張ツールを渡されているそうだ。

 それを使っていると、プログラム上で不自然な動きをした場合に判断でき、ログ解析を即座に直接運営に要求でき、結果としてクロであれば、即座にチート利用者のBAN――アカウント停止処分に追い込む事ができるらしい。


 もちろん、こういうツールを渡されている事は公にはされていない。

 私だって今回こうしてあのヴェルチェラ・メリシスを潰すために組むまでは、そんなものがある事だって知らなかったし。


 第1試合と第2試合は使えなかった。

 というのも、トラストさんが持ってる拡張ツールはあくまでもトラストさんのプレイ画面内での挙動から判断するものであるらしく、撃った瞬間に画面上にその姿が映っているか、トラストさんが直接撃たれでもしない限り判定できないらしい。


 だから敢えて早めに負ける事で他プレイヤー視点であのチームの挙動の洗い出しに力を入れていたんだ。

 ゴースト視点でも『チート判定用ツール』が動いてくれればいいのに、他者視点だとラグの影響もあるせいで働いてくれないというのだから、便利なんだか不便なんだか。


 それにしたって――屈辱だ。


 この私が、他の雑魚プレイヤーのプレイでキルされなきゃいけなかったなんて。

 それもこれもチート女のせいだ。

 絶対後悔させて、二度と表に出て来れないように潰してやらなきゃ気が済まない。


 ともあれ、そうやってようやく準備ができたっていうのに、水を差されては堪らない。


「サツキ様。練習戦だし、せっかくだから魔王様と戦いましょうよ。私、魔王様の魔王エイム見てみたいですし」


《ん~……、そうですか~。わかりましたぁ~》


 良かった、素直に従ってくれて。

 相手は大手のVだし、私みたいな個人勢の意見なんて聞いてくれるとは思わなかったけど、今回クロクロはランダム助っ人要員としてメンバーを派遣してくれているからか、チームの方針にはあまり口を挟むつもりはないらしい。


 大手のVとコラボなんて、正直に言えばおいしいというよりも面倒くさい。

 ファンが多いせいで変に注目を浴びかねないし、そのせいでアンチが出てきたりでもしたら厄介過ぎる。

 だから当たり障りなく接しているけれど、この人はおっとりしてるし口数もそこまで多くないから、私達が裏でやってる事を変に怪しんだりはしてないはず。


 せいぜい私達の身の潔白を証明してもらえばいい。

 ま、もうすぐチートを使ってるって事がバレて向こうは大恥をかく事になるし、私達が裏でチートを暴くために結託したって気付かれても、私達が間違っている訳じゃないんだからどうとでもなる。


 そんな事を考えて再び『Connect』に目を向けてみれば、幾つかのチームからすでに待機している旨の報告チャットが入っている事に気がついた。


 動き出すタイミングは――と、そこまで考えたところで。

 ズダンッ、と銃声が鳴り響いた。


〈ヴェルチェラ・メリシス >> 津島 厳吾郎〉


《――チッ、逃がすな(・・・・)! いけいけいけぇッ!》


《祭りだあぁぁッ! あ、やべ、誤爆った!》


 トラストさんとアストさんが声をあげると同時に、アストさんが手榴弾を上空に投げて爆発させる。

 わざとらしいけれど、これが突撃の合図だ。

 私たちのチームを先頭にセントラルタワーに向かってあちこちからプレイヤーが駆け出した。


 牽制の一発、ロケットランチャーから飛んできた一撃が、前を走るストツーコンビの近くに着弾する。

 でも、弾速も遅く遮蔽物もないこの場所で、そんな正直な一撃があの二人に当たるはずもなく、地面に当たって黒煙を舞い上げるだけに留まった。


 それと同時に後ろに置いてきたチームがセントラルタワーの上部にいるジェムプロのプレイヤーに撃ち返す。

 あちこちからセントラルタワーの上に向かって伸びた銃弾の光の軌跡。

 堪らずといった様子で上にいた連中が引っ込んだ。


 いける。

 今ならセントラルタワーの足元に到着する。


 あとはトラストさんがヴェルチェラ・メリシスを見つけて、誰かを無理な場所で撃って殺せばいい。

 それだけでチートの証拠が取れる。


 ――完全に、潰してやれる……ッ!


『お、他チームがカバーしてくれてんじゃんw』

『普通に考えりゃカルゴとかストツーとか撃たれると思ったんだが』

『なあ、これやってね?w』

『上取られてるから先に上どうにかしたんじゃね?』


 ――そこまで考えた、その時だった。


《――カルゴッ、右に飛べ!》


 突然聞こえてきた声に咄嗟に右に向かって飛ぶ。

 まだトラストさんはヴェルチェラ・メリシスを見つけていないはず。

 今私が死んだら、犬死にするだけ。


 そんなの絶対、許容できない……ッ!

 あのチート女にキルを取られてたまるものか!


 怒りにも似た感情に任せて、いつもよりも強くキーボードを打ち込んで右に即座に飛び、そして……――何も、起きない……?


《ははっ、ざまぁ! 外しやがった!》


「……ぇ……?」


 ……何を言ってるの?

 だって、こっちには弾痕だって何もないのに……。


《見つけたッ! うっし、撃ってくるぞ! アスト!》


《おう!》


 遠くで一瞬聞こえた大きな銃声。

 スナイパーライフルの銃声が聞こえて、トラストさんが声をあげた。

 という事は、アストさんが狙われたという合図で、それに当たるために避けるなという指示でもある。そうする事でチート判定ができるからだ。


 だからアストさんは返事をしながらただ真っすぐ走って――でも、銃弾は一切飛んで来なくて、ただただそのまま、走るだけの奇妙な時間が生まれた。


 そこで再び、銃声。


〈ヴェルチェラ・メリシス >> あめーばP〉


《……は? え? こっちは……?》


《……トラストさん……?》


 ――……来るはずなのに来ない。

 トラストさんの合図が間違っていたというだけなら、まだ分かる。


 でも、すでにヴェルチェラ・メリシスはトラストさんの視界に入る位置にいるはず。

 それが遮蔽物に隠れた位置であったとしても、チート解析は可能だという話だった。

 他がキルされた表示だけが出ている。

 という事はチートであると判断できるはず。


 なのに――なんで、何も言わないの……?


 思わず誰もが声を失った、その時。

 ズドンッ、と再びスナイパーライフルが銃声を奏でて。


〈ヴェルチェラ・メリシス >> 江籠 カルゴ〉


 私の画面がキルされた表示になると同時に流れた、ログ。


 ――やった。今度こそはかかったはず。

 だってすでにトラストさんはセントラルタワーの向こう側にいて、ヴェルチェラ・メリシスを視界に入れているし、こちらをキルしたという事はチートを使ったと判定される。


 キルされたのはムカつく。

 でも、そんな事は今はどうでもいい。


 くたばれ、ヴェルチェラ――――


《――……ぃ》


《トラストさん!?》


《ねぇんだよ、表示がッ! なんでだよ! 今のしっかり映しただろうが!》


 ――――……え。


 堂々と叫ぶなんて何考えてるんだとか、口止めしようとか。

 止めようとか言う暇もない。


 チートだって暴いてやれる条件は揃っている。

 トラストさんがすでに接近していて、しかも他のキャラを撃っているなら間違いなくチートだって表示されるはずだった。


 追い詰めた、と思った。

 チートなんて卑怯な真似をしている卑怯者。

 たかが数ヶ月程度で、私のこれまでの頑張りをあっさりと抜いた卑怯者の正体を暴いて、叩き潰してやれる、と。


 きっとここまでで私達のチーミング疑惑だって露呈してる。

 ゴースティングだって、さっきからトラストさん――いや、トラストのバカのせいでバレてると思う。


 ――だけど、私達は正義(・・)だから。

 正義(・・)を見せつけ、示して、卑怯者を叩き潰せるなら、それは不正なんかじゃないでしょう?


 だから私達は悪くない。

 私()、悪い事なんてしてない。


 そう思って追い詰めたのに……――これは、な、に……?






 ――銃声が続いて、画面右上のログが次々流れて――






〈ヴェルチェラ・メリシス >> 雌熊 アスト〉

〈ヴェルチェラ・メリシス >> ぐわぁーっ〉

〈ヴェルチェラ・メリシス >> 水無月 サツキ〉






《フザけんなッ! 判定外チートか!? そんなもんあるなんて聞いてねぇぞ! クソが! ここなら――》





 なんだかどこか遠いところで叫んでいるような、トラストさんの声が聞こえていたけれど……それどころじゃなかった。




 ――……チートじゃ、ない、の……?

 ――……じゃあ、私、は……私達は…………?







〈ヴェルチェラ・メリシス >> Trust999〉







《――……は? おい、なんでだよ……なんで俺が殺されたのに何もチート判定出ねぇんだよ!? なぁっ!》


 ――まるで嘲笑いながら蹂躙するかのように、戦いは一方的に撃ち殺されて幕を下ろした。

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