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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
50/201

【配信】あぶそりゅーと・べろ

「――今日はエフィとリオ、それにスーとコラボでな。それぞれの視点で枠を取っておるから、好きに見ていけば良い」


『陛下視点は外せない』

『大丈夫、4窓してる』

『エフィと陛下で安定』

『4窓とかいう猛者おって草なんだが』


 OFAはランダムマッチと呼ばれる全世界から同時にプレイしているプレイヤーとマッチングして対戦するというものなのだけれど、大会で行うのはカスタムマッチという、決まったメンバーをそれぞれのチームに振り分けて行う、いわばプライベートモードみたいなもの。

 ルールを決めて身内で戦う為のもの、というところかな。


 私が参加する事になった『OFA VtuberCUP』はゴールデンウィーク初日から毎晩22時から試合が始まり、全3日間に渡って行われる。

 1日2試合をこなして、対戦時のキルポイント、生き残りの順位ポイントを加算して優勝者を決める、というものになっている。


 今日こうして配信するのは、大会まで時間もかなり迫っているので、各チームも集まり、足りない分は視聴者参加という形で模擬戦が行われる事になったから。

 それぞれのチームは基本的に参加者と空いた枠に同じ箱のVtuberであったりコーチを入れての参加という感じなんだけど、私たちはフルメンバーだね。


《チーム、『魔王の宝石』! 勝つよ!》


「いや、その名前で決定なのかの? まるで妾がリーダーみたいになっとるんじゃが。オーダー役はおぬしじゃろ、エフィ」


《そりゃオーダーは私が出すけどさー。ヴェルちゃん魔王だし?》


《魔王は誰かの言うこと聞いたり、頭なんて下げないもんなー》


《ん、それでこそ魔王》


「解せぬ」


 いや、言うこと聞かないって事はないよ。

 ないったらないよ。ないよ、うん。


 まあ魔王として生きていた頃は簡単に下げていい頭ではなかったし、頭を下げるような相手がそもそもいなかったのは事実だけど、今はそうでもないし。

 別に私が非を認めたところで国や臣下が責任を負うような事態にもならないからね。


「……陛下が頭を……? なら、いっそ相手を……」


 ……配信に声が乗らない程度の小さな声で、ぼそっとレイネが呟く。

 うん、どうも今生においても頭を易易と下げてしまうのは良くないらしい。


『まあ魔王サマだからな』

『とは言え陛下、OFAまだ初心者なんよ』

『初心者とは思えないキル数出してるけどな、いつも』

『魔王だからってチートも許されるんですかー?w』


 次々流れるコメント。

 以前までは公式が私の配信中にチートを否定するコメントを打ってくれて、それが切り抜きになって出回ったりもしていたから私をチートだのなんだのという言い方をしてくる人間はいなかったけれど、どうもチート発言する人が増えてきたように思える。


 ふと脳裏を過ぎる、ユズ姉からの情報。

 どうやらあのエスカルゴだかなんだかって人の配信は、それなりに影響を与えているらしい。

 おかげで、私のコメント欄で今度は私を擁護しようとするコメントまで出てきてしまって、なんだか一部が妙な盛り上がりを見せている。


 うーん、別に言い返したりコメント欄で言い争うなと釘を差しておいた方がいい気もするんだけど、こういう場合はあまり触れない方がいいってユズ姉さんからも言われてるんだよね。


 まあしばらくは静観……レイネの魔力を打ち消すだけにしておこう、うん。


《げ、今日プロもいるじゃん……!》


《お? プロってどれだー?》


《『あぶそりゅーと・べろ』のチームにいる『トラスト』さん。OFAの公式大会の上位チームプレイヤー》


《あっ、ホントだ!》


 凄い名前だね、『あぶそりゅーと・べろ』。

 ゼロじゃないんだ。

 絶対味覚、とか?


「上手いのかの?」


《メチャクチャ上手い。突っ込んで来るタイプ》


《アタシ、あの人の動画めっちゃ見てるぞー》


「ほう、エフィだけではなく、スーとリオまでそこまで言う程か。それは凄そうじゃの」


『トラストはヤベェ』

『知らんのかーいw』

『チーターと撃ち合って勝ってたからな、トラストw』

『有名な動画はチーター狩りしたヤツだな』


 流れるコメントでも名前が知られている辺り、かなり有名なプレイヤーである事は間違いなさそうだけれど……それにしてもチーター狩り、ねぇ。


《チームは……あー……、江籠カルゴさんのトコかぁ。あそこのコーチってトラストさんじゃなかったよね?》


《違うはずだし、フレンド枠なんじゃないかー?》


《多分そう。組んでるの見たことある》


『アストとトラストでストツーだっけw』

『ギリギリセウトw』

『あの組み合わせって、チート狩りの時にメンツじゃんw』

『魔王ざまぁ見れるんじゃね?w』


 おー、そうなんだ。

 というか視聴者の人たち、よく知ってるね。

 となると、単純に私がFPSに興味なかったせいで知らなかっただけの、結構OFA界隈では有名な話なのかな。

 コメント欄でも知らないって言ってる人いないし。


 そんな事を思っていたら、『Connect』のチャット欄が動いた。


『これ粘着されるかも。気をつけた方がいいね。あ、ヴェルちゃん配信で言わないでね、これ』


『ん、私もそれ思った』


『最近あの江籠カルゴってひと、ヴェルちゃんのファンとか言いながらわざわざ真似しようとして失敗する動画撮ってるもんなー』


 あー、なるほど。

 ユズ姉さんだけじゃなくて、エフィ達もどうやらあの江籠カルゴって人が私をどうこうしようとしてるらしい事は知ってるんだね。

 まあユズ姉さんから聞かされてるとかかもしれないけど。


『配信はこっちも見てるわ。みんな、なるべく触れないようにね。向こうの配信はウチもチェックしておくから、万が一おかしな動きがあったら抗議入れるわ』


 エフィ達のチャットに続いてユズ姉さんからもチャットが。


 これが企業を味方にした強さ……!

 ユズ姉さん、えげつない。


 とりあえずはこちらからも了解と返しておきながら、チームの振り分けに時間がかかっているのでちょっとした雑談を継続する事にした。


《江籠カルゴさんの名前見てるとさあ、なんかバケツいっぱいの貝料理思い浮かべちゃうんだよねぇ。知ってる?》


《それムール貝なら知ってる-》


《ん、私もムール貝でそういうのは見たことある》


《……え? あれっ!? エスカルゴじゃないの!?》


「なんか貝がバケツみたいなのにいっぱい入ってるっていうのはテレビで見た事があるのう。何の貝かまでは覚えておらんが……。レイネなら知っておるかもしれん。どうじゃ、レイネ」


「はい、陛下。おそらくはムール貝の白ワイン蒸し、ムール・マリニエールの事かと」


《メイドさんだ!?》


《え、いるの!?》


《VCはよ》


『クールメイドさんきちゃああ!』

『え、ずっと待機してたってこと?』

『ガチでメイドなのか……?』

『待機画面なのに盛り上がるw』


 レイネの声をマイクがしっかり拾ったみたいだけど……うーん、レイネの人気は凄いね。


「ほう、バケツに入れておるのか?」


「いえ、ココット型の大型鍋などを使いますのでバケツのように見える、というのが正しいところかと。ちなみにムール・マリニエールはフランス料理ですね」


「高そうじゃなぁ」


「いえ、どちらかと言えば大衆向けと言いますか、高級志向とは少々異なるかと。もしも興味があれば、明日にでもご用意致しますが?」


「大量にはいらぬが、少しぐらいなら興味はあるかの」


「畏まりました。では、フリットと一緒にご用意いたします」


「うむ、期待しておる。――すまぬ、ちょいとレイネに聞いておったんじゃが……何を黙っておるんじゃ?」


《いやいや、え、いや、えっ? ヴェルちゃん、メイドさんそこにいるの!?》


「うむ、おるぞ」


《え? 仕込み? なんで?》


「仕込み? いや、レイネじゃからな。基本的に妾の傍に控えておるぞ?」


《ちょっ、ちょっと待った、ヴェルちゃん! え、レイネさんってガチでメイドってこと!?》


「……? どういう意味じゃ?」


《いや、ほら、あー、えっと。こう、ほら……!》


《ん、設定じゃないってこと?》


《堂々と言った!?》


「あぁ、そういう事であったか。レイネは正真正銘、妾のメイドじゃ。料理もレイネがしてくれておる」


《本物!?》


『本物!?』

『メイドがいるとかどこの異世界転生w』

『メイドがいるJK……え、お嬢様じゃん』

『リアルメイド!』


 どこの異世界転生かと言われればここの異世界転生ではあるし、お嬢様かと言われれば、まあ定義にもよるけどお嬢様ではあるのかもしれないけどね。


 あ、でも前にピアノ演奏の動画をアップした時に、グランドピアノが映ったものだから豪邸なんじゃないかだとか、スタジオだろとかなんとか色々言われた事はあったけど、別にそこに対しては明言してなかったんだっけ。


「まあ実際にメイドがいるような家庭ではあるし、レイネは――……っと、試合が始まるようじゃな」


 逐一全てを教えてあげる必要もないし、教えて変に知らない相手から特定されたりするのも困るから答えてあげるつもりもないけど、少しぐらいなら……なんて事を考えながらどこまで話そうかと考えていたら、画面に『READY』とデカデカと表示され、チーム分け等が済んで試合が始まる合図が出て言葉を区切る。


《えぇーっ!?》


《ま、まだ話せる時間ぐらいあるはず!》


《ん、聞きたい!》


『えぇぇぇぇ!?』

『タイミングよ!』

『大丈夫だ、まだ話せる時間はあるはず!』

『続き! 続きはよ!』


 VCを繋いでいるエフィとリオ、それにスーからの声だけじゃなく、コメント欄までもが続きを促す似たようなリアクションで埋め尽くされたみたいだけれど、これ以上答える気はないんだよね。


「まったく、この阿呆共め。戦いに関係なかろう」


 そんな一言で今はそれ以上話すつもりはないと言下に答えてみれば、「ええぇぇぇっ!?」とVCとコメントが続いた。


 いや、別にいいじゃん、私のプライベートの話なんて。

 それよりも私、個人的に楽しみなんだよね。


 チート狩りだかなんだか知らないし、私はチートなんて使っていないけれどさ。

 私に戦いを挑んでくるというのなら、魔王として迎え討ってあげないと、ね?

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