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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第二章 謀略と魔王
45/201

【配信】レイネデビュー

「――待たせたの。魔界の女王、魔王ヴェルチェラ・メリシスじゃ。よくぞ来た、我が臣下ども」


『ばんわー』

『ははーっ』

『頭が高い、処す』

『処す?』


「開幕から処すだのなんだのと、随分と物騒じゃな、貴様ら……」


『魔王に引かれる物騒な臣下w』

『陛下の為ならば!』

『初見です、処します』

『猛者おって草』


 オープニング映像から切り替わり、自分の配信画面がしっかりと映っている事を別モニターで確認してから口を開けば、コメントが結構な勢いで流れていく。


 配信を始めてもうすぐ3ヶ月。

 最近はお母さんの妹であるユズ姉さんが働いている、Vtuberの業界最大手と名高い『ジェムプロ』の有名配信者と配信している事もあってか、チャンネル登録者数はずいぶんと増えてきている。


 いや、さすがに3ヶ月で30万人を超えてくるとは思わなかったよ。

 妾、個人勢ぞ?

 どこかの箱の期待の新人じゃないよ??


「さて、今日なんじゃが……貴様らにちょっとしたサプライズでもしようと思っての」


『お? 30万人記念配信まだー?』

『殿、25万人記念がまだでござる』

『10万人記念もしてなくね?w』

『なんか和風おったな』


「ふむ、記念をやるというのも近い内に考えるつもりじゃ。まあ、何万人記念だとか言っておってはキリが悪いからの。落ち着くまで待っておれ」


『あれ、サプライズってそっちじゃないんw』

『てっきり記念枠告知かとw』

『というか陛下、特に告知とかせんよなw』

『大々的にやる時は告知ぐらいしてくれてもいいのよ?』


 あー、確かに私って告知らしい告知ってしてないかも。


 ……いや、待って。

 たかが3ヶ月で何を告知しろと……?

 普通そういう告知とかするのって記念とかになるんだし、普通に個人勢で3ヶ月程度でそんな記念なんて滅多にできないと思うんだけど。


 ……ははぁん、この視聴者たち、『ジェムプロ』に教育されてる視聴者が多いね……?


「……まあ、記念枠としてやる時は告知するかの。ともあれ、今日は違うのでな。サプライズは別モノじゃよ」


『ア、ハイ』

『他にまたコラボとか決まった?』

『ジェムプロに移籍?』

『夏蜜柑〆:まさか……』


「んむ、という訳でちょいと待っておれ……ほっと」


 ぽちぽちと準備しておいたものを順番に起動していく。


 そこは私のデビュー当時に使っていたアニメーションと同じく、謁見の間。

 私がデビューした時は謁見の間の入り口から玉座に向かって歩いてくる臣下の目線を映していたけれど、今回は玉座に座る私の斜め後方上空から私を俯瞰しているようなシーンから始まる。


『は?』

『アニメ始まったんだがw』

『おおおぉぉぉ!』

『すげええええええ!』


 流れるコメントをちらりと見れば、視聴者もなかなかにいい反応をしてくれているらしく、ついつい頬が緩んでしまう。

 ふと視線を感じて隣を見れば、隣にいたレイネが何やら微笑ましげにこちらを見ていてついつい気恥ずかしさから乾いた笑いが漏れた。


 そんな中でも、アニメーションは動いていく。

 カツカツカツカツと硬質な床を踏み鳴らす靴音が遠くから聞こえてきて、その足音の主が画面の端に映ったところで、シーンは玉座に座る私の目線であるかのように瞬きをして、足元から胸元、そして顔へと向けられたものへと切り替わる。


《お疲れさまでございます、陛下》


 軽く膝を曲げて僅かに下げた頭、ひっつめ髪にした艶やかな黒髪は乱れる事もなくまとまっていて、見た目も所作も隙がないメイド服の女性が映し出された。

 次の瞬間には再びカメラが移り、今度は私が退屈そうに玉座に座ったまま肘をついている姿が映る。その表情はどうにも退屈そうで、やる気も覇気もない、どこかだらけたようにも見える。


《なに、そう疲れるような事はしておらぬ。かつてに比べれば今の世はまさに平穏過ぎて退屈なぐらいじゃ。それで、レイネよ。何用じゃ?》


《は。準備が整いましたので、その報告をさせていただきに》


《……ほう?》


 画面の向こうの私の顔が、ニヤリと面白そうに笑みを浮かべた。


『ふっつーにアニメw』

『陛下の声だよな? 棒読み感ないとかどういうことw』

『やべえ、何も考えずに見てた』

『これいくらかかってんだ……?』


 無粋な話題だね、まったく。

 お金なんて私の労力だけだからほぼゼロだよ。

 まあ、身体強化を少し使って普通の人間では不可能な速度で作業をしていたけれどね。


 お金と言えば、レイネ用の機材を揃える方がかかったぐらいだけど……何故かお母さんがノリノリでお金を出してくれたから私の出費は皆無に等しい。

 どうもお母さん、レイネの部屋の改装費だとかなんだとかがかからなかった事を気にしていたらしく、そんな中でレイネもVtuberをやるって話したら、嬉々として機材一式をわざわざ買ってくれたんだよね……。


《――くくくっ、では行くとするかの》


 玉座の肘掛けに肘をついて頬杖をついたまま、もう片方の手をくるりと回す。

 目の前の巨大な魔法陣――さすがにこれは本物の転移魔法陣ではなく、アニメーション向けに作っただけのもの――が展開されて、光が溢れ、画面が暗転する。


『普通にアニメにしてくれてもいいのよ?w』

『ちょっと見たいw』

『長編見たいw』

『夏蜜柑〆:クオリティがおかしい……おかしいよぉ……』


 コメントはなかなかに好感触。

 エフィのママ絵師さんが妙に悲劇的な感じで絶望しているかのようなコメントもあったりするけど、うん、気にしない。


 ともあれ、暗転した後で私とレイネのモデルが配信画面に映し出されたところで、再びコメントが加速した。


「さて、という訳で、じゃ。レイネのモデルと紹介用の導入ムービーのお披露目という訳じゃな。レイネよ、軽く自己紹介を」


「はい。偉大なる魔王陛下の侍女、闇竜魔人のレイネルーデと申します。以後お見知りおきを」


『うおぉぉぉっ! メイドさんきたー!』

『個人勢が個人箱という謎の展開w』

『さっきのメイドさん!』

『夏蜜柑〆:え、ねぇ待って? 実はずっと前から準備してたんだよね? ね? そうだと言って?』


「ぬ、エフィママがなんぞ嘆いておるようじゃが……あー、そうそう。実はずっと前――」


「――先日、私がお邪魔してしまってから急遽準備していただく流れとなりました」


「……のう、レイネ。妾、今、空気読もうとしたんじゃが?」


「はて、空気とは吸うものであるかと存じますが……。いつから読むものになったのでしょう?」


『草』

『メイドさん、陛下の気遣いをw』

『無表情でしれっとw』

『夏蜜柑〆:え』


「……レイネよ。お主、さては天然じゃな?」


「そのような事はございませんが。ただ、ただの人間に偉大なる陛下が気遣いをする意味を感じられないだけでございます」


「……そうじゃった、こういう事を平気で言うんじゃった……。いかん、すっかり忘れておった……。此奴をデビューさせて良かったんじゃろうか」


『おやおや?w』

『陛下よりもヤベーヤツ疑惑w』

『陛下至上主義w』

『エフィママどんまいw』


 ……あー……、すっかり忘れてたなぁ……。

 レイネがお母さんやユズ姉さんに対して普通に接していられるのは、そもそも私の関係者だからであって、その時点でレイネにとっては大切に扱うべき存在として見てくれる。


 けれど、その他に対しては違う。

 だからこそ鉄面皮だなんて言われていたし、平気でキツい事を言ったりするんだっけ。


 ……ま、いっか。

 私だって割と厳しい事を言ったりもしてるし。

 私以外とコラボするなんて事も特にないだろうし。




 ――――なんて、甘い考えだったのだ。





『エフィール・ルオネット〆:コラボ、しよ!』

『エフィww』

『獅子歌 リオン〆:しよ!』

『雪瑪 スノウ〆:しよ』





「……なんで毎回おるんじゃ、貴様ら」




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