エピローグ
ジェムプロ、クロクロを巻き込んだVtuber業界、映像業界を震撼させるような大イベントは、ネットニュースはもちろんSNSのトレンド、各動画媒体での紹介なども含めて、かなりの反響を呼んだ。
これに悔しい顔をする形となったのが、マスコミ各社とテレビ局。
あれだけの話題、騒ぎをネタとして扱うことは会社のお偉い様方のご意向によって禁じられ、しかし自分たちが圧力をかけて潰せるような業界でもない。
せめてもの意趣返しに、本人に対する脅迫など、いわゆる暴力団関係者などに協力を依頼しようとまでしたというのだから、笑ってしまう。
非合法な存在が非合法な手段を取ろうというのなら、私とて力を振るうことに否やはない。
そう考えていたのだけれど、そうなる前に芸能業界を支えるアンタッチャブルとも言えるような存在である篠宮家より、くだらない真似をすればどうなるかと警告が届いたらしい。
まあ、その篠宮家の当主が私に報告をしてくれているのだから、それは疑いようのない事実というか。
その程度で済ませていることに、むしろ「穏便に済ませてるんだね」という感想を抱いてしまう私だった。
ともあれ、そうして指を咥えて見ていることしか許されなくなったテレビ局やマスコミとは裏腹に、SNS上でも芸能界の女優、俳優の大御所が次々と新技術に興味を持っていると発信している。
気の早いところでは、早速撮影のための交渉にまで乗り出している芸能事務所も3つばかりあるらしい。
その内の1つは、言わずもがなお母さんのトコだ。
お母さんの大ヒットに続いて、次々と有名になる俳優を排出してきた、大手芸能事務所として有名な事務所である。
「――今、なんて?」
「だから、ゆずちゃんのトコとコラボスペシャルドラマを作ろうって話になってるのよー」
撮影ラッシュで出かけっぱなしだったけれど、年末ということで撮影も一時中断。
大晦日である今日になって帰宅したお母さんが、炬燵に入ってぬくぬくしながら脱力した様子で改めて説明してくれた。
実際の女優や俳優と、ジェムプロの2D、3Dで活動をしているVtuberが、同じ舞台で活動する。しかも、ワンシーンだけだったり、モニター越しだったりする訳ではなく、本当の意味での共演らしい。
「私たち女優や俳優が、2次元の世界に入り込んでしまうっていうストーリーのドラマなの。そこで、現実世界に向かって活動しているVtuberの子たちと一緒に現実世界に戻るために事件を解決するっていうストーリーのネットドラマね。凛音ちゃんの共演したクロクロっていう事務所の子とかも出てもらう予定よ」
……なにそれ観たい。
というか、それって芸能事務所的にはもちろん、Vtuber業界的には一大ニュースになるだろうし、新技術がそこまでできるという宣伝にだってなるのは間違いない。
新しい時代の到来を感じさせるような作品になりそうで、なんだかわくわくする。
「ちなみに凛音お嬢様」
「ん?」
「凛音お嬢様にも出演依頼がきています」
「え?」
「親子共演したいから私も原作に口出しさせてもらったわ!」
「えぇ……?」
いや、唐突にそんなこと言われてもさ。
「私、そういうドラマとか出たことないし、演技指導とかも受けたことないんだけど」
「それはこっちも考えてるわよ~。Vtuberの子たちには、あくまでも自然体というか、キャラクターの設定みたいなのがあるでしょう? それをそのまま使ってもらうから」
「つまり、凛音お嬢様は魔王ヴェルチェラ・メリシスその人として登場してもらう、という形になります」
「あぁ、そういう感じなんだ」
そういうことなら、まあ。
それにジェムプロもクロクロも演技指導時間は少なくて済むかもしれないしね。
演技は私も詳しくないけれど、キャラクター毎に背景や設定というものがあって、そういうものから形成された人格、性格であるからこそ物言いや反応なんかが変わったりもする。
人間がそうであるように、環境によって形成された人間らしい反応は当然要求される訳だし、たとえば、両親を目の前で殺された少年が「わかった!」って鼻水垂らして満面の笑みで返事してたら、そりゃあ違和感がひどい。その少年がサイコパスとかなら分からなくもないけど。
ともかく、役者という存在はそこを追求して演じきらなくちゃいけない。
演技の中にその背景を落とし込まなきゃいけない、とでも言うべきなのかな。
その点、私たちVtuberという存在は、キャラクター設定としてある程度は下地がある。
もちろん、配信の中で素が出てしまって「設定どこいった?」っていうVtuberは数多くいるけれど、それでも根底にあるのは間違いない訳だし。
「ねー、凛音ちゃぁ~ん。おねがーい。お母さんと一緒にやろ? ね? 面白そうって思うでしょう?」
「……まあ、それはそれで面白そうだからいいけど……」
「はい言質取った! レイネちゃん、録画したわね!?」
「バッチリです。早速、こちらの営業担当にも出演承諾と連絡しておきます」
「え」
「うふふふ、さすがね! 夢が叶っちゃうわねー! もうずっと凛音ちゃんと何かで一緒の舞台に立ちたかったんだものー。楽しみだわー!」
いつの間にやらレイネに協力を要請していたらしく、レイネもちゃっかりとスマホを手に持っている事に気がついた。
……これはアレだね。
もしも私が渋っていたとしても、どうにかゴネて出演させる気満々だったんだろうね。
別にそんなことしなくても、そんな面白そうな企画があるなら私だって普通に参加したのに。
「まあいいけどさ。それ、ウチの一期生の子たちは出れないの?」
「クール内で出る可能性もありますが、今のところは。実際、そういった事ができそうなのはリリシアさんぐらいになってしまいますので」
「あー、そっか」
元プロゲーマーのルチアさんと、引きこもり状態だったノアちゃんじゃ、さすがにスタッフやカメラの前で演技なんて難しいだろうね。
人見知りなキャラクターとしてならノアちゃんも出れそうだけど、セリフとかぶっ飛びそうだし……。
「でも、プロの俳優さんたちとかお母さんたちと演技も比べられたら赤っ恥かくのは間違いないだろうし、私も本格的に練習しなくちゃね」
「あら、凛音ちゃんは演技練習なんて必要ないと思うわよ? 台本のセリフを覚えるぐらいでいいんじゃないかしら?」
「え、なんで? あ、ちょい役って感じ?」
「そうじゃなくて、凛音ちゃんの場合、魔王様モードが堂に入っているもの。いつもの砕けた空気感じゃなくて、もっと王として振る舞うような空気を出すだけでいいわよ。それこそ、あの配信初期の最初のセリフみたいに」
あ、なるほどね。
配信っていうコンテンツである以上、私も普段は威厳とかそういうものは全カットしているけれど、そうではない状態――つまり、前世の魔王状態で接するような感じでやれば良さそうだね。
魔王としての演技という話なら、確かに私は今更な気もする。
そもそも魔王っていう立場として生活していたから、ある意味、毎日が魔王という演技をしていたとも言えなくもないし。
「分からないところとかあるでしょうし、細かな演技指導は私がやってあげるわね」
「……お手柔らかに」
そんな一言を告げた瞬間に、リビングにあるテレビの画面が切り替わった。
除夜の鐘を鳴らすお寺の映像と、この寒い中で早速とばかりに初詣に向かっている人たちが映し出されて、この一年間を振り返るようにアナウンサーの人が色々な出来事を語っていく。
今日は大晦日。
あと15分程度で、私にとっての激動の一年が終わりを迎える。
ちょうど一年前、私がまだ前世を――魔王だった頃のことを思い出す前。
私は自分自身を偽ってばかりで、家の中でも閉じこもりがちだったし、こうしてリビングでゆったりと過ごすようなこともあまりなかった。
お母さんも当時の私を見て色々と思うところがあって、あまり積極的には接しようとはしなかったし。
でも、そんな私がVtuberになる初配信の寸前で、前世を思い出して、混乱しながらも配信をした。
自分自身を受け入れて、胸を張って前を見て歩けるようになったおかげで、お母さんとも改めて仲良くなって、学校ではトモとユイカ、それにこのみんっていう友達ができた。
レイネと再会して、魔道具とか魔王城とか、ロココちゃんとかとも出会って、会社だって立ち上げた。
もちろん、他にも色々あったけれどね。
異界のダンジョンとか、議員がどうのとかさ。
けれど……うん。
いい一年だったって、改めて振り返ってみてもそう思う。
そして、これからの一年も含めて改めて忙しく、それでいて楽しくなりそうだな、とも思う。
だから私は、この一年のことを記録しておこう。
いつか、何年か経ってから、改めてこの記録を、この記憶を読み返せるように。
『転生魔王の配信生活』 了
お読みくださりありがとうございます、白神です。
以上で、『転生魔王の配信生活』は完結とさせていただきます。
一応この作品の後日譚なども落ち着いたら書くかもしれませんが、ここで区切りとさせていただきます。
正直言うと、この作品の連載中から身内が入院して実家に戻ったり、UIが大きく変わってなんだか非常に使いにくくなってしまったりで、打ち切ろうかと考えたりもしてましたが、どうにかゆっくりとですが完結まで進むことができたのも、応援してくださった皆様のおかげです。
改めて、ブクマ、評価、レビューなども含めて、応援ありがとうございました!
UIについては色々とやりにくいので、おそらく今後はこちらのサイトではなく「カクヨム」をメインに活動していくことになると思いますが、何かのきっかけでこちらでも書くかもしれません。
ともあれ、改めて応援ありがとうございました!




