姪と叔母
従来の3Dライブでも、今の技術はかなり進んでいる。
背景も含めた3D空間上でライブを行う姿は、本当に巨大なライブ会場でライブを行っているかのように見える。
けれど……やっぱり次元が違うなぁ、なんて思ってしまうのよね、新技術は。
『新衣装なんてレベルじゃなくみんな衣装どんどん変わるやんww』
『やば』
『ダンスキレキレ過ぎん?』
『服の裾とか腕の袖とか、もう実写やんww』
『すご』
『かっこいい!』
『こんなに変わるものなのか』
今ライブをやっているのは、ウチのタレントの中でもデビューして間もない新人の子だ。
彼女は小さい頃からヒップホップ系のダンススクールに通っていただけあって、リズムに合わせたキレや細かな動きのレベルは凄まじく高い。
素人である私――滝 楪――の目から見ても判るぐらい上手いし、キレキレだ。
そういえば、ウチのダンスレッスンの講師が彼女の経歴を見て軽く唖然としていたのよね。
全国規模のキッズダンスコンテストや、ダンスパフォーマンスのコンテストで輝かしい受賞歴なんかもあって、実際、検索をかければ出てくるような子だったらしい。
そんな彼女のダンス技術だけれど、3Dライブだと躍動感がどうしても減ってしまう。
というのも、3D衣装は重力を無視して張り付いたように動かないか、逆に無重力なみにひらひらと揺れ過ぎてしまったりという特徴があるからね。
けれど、凛音ちゃんの新技術を用いた配信だと、実際の動きに則した動きが可能になる。
揺れる髪、服についた飾り、腕の動きで捲れる袖。
その全てがしっかりと映し出されるからこそ、ダンスの躍動感が跳ね上がる。
流れるコメントの数々は、彼女のダンスと新技術の技術力というものを前にして圧倒されているらしい。
ちなみに、新技術の衣装は3Dモデルとは違って実際の衣装だから、ダンス毎に衣装を変えていたり、ステージ上でみんなでジャケットを脱いで投げてみたりで、表現の幅も変えている。
逆に3Dライブみたいに歌の間奏中に光に包まれて衣装が変わったり、演出と同時に一瞬で衣装を変えたりっていうのはかえって難しいらしい。
「――それぐらい追加で魔法を使えばできるけど?」
「そうじゃなくて、ほら、他の子がね?」
「あー、そうなると難しいんじゃないかな」
ステージの映像を観ながら、隣にいる凛音ちゃんにちらっと話しかけてみると、返ってきたのがそれ。
当たり前のように魔法の存在を示唆して告げてくる凛音ちゃん、強すぎる。
そもそも魔法だってまだ一般には広まっていないのだし、私たちとしても開示しやすい範疇でお願いしたい。
「まあ、その辺りは新技術でやる気はないかな」
「やれない、じゃないのね」
「うん。ただ、今のカメラだと難しいって感じ。それ用のものを作ったり、あるいは外付けガジェットみたいなものをつけたりっていうのはありだけど、そこまで力は入れないかな」
「あら、どうして? できたら強いと思うけど?」
「3D分野は3D分野でさらに進歩して、VRも活性化していくだろうからね。舞台演出用の新技術みたいなのはその内色々やるけど、3D分野と競合して潰し合うなんてもったいないことしないよ。だから、さっき言ったような外付けガジェットを貸与したり普及しようとしたりっていうのは、しばらくはやらないよ」
その代わり――と、凛音ちゃんがすっと私に一歩近づいて、小さな声で続けた。
「本当にステージの上で、観客の前に立ってできるようなリアルライブ技術を提供するから、ジェムプロも頑張ってね」
「え……?」
――リアルライブ……?
思わず固まってしまう私に向かって、凛音ちゃんが続ける。
「今のジェムプロの技術だと、ステージ上に巨大なモニターを置いて、その裏側でみんなが歌って踊っているでしょう? その映像をステージ上のモニターに反映させた感じで」
「え、えぇ、そう、だけど……」
「ウチで用意するリアルライブ技術は、観客席全体も含めて魔法で覆って、本当にリアルライブをできるようにしちゃうから。モデルの姿のままステージ上を走ったり、観客一人ひとりの顔を見ながらライブなんかもできちゃうってこと」
「……へ?」
「3D技術開発は確かに私たちも請け負ったけれどね。でも、『魔王軍』という会社としては、どちらかというと3Dモデルを現実に、というのがコンセプトだから。だから、早速リアルライブを実現させる方を優先してるんだよね。だから、近い内にウチのスタッフたちから話を持っていく形になると思うから、そのつもりでいてね」
「そ、れは……できる、の?」
「できるよ。もちろん、専用の魔導具……じゃなかった、新技術を設置したりする必要はあるけれど、その辺りの設置費用も含めてって形でサービスとして実施するから」
さも当然のように、何気ない日常のように。
凛音ちゃんは気負うこともなく、そんな言葉を私に告げてみせる。
多分、凛音ちゃんはあまり実感していないのだろう。
技術的にどうしても難しい、リアルライブ。
モニターの設置や機材調整、現場スタッフの作業やライブ演出、そのどれもが大変で、採算性やスケジュールの都合から、なかなか実施できないイベントでもある。
観客の声援、合いの手、熱。
そういうものを感じられるリアルライブイベントだけれど、一方で、どうしたってモニターという一枚の壁が存在し続けるのがVtuberという存在でもある。
それでも、ウチのタレントたちはリアルライブをやりたいと考える子は多いし、けれど、簡単に手を出せないがために諦める子だって多い。
赤字覚悟でどうにか貯めたお金で、それでも夢だからと実施する子が数名いるぐらいだ。
それが、そういったものがなくてもできるという、その意味を。
叶わない夢だと思っていたそれが、叶うという現実を。
凛音ちゃんは歌を歌ってオリジナル楽曲を出したりもしないし、アイドルに憧れとかもないからこそ、あまり深く考えていないのかもしれない。
ウチの子は、それができると知っただけで泣いてしまうような子だっているというのに。
いつかそんな技術ができてほしいね、やりたいよねと夢を語り合いながらも、どこかで諦念を抱いている子だっているというのに。
……まったく、敵わないなぁ。
姉さんの大事な一人娘。
その容姿は日本人らしさに欠けていて、それがコンプレックスになってしまった可哀想な子。
そんな彼女に、容姿なんか関係ない世界があるんだって教えたかった。
どうしても居場所を与えてあげたくて、半ば強引にVtuber活動を勧めてしまったのは、他ならぬ私だった。
結果として、初手配信から魅せたカリスマ性を含めて、凛音ちゃんは明るくなった。
……まあ、明るくなり過ぎた結果、世間を色々騒がせるレベルな訳だけど、それはさて置き。
確かに魔法というものは存在しているのは間違いない。
それは凛音ちゃん、レイネさんはもちろん、私や姉さんでさえ実際に使えるようになってしまっているのだから、否定しようがない。
でも、本当の意味で魔法が、奇跡が存在するとするのなら、それは凛音ちゃんという存在がこの世界に。
そして、私たちの身近にいてくれていること、それそのものなんじゃないかと、改めて思う。
魔法なんてなくたって、大事な家族や大事な人が近くにいるっていう、ただそれだけでも充分に奇跡ではあるのだけれど、ね。
それにしたって、まだVtuber活動を始めて1年足らずだというのに、一体どこまで、どれだけのスピードで突き進んでいくのやら。
ちょっとした呆れすら込み上げてきて、笑ってしまう。
まったく、我が姪ながらにフルスロットルというかなんというか。
周りがついていくために大変な想いをするというのも、もしかしたら姉さん譲りなのかしらね。
なら、私も。
姉さんに対してついていったように、今度も一生懸命食らいついていかなくちゃね。
「可能なら、明日以降年内に一度その話をさせてちょうだい。スケジュールの都合もあるから、早めに提案だけしておいてもらえると嬉しいわ」
「ん、レイネ」
「承知いたしました。では、こちらの営業担当にその資料をお持ちの上、明日連絡するよう伝えておきましょう」
私も早速とばかりにタブレット端末を取り出して、スケジュールの確認と社長への打ち合わせ電話依頼、同時にウチのタレントたちでリアルライブイベントをやりたいと語っている子たちのマネージャーに、至急のスケジュール確認メッセージを入れておく。
みんな、年末年始もイベントがあるから大変なところに申し訳ないけれど、うん。
ちゃんと年始から連休取らせてあげるから、頑張ってね!




