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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
196/201

【配信】裏 懐かしい記憶




《――で、まあウチの一期生が出ることになったという訳じゃな》


『あーね』

『司会進行をどっちかの所属の箱がやらないのは英断』

『疲れるしね、ステージも全部生放送だと』

『別撮りじゃないしなぁ』

『ライブ特有のドタバタ感もあって楽しいw』


《そういうことじゃな。移動したりなんだったりというのが厳しいのでな》


 堂々と裏側の事情を話してしまう凛音ちゃんの配信に、私――滝 楪――はついつい苦笑を浮かべてしまった。

 ただまあ、核心を突くようなものに関しては言わずにいてくれている辺り、凛音ちゃんか、あるいはそれを支えるレイネさんかはともかくとして、彼女たちは信頼できる。


 そもそもどうして凛音ちゃんのトコの一期生がライブをやったのかと言えば、単純にスタジオ間での移動が大変だからというのもあるけれど、それ以上に、今回のイベントが合同特大イベントであることが起因している。


 要するに、身内ノリを色濃くし過ぎてしまうと、クロクロしか観ない、あるいはジェムプロしか観ない人たちにとって退屈な時間だと感じられてしまう可能性があるから、というのが大きかった。


 ライブ配信を行っていく上でコラボ配信だったりすると、必然、身内ノリのようなものが強くなる。

 たとえば、一人のタレントが同期の話をしたりするのも、同期がその場にいたりもしないような場であれば、その繋がりを理解できない人にとっては「赤の他人の話を聞かされている」として認識されてしまう。


 箱モノとして売っている以上、そういった話題も悪いものという訳ではない。

 知っているタレントの、表に出ていない話を聞けるというのは、視聴者にとっても面白いし楽しいものだから。

 そういう同じ箱、同期、先輩後輩の絡みによって「てぇてぇ」が生まれることもあるのだから、それはそれで需要は高い。


 けれど、新規獲得に繋がる話題かと言うと難しいところでもある。

 個人勢のVtuber、配信者が伸び悩む理由と同じで、「見知ったコメント、過去の話題が盛り上がる」ということをやってしまうと、新規勢にとっては退屈な時間が生まれてしまうし、そういう話題がつまらないと感じればさっさとブラウザバックされて、視聴者は「そういう身内ノリが強い配信者だ」と思い込んでしまう。


 そういう背景から、両者と関わりがあまりない『魔王軍』の一期生が、事務的に司会進行役を行ってくれるというのは、戦略的な意味合いもあったりするのよね。

 ライブに力を入れてくれているウチの子たちの魅力を発揮させる舞台を紹介してくれれば、これがきっかけでチャンネルを覗いてくれるという人も出てくるから。


 実際、今回のイベントでチャンネル登録者数はかなり増えている。


 クロクロを観ていない層、ジェムプロを観ていない層、両方知らなかった層というところに対して、この話題性溢れる配信の中で、お互いの箱の魅力を充分に発揮できているという証左だろう。


 おかげでクロクロもウチも、経営陣はほくほく顔よ。

 出演料とかも一切なしで出てもお釣りが来るほどのレベルよね。


《うーむ。それぞれ頑張ったとは思うが、やはり万能型という意味ではリリシアではないかの。ルチアは可もなく不可もなく。ノアは……うむ、場数を踏めばどうにかなるであろう》


『草』

『それはそうw』

『リリシアちゃんはマジで上手い』

『姐さんも上手いけど、まだ原稿だけって感じだからわかる』

『ノアちゃんは癒やされる』

『ノアちゃんはホントかわいい』

『リリシアちゃんマジでマルチ過ぎ』

『リリシアちゃんに助言とかないん?』


《リリシアに助言、のう。此度のイベントについてという話であれば、妾からリリシアに言うことなどないのう。あの娘は何に対しても全力投球という感じじゃしの》


 話題はどうやら、この2日間の一期生に対する評価になったらしい。


 実際、リリシアちゃんはホントに万能型という感じだ。

 歌、トーク、ファンサ、声、そのどれもがレベルが高い水準でまとまっていて、特に歌は飛び抜けている。


 そして何より、しっかりと勉強しているというか。

 元々あまりインターネット業界に詳しくなかったという話ではあるのだけれど、この業界に飛び込むにあたって様々なジャンルを学んでいる印象。

 このイベントにおいても、司会をやる以上は各タレントの鉄板ネタというか、そういうものをしっかりと学んできているらしく、時折紹介に混ぜてコメントを盛り上げていたりする。


《ルチアは卒なくこなせるだけの落ち着きがあるからの。プレッシャー慣れしていると言うべきか、いつだって平常心を保てておる。あれはルチアの武器になるであろう》


『わかる』

『物怖じしてない感ある』

『ルチア姐さんはホント安定って感じ』

『さすがプロゲーマー』

『肝の据わりっぷりが違うのよw』

『ホント堂々としてたわ』


 元プロゲーマーだけあってか、配信でも落ち着いてこなしているという印象の強いルチアさんは、昨日も今日もテンションは高めではあるものの、どこか冷静に対応してみせている印象が強かった。

 あまり騒がしくなかったり、強い言葉が出てこない配信が好きという層には、ああいうタイプはハマりそうだ。


《ノアは場数を踏むことじゃな。だいぶ慣れてきたようじゃし、司会進行を行うスタジオにはウチのスタッフのみであったから良かったんじゃが、ジェムプロやらクロクロのスタッフがいるところでは萎縮しておったようじゃしの。まあ、あの娘は気長に育ってゆけばよかろう》


『ノアちゃんよわよわ』

『よわちゃんのあのあでよき』

『のあのあが流行ってるからなw』

『のあのあ?』

『よわよわシーンが出るとスタンプで作られて連続で流れるやつw』

『あれがいいんだよ!』

『なんかほっこりするw』

『部下のミスを許せる気がする』


《いや、部下のミスを許せる気がするっておぬし、別に何もなくても許してやればよかろうに。故意のものは叱ってよいが、ミスを叱るのは上に立つ者がやることではないぞ。今後に向けて対策を教えてやる、あるいは考えるのが上に立つ者の務めであろうに》


『さすまお』

『上司レベルが違いすぎた』

『ミスを叱るのは追い打ちだもんな』

『本人が凹んでるとこに上司がぐいぐい詰めてくるアレ』

『これは名言』

『まあ、叱るヤツっているよな』

『叱っても何も解決しないけどな。萎縮された方がやりにくい』

『それはそうw』

『フルボッコで草』


 うん、まあ私も部下がミスをしても、わざわざ叱ることはないわね。せいぜい注意ぐらいかしら。


 他人を叱るって、そんな事をしても何にもならないのよね。

 いちいち説教したり怒鳴ったり、そんなことで解消できるのは怒ってる側のストレスぐらいなもので、単純に何もプラスにはなっていないもの。


 私の偏見だけれど、これって狭い世界に生きてきた人に限ってそうなりがちな印象よね。

 ずっと同じ職場にいて、そういう上司の下で育ってきた人にたまにいるというか、体育会系の上下関係が基準だったりする人とかね。

 可愛がる、みたいな形容して押し付ける愛情表現みたいな感じ。

 転職組とか、大人になってからも新人を味わった事のある人なんかは、割と穏やかな印象だったりするんだけどね。


 まあ、ウチの会社はそんなに歴史のある会社ではないから、数十年もいるような人なんていないし、そういう事をやるような人は全然いないけど。


 そういえば、姉さんが昔、ドラマの監督がそういうタイプの人だったせいで思いっきり喧嘩してたのよね……。

 自分の思った通りに行かないからってイライラして、けれどその演技をどういう風にしたいのかを全然伝えない、そんな監督だった。


 子供ながらにその空気が怖かったけれど、姉さんが大人の女優とかを前にしながらも「あなたのイメージを言語化するなり共有してもらわないと、私は私の感覚でしか演じられない。だから、いちいち怒鳴る暇があったら語彙力を磨きなさいよ、このハゲ」って言い切った時は、怖くて泣きそうだったのに笑っちゃったもの。


 ちなみに、その時の共演していた女優さんも笑いを堪えてプルプル震えていた。


 なんとなくそんな事を皮切りに昔の事を思い出しつつ、視聴者に対して堂々と物申す凛音ちゃんを「血は争えないんだなぁ」なんて思いながら眺めて、最終日前の夜は更けていった。






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