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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
193/201

交渉 Ⅰ




 イベント二日目はクロクロのイベント状態だ。

 もちろんウチのスタッフや、司会進行役をクロクロのライバーと共に行うリリシアちゃんだったりルチアさんは現場だけど、私はオフである。


 オフとは言っても配信をやっている仲間がいる以上、そちらにも少し意識を割く必要があるので、配信はつけっぱなしになりがちだ。

 この辺り、ユズ姉さんが「自分は休みでも配信があると知っているからつい観てしまう」なんて言っていた気持ちがよく分かる。


 純粋に楽しいっていうのはあるけれど、何かあった時に即応できる状況を作っておきたい、なんていう考えもあるからね。

 配信は生放送な訳だから、もしも事故が起こったりしたら大変だし。

 割り切って翌日対応でもいいんだけど、なんかモヤモヤしたまま夜を過ごすのも嫌だもの。


 そんな訳で、似たような状況であろうユズ姉さんに連絡をしてみると、クロクロの配信を流しながらも、今日はジェムプロも出番がないのでホテルでまったりと過ごしている、とのこと。


 ついでだから今後のジェムプロと私――というより『魔王軍』メンバーとの活動方針について相談したいと言われたので、ユズ姉さんのホテルの部屋へと転移魔法で迎えに行ってから、魔王城へと再び移動して話し合う事になった。


「わざわざ来てもらってごめんなさいね」


「いや、いいよ。私にとっては転移なんてリビングから自室に移動するぐらい簡単だから」


「……すごい話よね、まったく」


 お世辞にも広いとは言えないけれど、寝泊まりするには充分というビジネスホテルらしい一室。

 ベッドと小さめの棚に申し訳程度のテレビ、一対だけある椅子。


 確かにここじゃ話し合いには向かないというか、狭すぎるよね。

 そんな訳で、さくっとユズ姉さんを連れて魔王城の一室へと移動して、会議用にレイネに用意してもらった部屋まで歩いて移動することに。


「……相変わらず本当にお城よね、ここ」


「何それ」


「だって、そうとしか言えないじゃない。子供の頃はお城とか憧れたりもしたけれど……いざこうして中に自由に入って、なんなら住もうと思えば住めるとなると、広すぎてかえって不便に感じてしまうわね」


「転移魔法がないとそうだろうね」


 実際のところ、城内を歩き回るとなると結構な時間がかかる。

 前世の魔王城なんかは、転移魔法による刺客の侵入を防ぐために魔法対策として結界を張っていたりもしていたから、移動は人間と似たような感じだったもの。


 まあ、階段は一部の種族専用で、面倒になって窓から飛び降りたりバルコニーに飛んで部屋に戻ったりなんてやってたけど。

 魔物狩りをしてから汚いまま自室に入ったせいで、レイネに白い目を向けられたのも懐かしい記憶だ。


「え……」


「ご苦労さま。レイネはどこ?」


 謁見の間風スペースから出たところで、扉の前に佇む二人のメイド。

 彼女たちに声をかけると、二人の内の一人が頭を下げてから、私たちを案内するように前を歩き始めた。


 その後ろを進んでいくと、ユズ姉さんが驚いた様子でこちらに小声で声をかけてきた。


「ちょ、ちょっと、凛音ちゃん? 会社の人とかと一緒にメイドさんなんて雇ったの?」


「ふっふっふ、その反応が見たかったんだ」


「え、どういうこと?」


「実は彼女たち、人間じゃないんだよ」


「……は?」


「メイド型魔導人形(オートマタ)。分かりやすく言えば、ロボとかそういう認識が近いかな」


「…………は?」


 ユズ姉さんはお母さんと一緒に魔王城に来たことはあったけれど、その時はまだ魔法とかを教えたばかりの頃だった。


 メイド型魔導人形だとかについては完成が思ったよりも遅れてしまった。

 島全体を魔力で埋め尽くす方法も、私やレイネがチャージしようとしていた当初の予定から、魔石の入手経路の確保が可能になったことで運用方法が変わったため、色々と作り直す形になったから。

 最優先は〝新技術カメラ〟という名の魔道具だったし、そっちの制作用の魔導人形を優先したりで手を出せなかったからね。


 で、ようやく最近になって本格運用が始まったので、人間っぽく見えるかを第三者目線で見てもらおうと、ユズ姉さんをこうして連れてきて、わざわざ謁見の間風な部屋に転移してきたのだ。


 いや、だってほら。

 私、その気になればレイネのことだって魔力探知で見つけられちゃうし、なんならレイネのいる場所に転移すればいいだけだもの。


「魔導人形、ロボ……。ゴーレムとかそういう感じ……?」


「お、よく知ってるね。でも、この子たちは核があって自律行動が可能だから、命令しかこなせないゴーレムとはちょっと違うね。学習して自我を形成させていくから」


「……そう、なのね……」


「自我と言ってもギャルっぽくなったりみたいに、性格が形成されていく訳じゃないけどね。あくまでも愚直に命令に従い続けるという訳じゃなくて、状況に合わせた行動を選択できるようになっていく、という程度だけど」


「…………そう」


 イメージとしては、AI技術が近いかもしれない。

 その点については魔法よりも科学技術の方が発展しているような気がするなぁ。

 その内性格とか作れるようになったりしそうだけど、そうなったら「何を命と定義するか」みたいなSFとかファンタジー要素満載の課題とかにぶつかりそうだ。


 半ば呆然としているユズ姉さんを無視して、私は私でこの無人島に魔力を走らせて情報を拾い上げていく。


 この島はすでに魔力が充満している。

 トモたちから聞いたところ、特に影響もないみたいではある。

 まあその辺りは実際にこの世界の人間として生まれ、当たり前に魔法を使っているレイネや私という存在がいる以上、大きな変化もないだろうという予測はあった。

 今のところ、プラスの効果――気力が充実しているような感じがして、やる気が溢れたりっていうのはあったりってぐらいだね。


 ただ、人間はその程度で済んでいる一方で、昆虫などの小さな生き物、動物については少しずつだけれど変化を見せつつある。

 魔力に順応したらしい小さな昆虫たちが活動範囲や行動範囲を広めていたり、魔法らしきものを使い始めたりっていう、僅かな変化が生まれてきている。


 このままだと蟻とかが一番最初に進化するかも。

 地下に蟻の帝国みたいになったりするのは勘弁してほしいし、定期的に魔導人形部隊に間引きしてもらう必要もありそうだなぁ。


 そんな事を考えながらレイネの部屋へと移動完了。

 メイド型魔導人形に扉をノックさせ、レイネが返事をしてから開けてもらって中に入っていくと、レイネが複数のメイド型魔導人形を壁際に控えさせ、テーブルの横に立っていた。


 ちらりとこちらに目を向けたので、私もゆるりと首を左右に振る。

 するとレイネが手をあげてみせ、それを見たメイド型魔導人形たちが部屋の隅から音を立てずに外に出ていった。


 こういう存在が部屋に集まっているっていうのは、私にとっては懐かしい光景ではあるけれど、ユズ姉さんには慣れない環境だからね。

 メイド型魔導人形たちが全員出て行って扉を閉めたところで、ほっと一息吐いているのが感じ取れた。


 ともあれ、ユズ姉さんとレイネが挨拶だのなんだのを過ごし、席に腰掛け向かい合うように座り込む。

 そうして、レイネが淹れてくれた紅茶が目の前に置かれた。


 うん、今日はちょっと爽やか系のフレーバーかな。

 冬だから少し甘めなものが欲しくなるけど、この島は割と過ごしやすい程度に暖かいし。


 お互いにちょっとゆっくりとしてから、やがてユズ姉さんが口を開いた。


「さて、それじゃあ今後の方針についての相談なのだけれど」


「うん、そう言ってたね。でも、箱が違うのに今後の方針ってどういうこと?」


「そうね。実は昨日、レイネさんと少しお話ししたのだけれど……」


 そんな風に、話は始まった。


 どうやらレイネと一緒に話した内容の中で、今後のジェムプロ活動方針がVR界への参入を視野に入れているらしく、それに伴う私たちの技術なんかでどういった事ができそうかを話し合うと同時に、提携、費用支援も含めて本気で関わろうとしているようだ。

 また、これについてはすでにユズ姉さんだけじゃなくて、社長さんも「可能ならば是非」とのことで了承されているからこそ、未来のVR界への展望も情報を少しぐらいは出していいという判断であったみたいだ。


 確かに親族だからって、軽々しく「ウチに贔屓してね」とか冗談で言うならともかく、今後の展望とかまで踏み込むような話は普通はしない。

 お互いに別会社であり提携関係でもないとなると、内容を知りたいなんて言われても教えるはずがないのだから。


「……レイネ、どう思う?」


「私たちのメリットと呼べるものが、あまりありませんね。資金面ではすでに我が家が支援もしていますし、回収の目処も立っていますから。具体的に提携するメリットを提示していただかなくては頷きにくい問題です」


 まあ、現実的なところはそうなるよね。


「そこで、提案があるの」


 ユズ姉さんがニヤリと笑って続けた言葉は、私にとっても予想だにしていないものだった。






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