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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
190/201

技術の進歩




 一日目の配信が全て終了したのは、午後8時。

 お昼からほぼほぼぶっ通しで行われていたのだけれど、常に視聴者数は50万人を超える大盛況ぶりを発揮していて、正直、この数字だけでもすでに「大成功だった」と言いたくなるような結果。


 私――滝 楪――にとっても、今回の数字は素晴らしいと思う。


 今回のイベントは、本当に多くの新要素を盛り込んでいた。

 モノロジーを含めたSNSを確認してみても、「ガールズバンド」がトレンド入りした。


 その他にも、あまりの映像の美麗さ、リアリティのある動きに「Vtuber」と「フルアニメーション」が入ったり、なんというか視聴者の困惑というか、そういうものが伝わってくる。


「――じゃあ、先にホテル戻りまーす!」


「はーい、お疲れさま」


 外の自動販売機でコーヒーを買っていると、スタッフの子たちが未だ熱に浮かされたような笑みを浮かべて元気に挨拶して帰っていく。


 実は今回、この3日間のイベント期間中は、遠方で通いが難しいスタッフのためにビジネスホテルを用意している。


 というのも、今後このスタジオを使う利用者向けに、最寄りのビルを篠宮グループのビジネスホテルを運営している会社で買い上げ、提携キャンペーンを行っていく予定になっているのだとか。


 凛音ちゃんが遠い目をして教えてくれたのよね……。

 さすが篠宮、規模が違うわ……。


 レイネさんが篠宮グループを牛耳っているからこそ規模は大きいけれど、確かにビジネスホテルとの提携キャンペーンというのは、別会社であっても交渉の余地もある。

 これだけの規模のスタジオで、しかも朝一で現場入りすることを考えて、シャトルバスも運用するみたいだし、そこまでやってくれるなら集客も見込めそうだし、お互いに良い関係になれそうだもの。


 ――だって、Vtuberの子たちって夜型が多いのよね。


 これは別にあの子たちが怠惰だとかそういう訳じゃなくて、昼と夜、どっちで活動した方が視聴者が観てくれるかと考えた時、どう考えたって夜の方が人が集まりやすいから、というだけの話なのだけれど。


 必然的に夜型になっていく子が多い。

 作業通話とかしながら夜中の間に作業して、みたいになるし。


 一方で、ダンスレッスンやボーカルトレーニングはそうはいかない。

 実際、そういう先生が夜型という訳ではないし、何より夜だと公共の交通機関も動いていなければ、危険もある。

 世界的にこの国の治安は類を見ない程に平和ではあるのだけれど、それでも昼に比べれば、というところではあるけどね。


 ともあれ、だからと言って午前中からレッスンとかになると寝不足になったり、寝坊してしまったり。

 いずれにしても生活のリズムを狂わせてしまうから、なるべく夕方から夜にかけてというレッスン時間を押さえてはいるのだけれど……そのせいで、配信スケジュールギリギリの行動になったりっていうことも出てくる。


 まあ、この辺りは仕方のないことかしらね。

 もうちょっとどうにかできればいいのだけれど、現状できることといえば、オンラインレッスン形式を積極的に取り入れることとかになるのだけれど……。


 VR空間にレッスン場を作って、フルトラッキングでレッスンという形でやったりっていうのも良さそうよね。

 それで移動や行動の効率化ができるのであれば、最先端技術はどんどん取り入れていくべきだと思うし。


 ただまあ、ポジション交代とかってなると実際に歩いて移動したりっていうのが必要になるし……うーん。


「――何やらお悩みの様子」


「きゃっ!?」


 背後から声をかけられて、思わずびくりと身体を震わせてしまう。

 慌てて振り返れば、そこには相変わらずメイド服に身を包んだレイネさんが佇んでいた。


「お、お疲れさま……」


「お疲れさまでございます。それより、ずいぶんとお悩みの様子でしたが、今回のイベントで何かトラブルでも?」


「あー、いえ、そうじゃないわ。ちょっと考え事をしていて……」


 メイドという役柄に徹するため敬語を禁止されている。


 けれど、レイネさんってこう、篠宮の実質トップな訳だし、本来ならば使用人なんて真似は絶対にさせられないような相手なのよね。

 だからつい、こうしてシラフで、しかも外で顔を合わせると接し方に戸惑ってしまう。


 凛音ちゃんも「レイネがそう言ってるんだからいいんじゃない?」なんて軽い調子で私にも気楽に接しろ、なんて言っているけれど……まったく。


 ともかく、なんとなくしどろもどろになりながらも、レイネさんにウチのタレントたちのことを伝えていく。

 なんかこう、魔法とかも使えるなら何かできたりしないかなっていう、淡い希望も少しあって。


 そう思って一通り話してみれば、レイネさんはしなやかな長い指を自らの顎に当てて、瞑目したまま考え込んだ。


「――……ふむ。VR空間、ですか」


「えぇ、そうなの。市場も徐々に成長していて、いずれVtuberはそっちに活動の舞台を移していくことも考えられているわ。それができるようになれば、VR内でのライブだったりも色々できそうだし」


「なるほど。となると、我々の技術とは正反対の方向に進む流れになりそうですね」


 レイネさんに言われて、そういえば、と思う。


 確かに、昨今のメタバース発展とVR産業の動き、それに技術の方向性を考えると、新技術はVR――つまり、仮想現実に視聴者も入り込むという形よりも、むしろVtuberを現実に引き上げる、という全く逆方向のアプローチになるとも言えるかもしれない。

 どちらかと言えば魔法を使った新技術は、MR――複合現実――に近いとも言えるかしら。


 MRというのは、要するに現実世界に仮想世界を融合させるようなものだ。

 最近ではゴーグル型のVR機器を利用して、パソコンのモニターを複数MR上に投影してみたり、要するに物理的な制限とは全く違うことができたり、なんていう技術も出てきているし、それらを共有できたりもするのよね。


 根幹を考えれば全く別物ではあるのだけれど、完全にVR空間に入り込む展開とは違う方向よね。


「……ふふっ」


「如何なさいましたか?」


「ごめんなさい。なんだか凄い世界になったなぁって思ってね」


 VRという技術だって、ほんの20年、10年前には完全にSFの世界だった。


 仮想現実の中に入り込むなんて、夢のまた夢みたいな話でしかなくて。

 空中に立体映像が出てきたりとかっていう近未来をモチーフにした映画のワンシーンとかを見て、夢見たものだ。


 けれど、それが徐々に現実になってきているんだと、今更ながらに思い知る。


 Vtuber業界にいると、ふとそういったことを顕著に感じる時がある。


 たとえば、昔は個人での配信なんてなかったし、個人での配信も映像技術、動きにどうしたって限界があった。

 特にジェムプロの黎明期なんて、そういう限界があったせいもあって、視聴者からは「アニメもどき」だとか散々な心無い言葉を向けられた事だってたくさんあった。


 だというのに、今ではVR機器を使って自宅でフルトラッキングさえできるような時代になってきていて。


 まだまだ興味のある層が狭いと言えるVR界隈だけれど、VR空間のマーケットは凄い盛り上がりを見せている。

 古き良き町、文化をモチーフにしてデジタル観光みたいなものを作り上げたり、現実世界の大企業がVR上のマーケットに出展したりもしていて、その自由度は凄まじいものだ。


 そうした技術は仕事でも使われる。


 完全VR空間を使えば物理出社なんてなくても、VR出社という形でアバターを用いて一緒の空間に接続したまま仕事をするとか、そういうことだってできちゃう時代だ。

 その内、学校とかもそんな風になってもおかしくない。


 実際、VR上を実際に歩いて動いたりもできる技術はすでにできているみたいだ。

 その場にいながら胴体を固定して、本当に歩いたり走ったりする挙動をしても、現実の身体が動いていないのにVR上では動く、みたいな全方向性の家庭用トレッドミルVRデバイスなんてものも生まれている。


 ああいうのを使えるようになれば、VRダンスレッスンとかもいくらでもできそうよね。


 これが一般的になれば、オフィスの価値とか不動産価値とかも大きく変動するでしょうし、都市集中型の人口密度、限界集落問題とかも解決するのでしょうね。


 まだまだ「誰もが知っている」とは言えない世界。

 一部の人間しか体感できていないし、体験もできていない。

 けれど、それでも身近な技術になりつつあるというのだから、人間の技術の進歩は凄まじい。


 それを誰もが体感できるような時代になる日は、私なんかが思っているよりもずっと近いのでしょうね。


 そんな事を考えていたら、レイネさんが何食わぬ顔で口を開いた。


「魔法で意識を捕らえるという事もできるので、完全VRというようなものを擬似的に再現することも可能ですが?」


「……え?」


「ただ、それをやるとなると魔力コストが高いですね。……ただ、高純度の魔石も必要になりますし、術式のコントロールが難しいので現実的ではありませんね。なるほど、魔法と科学技術、どちらも発展性があるのであれば様々な市場展開が見込めそうですね」


「……ホント凄い世界になったわ……」


 ……そうよね。

 魔法なんてものまで出てきちゃったんだもの……。


 ずいぶんと遠い所にやって来たような気がして、ついつい夜空を見上げて放心してしまう私であった。





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