【配信】『陛下の御言葉をいただきたい!』 Ⅲ
「ふぅむ、好きな配信者が卒業してしまった、か。で、それが寂しくて死にそうとさっきも言っていたが、何が訊きたいんじゃ、これ」
「えっと、卒業とか引退についてどう受け止めればいいのかってことじゃないですかね?」
「そうねぇ。考え方に関するアドバイスって感じかしらぁ?」
『だいたいそんな感じ』
『陛下的に卒業とか引退はどういう考えなのかは聞いてみたい』
『まあ色々な受け取り方があるよな』
『SNSでは発狂勢の酷い投稿とかもあるのは事実』
『ネタじゃないの、あれ』
『面白くもないしネタかも分からない時点でもうねw』
うん、だいたい考え方とか受け止め方に関するものを知りたいって感じかな。
今回こんな質問というか話が来たのは、ジェムプロの一人が今月、このイベントを最後に引退することを発表したからだ。
ジェムプロの中でも古参の一人で、Vtuberの黎明期を駆け抜けてきたような人だからファンも多くて、突然の引退発表にはかなりの衝撃が走った。
だいぶSNS上でもトレンドになって騒がれていたし、私も知っている。
もちろん、それに伴って炎上するような投稿とかも色々あったらしいってこともね。
ちらりとユズ姉さんの方を見てみたけど、特に触れることについては問題ないという認識なのか、普通に両手で丸を作っている。
さすがにこの辺りはリリシアちゃんたちも確認済みらしいね。
「なるほどのう。まあ結論から言えば、何か問題があって追いやられる形で引退となるのであれば、納得できる説明をするのが企業側の役割であろう。それができていないのでは問題にもなるからの。逆に、ちゃんと本人の口から卒業を発表しているのであれば、それこそ外様の者が騒ぎ立てるようなものではなかろう。素直に応援してやれば良いではないか、とは思うがの」
「それはそう、なんですけどねー。ほら、やっぱりロスというかショックというか、そういうのがあるじゃないですかー」
「ふむ……。別れに慣れろ、とは言わぬが、割り切れるようにはなるべきじゃぞ」
『割り切るかぁ』
『まあ、俺らリスナーは呑み込むしかないからな』
『騒いでも変わるものじゃないし』
『素直に応援してあげようよ』
『スパチャした分は返してほしい』
『出たww』
『湧いたなww』
『草』
『本気で言ってるならあたおかよw』
何やらコメント欄が加熱してきているというか、おかしな事を言い出す存在が現れたらしい。
まあ、今回の配信は件のジェムプロもいるし、クロクロだっているから、色々な視聴者がいてもおかしくはないけれどね。
レイネに軽く目配せをしてユズ姉さんと、クロクロの統括マネージャーにこのまま切り込んで良いものかを確認してみれば、両者共に両手で丸を作って力強く頷いた。
……なんか苦労してるんだね、こういうコメントへの対処。
まあ私ならキツいことを言ってもクロクロやジェムプロには迷惑もかからないし、むしろ私みたいなのにこういう場でハッキリ言ってもらいたい、みたいな空気がひしひしと伝わってきてるよ。
まあ、ならば遠慮なく。
「スパチャを返してほしい、とか言い出しておる阿呆がいるようじゃが、それは貴様が自分で、勝手にやったことであろう? 別れた恋人にプレゼントやらデート代やらを返せと宣ってみたり、ソシャゲで自分でガチャを回しておきながら、欲しいものが出なかったから返金してくれと騒ぐようなレベルじゃぞ、それ」
「あぁ、確かに……」
「まあ、ドン引きよねぇ……」
「であろう? 勝手にやっておいて望み通りにならぬからと騒ぎ立てるとか、なんというかモンペになりそうじゃしの。絶対に家族とか作るでないぞ。家族が可哀想になるわ」
『草』
『喩えが適切で草』
『たまにSNSで見かけるけど、あれってネタじゃないん?w』
『あれネタなのか本気なのか分からんのよなw』
『本気だとしたら相当終わってるがw』
「他人から見て面白くもなく、不快になるだけのものを「ネタ」として扱っているという点では、アルバイト先で調子に乗った学生が、行き過ぎた行為を撮って投稿しているのと同じレベルじゃと思うがの。面白いと思っておるのは其奴だけで、その程度の事も理解できない程度に世間知らずなだけであろう」
「ア、ハイ」
「うーん、否定できないわねぇ……」
自分のちょっとした投稿、ちょっとした愚痴、ちょっとした文句のつもりかもしれないけれど、それが他人の目についてしまうという時点で、それは一人のものではなく共有される内容となるのがSNSという世界だ。
仲の良い友人、家族に愚痴るようなレベルのものをSNSに垂れ流すのは、ただ単純に使い方が間違っているとしか言えない。
「応援していた存在が卒業するというのは、確かに悲しくもなる。もう見れないのだからの。そんな事実に一時の感情で悲しみだとか寂しさだとかが綯い交ぜになって、怒りのような形で発露してしまったが故の投稿である可能性もあるがのう。まあ吐いた唾は飲み込めぬのが道理というものじゃが、せめて、吐き出す前に一度冷静に考えることじゃの」
「あ、なんか聞いたことありますっ! SNSとかで投稿する時は、少し間を置いて見返すだかなんかしてから投稿した方がいいって!」
「そうねぇ~。特に私たちみたいな立場だと、なおさら考えなきゃダメよねぇ~」
『あー、なんだっけ』
『確かにそれは聞いたことある』
『勢いで書くとろくな事にならないからなぁw』
『わい、それで変な投稿しかけて消したことあるw』
『効果実感してるヤツおって草』
『ノアちゃんwwww』
『さっきから静かだと思ったら、なんかメモってるやろww』
リリシアちゃんとルチアさんはそんな風に答えてくれているんだけど、さっきから静かにひっそりとメモしているノアちゃんにカメラが向いたせいで、視聴者にノアちゃんがメモしている姿が見事に抜き取られている。
ノアちゃんもようやく自分がカメラに抜かれていると気が付いたのか、顔をあげて目を丸くしてから、あわあわと私たちを見て、次にカメラを見て、最後にコメントを見てと忙しない。
「えっ、あっ、そ、その……っ」
「はいかわいい」
「癒やされるわねぇ」
「小動物っぽさがあるのう……」
『かわいいw』
『ノアちゃんはガチで天然w』
『計算っぽさが全然ないw』
『ノアちゃん推しわい、ほっこり』
うん、分かる。
コメント欄だけじゃなくてスタッフ陣もかなりほっこりというか、温かい表情になっちゃったしね。
「とにかく、卒業するというのであれば、それはその本人にとっての大きな選択じゃ。本人とて、不安も大きいであろうし、もしかしたら仕方なくその道を選んだのやもしれぬ。抱えているものは当人にしか分からないものじゃ。故にこそ、そのような相手を応援してきたのであれば、心で泣いていても笑って見送ってやろうではないか。せめてもの餞に、明るく背を押してやれば良い――」
前世の最期の自分に向けてくれた、皆の思いやり。
思うところはあって、腑に落ちないものはあっただろうけれど、それでも最後にはしっかりと見送ってくれたからこそ、私は心置きなく進むことができたのだ。
もしもあの時、皆が納得してくれなかったら、それでも進んでいただろうけれど、きっと心は重く、後ろ髪を引かれるような想いを抱えたままだったはず。
そうならずに済んだのは、皆のおかげだった。
もっとも、レイネは今もこうして私の傍までやってきて支えてくれているけれど、私やレイネには今の状況なんて当時は想像なんてできなかったし、それはともかくとして。
「――故に、これからの3日間、有終の美を飾らせるためにも、そして貴様らもまた心残りのないよう、存分に応援してやれ」
そんな言葉で締め括って、私のコーナーは終了。
その後は一期生のメンバーたちの各種コーナーが予定通り進んだ。
そして、16時。
ジェムプロの単独ライブが始まった。




