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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
186/201

【配信】『陛下の御言葉をいただきたい!』 Ⅱ




「ではでは陛下! ノアちゃんが選んだ、『問4、仕事が辛くて辞めたいけれど、辞めたら生活できません。どうすればいいと思いますか?』という質問に対して、〝何に重きを置くか考えること〟と回答していましたけど、これってどういう意味でしょうか?」


 リリシアちゃんから改めて質問を整理して投げかけられた、ノアちゃんが選択した質問。

 苦しんでいる人がいそうだから、というなかなかにノアちゃんらしい理由で選ばれたその質問を向けられて、私もリリシアちゃんに一つ頷いてみせる。


「そもそも妾はJKでしかないので、現代社会の就職やら、それに伴う苦労なんぞはよく分かっておらん。故に、あくまでも妾個人の感覚で答えることになるのじゃがの」


『まあそれはそうw』

『現役JK社長様という強すぎる肩書き』

『正直、高校生なら軽いノリで答えそう』

『陛下がどう考えるのかちょっとわくわくしてるw』


「まず第一に、その仕事を辞めたら本当に生活できぬのかの?」


「お? と言うと?」


「妾は世間一般の給料というものがどれぐらいかよく分からぬが、正直、アルバイトであってもフルタイムで入れば月に15万から18万程度は稼げるであろう? もちろん、会社員に比べれば福利厚生だの、諸々の税金などは取られるようじゃが。で、それだけのお金があったとして、生活できないというレベルに陥るのかの?」


『国民保険とか年金だの住民税だの、諸々考えると苦しい』

『家賃安いトコとかなら普通に暮らせる』

『生活レベル落とせばいける』

『節約は必要だけど、って感じか』


 コメントに流れる言葉の数々につい苦笑が浮かぶ。


 人の暮らしを苦しめるレベルの税金なんて戦時でもあるまいし、と思ってしまう。

 この国の諸々の税金だのアテにならない社会保険だの年金だのについて勉強したけど、5割ぐらいは普通に持っていくもんね。

 平時なら2割から4割程度でいいと思うんだけどね。


 普段から半分、あるいはそれ以上も取られるんじゃ、そりゃあ働いてお金を稼ごうって意欲も減るし、将来なんてものも考えると、どうしたって不安にもなるよ。


「まあ、生活できないという前提はこれで崩れた訳じゃが、そうなると将来への不安なんかも出てくるであろう。しかし、辛くて辞めたいと思っておるような仕事を無理して続け、心を殺し続けるのに将来も何もないとは思わぬか?」


「あー……、確かに……」


「結局のところ、仕事を辞めるとしても何のために辞めるか、だと思うのじゃ。息苦しく辛い日々を送っておるのであれば、休むために辞めるというのも別に悪いことではなかろう。その後のことは心に余裕ができてから、改めて自分のやりたいものを探し、それに必要な資格を勉強するでも良いであろう? 結婚して子供がいるなどであれば、まあ一人の問題ではないからの。家族に相談する必要もあるじゃろう。それで無理を強いるような相手であれば、よもやそれは家族ではない。苦しみを理解できぬなんぞパートナー足り得ぬ。別れてしまえ。独身であるのなら、今の生活をどうしても守らねばならぬのかを考えてみよ。執着する必要があるのか、それとも、捨ててしまっても良いものであるのかを」


『ぐう正論』

『確かに』

『そういう風には考えなかったなぁ』

『捨ててしまってもいいものではあるよね』

『実際辞めてみると、案外後悔しなかったりするよ、経験談だけど』


「現実的なところ、仕事を変えるとなれば当然収入面なんかも変わる。それに応じて諸々を変えなくてはならなくもなるであろう。何かを変えるというのが大変だというのは確かじゃ。しかし、心を殺してまで今の自分が維持したものに、何の価値があるというのか。心を殺したまま手に入れたものなんて、それがどんなに素晴らしいものであっても、きっと色褪せて見えてしまうと妾は考えておる」


 どんなに素晴らしいものであっても、それを目の当たりにした時、手に入れた時に自分の心が健康でなければ、その価値は著しく落ちてしまう。感動すら陰り、心から喜んだりなんてできるはずもないのだと、私は知っている。


 前世、魔界の平定を行った時、確かに私はそうだったから。

 あれだけ願った平和も、そのための犠牲や、止むなく振り下ろした拳もあって、どこか心の中に陰りがあったから。

 それでも成し遂げたい想いがあったから、支えてくれる仲間がいたから、私はその道を歩き続けることができたし、手に入れた平和に価値を感じられたけれど、それでも手放しに喜べる程ではなかったんだよね。


 きっと一人だったら、諦めていた。


 そんなことを思いながらレイネをちらりと見やれば、いつもよりもどこか柔らかい笑みを浮かべていた。

 どうやら私が何を思ってこの言葉を口にしたのか、彼女には分かってしまったらしい。


 気を取り直して、改めてカメラを見つめる。


「自分がやりたいことがあって、その知識と経験があるのなら、起業しても良いのではないかの。逆に言えば、辛いと思っておる今の仕事の中でも、次の仕事に活かせるものもあるはずじゃ。それを学ぶためと割り切って、それを学び終えたら辞めるという条件を設けることもできるはずじゃ。何に重きを置くのかを考えよとは、何を選び取るかをしっかりと決めよ、という意味じゃ」


「おぉぉ……」


『なるほどなぁ……』

『なんかもっと軽々しい感じであっさりばっさりいくのかと思ったら、ガチでちゃんとしたアドバイスだった件』

『これが、JKだと……!?』

『たまに本当に考えさせられるんだよなぁ、陛下の配信って』

『的を得てるよな』

『的を得るじゃなくて的を射るが正解だぞ』

『草』


 いや、コメントはまあいつも通りというかアレだけど。

 ノアちゃんはともかく、リリシアちゃんまでなんか妙に「感動した」とでも言いたげに、目を輝かせてこちらを見つめてくるものだから、ちょっと居心地悪い。


「ふぁー……」


「ほわー……」


『ノアちゃんww』

『いや、リリシアちゃんもかい!w』

『帰っておいでwwww』

『放送事故ですかね?ww』


「……はっ!? あ、えっと、ありがとうございます、陛下っ! なんかもう、凄くすごくてビックリしましたっ!」


「あっ、え、そ、そうです! すごくすごかったです!」


「いや、おぬしら語彙力死んでおるではないか」


『草』

『すごくすごいですは草』

『まあ分からなくもないw』

『妙な説得力あって凄いのよ、陛下w』

『ホントJKから出てくる言葉じゃないでしょw』

『ガチで陛下は陛下だと思う』

『人生n周目レベル』


 ……なんかこう、悪い意味で言っている訳じゃないっていうのは分かるんだよ。


 分かるんだけど、なんかね、ほら。

 私って基本的に前世を思い出しただけで、ベースは滝凛音っていうホンモノの女子高生な訳でね。


「……貴様ら、妾が老けておるとでも言いたげじゃのう?」


『滅相もない!』

『褒め言葉ですぞっ!?w』

『それぐらい含蓄深いのよw』

『リリシアちゃん、これホントに台本ないの?』

『台本あるよね? あるって言って?』


「ぅえっ!? 台本ないですよっ!? だってサプライズ企画ですもん!」


『マジか』

『マ?』

『いや、JKからコレが台本なしで出てくるん?』

『俺の知ってるJKと違う』

『誰もが知ってるJKとちげーよw』


「ホント、陛下ってウチらより若いのにね……」


「……ぅん。ホント、頑張らなきゃって思う……」


「いや、おぬしらも頑張っておるであろうに。妾に何かを比較する必要はなかろう」


「そうよぉ~。それぞれに頑張ってるのは、私も分かっているものぉ~」


『ルチア姉さん!』

『ママ!』

『は? ママじゃないが』

『近所の無防備なお姉さんだろうが!』

『ルチア姉さんは未亡人だろ』

『性癖のオンパレードやめーやww』

『草超えて臭』


 いや、うん。

 確かにルチアさんはこう、お姉さんみがあるというか、そういうお色気が溢れてるから、分からなくはないね。


「じゃ、じゃあ、ルチアさん! 陛下に答えてもらう質問、どれにしますか!?」


「あら、そうねぇ……。『問9、好きな配信者が卒業、引退してしまいました。寂しくて死にそうです』というのはどうかしらね?」


「あーっ、実はそれ私も一緒ですっ! それ聞きたい!」


『あー』

『タイムリーなw』

『今はちょうどだなぁw』

『まあ、気になるよね、陛下の視点って』

『うん、なんなら語り合うレベルで話したい』


 何やら注目を集めているらしい話題に、コメントが加速した。





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