【配信】『陛下の御言葉をいただきたい!』 Ⅰ
スタジオの案内については、ルチアさんがメイン。
同行しているノアちゃんが、ルチアさんや私、リリシアちゃんに言われたところまで移動して立ってみてから手を振ったり、なんだかんだでかなり平和な形で終わった。
まあ、リリシアちゃんがノアちゃんをお姉ちゃん的な視点で見ていてそわそわしたり、優しく声をかけたり。
あるいは、ルチアさんがからかってみたりして、それを真に受けたノアちゃんに慌ててみたりとか、和気藹々とした空気感がかなり出ていたと思う。
情報解禁と同時に、一般の予約受付開始が明後日のイベント終了後、24時からなんて宣伝をしただけあって、コメント欄はかなりの大盛りあがりだった。
なんだかんだで一般公開の準備も含めると、かなり長い時間をかけて動いていたような気がする。
世間一般、普通の企業とかだった場合はもっと時間もかかるだろうし、関係各所との折衝だったりも含めると、普通に1年越しのプロジェクトだとかもあったりもするだろうから、そういう所に比べれば早い方だとは思うんだけどね。
ただのJKな私には程遠い世界だね。
いずれはそうも言っていられなくなったりするのかもしれないけど、ね。
「――という訳で、次の企画はこちらー! 視聴者の皆さんに事前にアンケートをした結果、反響の多かった『陛下の御言葉をいただきたい!』のコーナーですっ!」
「は?」
『いえーーい!』
『最近忙しそうだったからなー』
『陛下のずばっと本質突く系アドバイス助かる』
『なお、当の本人は鳩が豆鉄砲食らった顔w』
『これは聞いてなかったな?w』
ルチアさんとノアちゃんが戻ってきたところで、リリシアちゃんが突然告げたコーナー名。
思わず目を丸くして声を漏らしつつレイネを見れば、レイネがくすくすと笑っている姿が目に入った。
いや、だって本来ならここからはウチの一期生メンバーによるクイズ企画で、持ち寄った問題をそれぞれに回答するっていうスケジュールだったし、私がそこに参加するとか聞いてないんだけど?
「実はですねぇー、この時間は私たちの持ち寄った企画系をやらせてもらう事になったんですけどー、せっかくなら陛下の御言葉を聞いてみたいっ!」
「そうねぇ~……。配信でずばっと色々言ってくれる陛下の言葉って、なんかこう、芯に響くような感じがするのよねぇ~」
「分かります! あ、そ、その、私も、ほら、デビューの経緯からしてアレだったので……! でも、陛下の言葉はなんか凄くて、その……!」
「ノアちゃんかわいいかよ」
「ふふふ、ホント可愛いわねぇ」
『リリシアちゃん、ぼそっと言わんといてw』
『腹痛いw』
『顔がマジで草』
『素で言ってるの分かるの助かるww』
『Vtuberってなんだかんだ分かりやすい表情しかないからなぁ』
『その点、新技術になってからバリエーションがめっちゃ豊富w』
『まあそのせいで愛想笑いがくっそよく分かるようになったけどwwww』
『やめてさしあげろww』
手を握りしめて一生懸命言葉を紡いで……というか、手の動きで内部に圧力が送られて押し出されているように見えてくる、そんなノアちゃんの喋りに癒やされる。
リリシアちゃんもキャラ崩壊して真顔で呟いてたせいで、かなりイジられているけれど、うん、まあ愛されて受け入れられてるよね。
ほら、ノアちゃん絡むとそういうとこたまに見かけるし。
ともあれ、企画の趣旨は理解できた。
「ふむ、つまり妾が質問に答えていけば良いのかの?」
「そうですっ! 事前に私たちがこっそり集めておいた視聴者の質問から、「これだ!」ってなったものを厳選しています! まずは、10問10答! リズムよく質問していくので、先に簡単に回答をしてくださいっ! あとで深堀りしていきますっ!」
「ふむ、なるほどのう。なんか聞いたことある企画じゃの」
「しーーっ! はいっ、始めますよっ!?」
『確かにw』
『でもこういうの好きw』
『わかるw』
『がんばれーw』
『でも陛下ってプライバシーとかも全く想像つかんから普通に気になるw』
『エフィール・ルオネット〆:これ、ウチもやりたい!!!!』
『エフィwwwwww』
『まあ、Vtuberってネタ被ったりするのあるあるだしなw』
なんだかコメント欄が妙に盛り上がっているのを無視して、待機。
レイネが幻影を広げて私にスポットライトを当てるような演出をしてみせてから、ジャジャン、と効果音が鳴って、秒針のようなチクタクという小刻みな音が流れ始めた。
「問1、お休みの日は何をして過ごすのが好きですか?」
「友達と遊ぶことかの」
「問2、好きな食べ物はなんですか?」
「んー、肉系かのう」
「問3、Vtuberとして新時代を築く陛下ですが、今後新技術やスタジオを使ってやってみたいことはなんですか?」
「一期生らのプロデュースかの。あとはまあ、色々考えてはおるが」
「問4、仕事が辛くて辞めたいけれど、辞めたら生活できません。どうすればいいと思いますか?」
「何に重きを置くか考えることじゃな」
「問5、学校の友達とケンカしてしまい、最近疎遠になってしまいました。どうすれば元に戻れますか?」
「妾に相談する暇があるならさっさと謝るか、話し合う場を作ってこい、たわけ」
「問6、好きな人ができたら、陛下は告白する方? それとも相手に告白させる方?」
「経験ないからのう、なんとも言えぬ。が、どうしても手に入れたいのであれば、手に入れるために自ら動く方が好きかもしれぬ」
「問7、推しがなかなか配信してくれなくて悲しいです。陛下って言うんですけど」
「これ質問というより文句ではないのかの……? まあ、忙しくての。できる限りはしておるので、時間があるなら一期生を応援してやっておくれ」
「問8、割と過激な言動でたまに炎上したりしているけれど、狙ってやってたりする?」
「狙っておらぬ。というより、妾は別に過激と思っておらんのでな」
「問9、好きな配信者が卒業、引退してしまいました。寂しくて死にそうです」
「ふむ、これはまあ後の方が良さそうじゃのう」
「問10、一期生に向けて贈りたい言葉は!」
「好きを、好きにやれ」
トントン拍子に投げかけられた質問に答え終わると、照明が元に戻って一期生の3人から拍手が送られた。
『相変わらずの陛下』
『これ事前に質問してたの?』
『答えが一直線』
『さすへい』
『たわけ、は笑うw』
『色々解説というか深堀りして聞かせて!』
コメントの方も素早く流れているようだけれど、だいたいが回答に対する深堀り希望という感じみたいだ。
私が思う以上に話を聞きたがっている視聴者は多いらしい。
「はーい、それでは早速っ! 全部を深堀りして質問するとちょっと時間かかり過ぎちゃうから、一期生の私たちから一つずつ選んで深堀りさせてもらいたいと思いまーす!」
『全部やってくれる訳じゃないのかぁ』
『やっぱ陛下にはちょっとシリアスな質問の深堀りしてもらいたい気がする』
『綺麗事とか当たり障りないこととかが主流だしなぁ』
『箱だとなおさらねw』
『陛下は元個人勢で現箱の創設者だからな』
『どうなるのか気になるw』
私がコメントを見ている間に、リリシアちゃんとルチアさん、ノアちゃんがお互いにそれぞれ気になっているコメントについて話し合う。
意外と時間がかかったりするのかもしれないので、間を繋ごうと口を開きかけたところで、しかしリリシアちゃんが先んじた。
「はいっ、めちゃくちゃすんなり決まりましたー!」
『おぉ』
『有能』
『個人的には6が気になるw』
『炎上の8も面白そうw』
『割と陛下なら4とかの重いタイプの相談とかも答えてくれそう』
思ったよりもあっさりと決まったのか、ルチアさん、ノアちゃんも特に不満げな様子は見当たらない。
というか、こんな企画あるならせめて事前に質問してくれても良かったんだけどなぁ。
そしたらもうちょっと考えて答えられたかもしれないのに。
「では、最初の質問者はノアちゃん! ノアちゃんが選んだのは何番かな?」
「あ、えと、私はその、4番のお仕事のこと、です」
「ノアちゃん辞めたいの?」
「ちっ、違います! その、辛そうだから、陛下ならなんかハッキリと答えてくれそうだなって、思って……その、はい」
『え』
『焦ったw』
『いや、ノアちゃん天使かw』
『やさしい』
『浄化される』
『まあでも分かるよね』
『ブラック企業なのに社員がなかなか辞めないの、そういう不安があるからだし』
『わかる』
『わかる(真顔)』
そんな訳で、最初はノアちゃんの選んだ質問から答えることになった。




