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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
184/201

【配信】超大型イベント Ⅰ

引き続き楪(叔母)視点です。






『お』

『はじまた』

『きたああああああ』

『ありがとう陛下! このイベントの立役者!』

『陛下ありがとおおおおおおお』

『めっちゃ楽しみにしてた!』

『リリシアちゃんおる!』

『草』

『本人ぼけーっとしとるやんww』

『同時接続33万人で開幕ぼけっとしとるのはさすが陛下すぎるw』

『リリシアちゃん、めっちゃきょどるやんww』

『台本が進まなくて困惑してるんだろうねww』

『これは草』


「……あ、あの、陛下……ッ!?」


「ん、なんじゃ? 緊張しておるのか?」


「緊張はしてますけど……っ! もう始まってますよ……っ!」


「ほう、ではリリシア、任せたぞ」


「え、えぇっ!? 台本通りやってもらわないと!」


「ふむ……めんどいのう」


「めんどい!?」


『これはつよいww』

『マジで陛下、強心臓すぎるやろww』

『ある意味伝説作ってる配信でこの適当ぶりは強すぎるw』

『緊張してるリリシアちゃんが不憫可愛い』

『ちゃんとやれや』

『クロクロとジェムプロに迷惑』

『おいおい、分かってない奴らがおるな』

『こいつらも都市伝説の餌食だな』


 相変わらず凛音ちゃんはマイペースというか、想定されている流れを外してくる事が多い。

 彼女のやり方に対して過激なコメントもあるようだけれど、ジェムプロもクロクロも、そもそもヴェルチェラ・メリシスというキャラクターを理解しているので、そんな事でいちいち目くじらを立てたり抗議したりなんてことはないんだけれど。


 そう思いながらちらっとレイネさんを見やる。


 ……うん、見なかったことにしましょう。

 黒くてどろどろとした何かがどぷんって影の中に呑み込まれていたように思えるけれど、きっとあれ、魔法よね……。


 凛音ちゃんの配信でアンチコメ、過剰な口撃をすると、それをやった人達は奇妙な体験をするようになる、というのは今や都市伝説的に語られている。

 というのも、凛音ちゃんへのアンチコメントをしていた人がネットで謝罪文と一緒に自分に起こった奇妙な現象を詳細に語った投稿をSNS上で公開したのよね。


 それに対して自分も同じような目に遭っている、というようなコメント、掲示板への書き込みなどが増えた。


 Vtuber視聴者には、ジェムプロやクロクロしか観ない視聴者も一定数いるみたいだから、そういう情報を知らない人もいるのでしょう。


 ぶっちゃけてしまうと、ジェムプロの裏方として働いている私としても、そういうアンチコメだとか粘着嫌がらせ、揚げ足を取った騒動にいちいち騒ぎ立てる存在というのはイラッとする。

 ほら、開示請求とかするレベルだと手間もかかっちゃうし、嫁姑問題みたいな迂遠な物言いで文句を言って、直接的には非がないかのような言い方をしてくるアンチっているのよね。


 ……レイネさんのあの魔法、教えてくれないかしら。


「さて、仕方ない。リリシアも緊張しておるようじゃしの、ちゃんとやるとするかの」


「お願いしますっ!」


「うむ。では、早速じゃが、これじゃ」


 パチン、と指を鳴らして――凛音ちゃんが幻影を展開。

 そこにはスタジオの上空からの写真と、スタジオが年明けの1月5日から正式オープンであり、完全予約制であること。

 そして新技術カメラの予約受付開始という案内がデカデカと書かれていた。


『おぉー!』

『きたあああ!』

『すげえええええ』

『これが設立1年目の規模かよww』

『新技術早く使わせてくれええええ』

『早くレンタルさせてえええ』


 表示されている情報をリリシアちゃんが順次読み進めていくにつれて、コメント欄がかなり早く、けれど似たような声が溢れていく。


 だけど、ここにいるジェムプロとクロクロのスタッフや、この配信をわざわざここに見に来ていたタレントたちの意識は、そもそもその重大発表に対する驚きは特にない。

 というのも、すでに情報は凛音ちゃんから直々に伝わっていたからね。


 今、スタッフ、そしてタレントたちが何に驚き、何を見て瞠目しているのかと言うと、凛音ちゃんが指を鳴らすと同時に突然空中に描かれた文字や映像、それらの出現に対するものだ。




 ――――実のところ、今回の配信を機に魔法をオープンにしていくという話は、凛音ちゃんとレイネさんから聞かされていた。




 彼女たちの目的は、この世界に魔法という力を浸透させること。

 それと同時に、新技術なんかとは別のアプローチで進めている魔導技術という代物を構築し、公開していくこと、なのだそうだ。


 その手始めに、Vtuberという存在を巻き込む方針でいるらしい。


 というのも、Vtuberという存在の素性は基本的に知られていないし、配信に幅を出せるようになるのであれば、欲しい技術だろう、という点。

 配信上魔法を使っていても、視聴者もあまり驚かずに受け入れられるだろう、という考えもあるみたい。


 そのための講師として、ジェムプロは私が。

 そしてクロクロにはレイネさんのところから派遣される魔王軍所属の社員さんが選ばれている。


 そのせいで、私、統括マネージャーじゃなくなるらしいのよね。

 新設部門の『魔法戦略課』とかいう謎の部署への配属が決まったし。


 ……まあ、今までみたいにほぼ毎日残業、休みでも配信見守り、みたいな生活は脱却できるみたいだし、いいのかもしれないわね。

 さすがに最近、寝不足が耐えられないというか……こういう時、地味に年齢を感じるのよね……。


「はいっ、そういう訳で、予約はすでに受付を開始しておりますので、皆様、この機会に是非新技術を体験してみましょう!」


「うむ。リリシアも説明したが、スタジオにはカメラはあるのでの。どちらもレンタルしなければならないという訳ではない。勘違いするでないぞ、どこぞの誰かみたいにの」


「……スゥーー……えーっと、どこの誰ですかねぇ……?」


「さてのう……。スタジオレンタルできたのにカメラレンタルできなかったら可哀想ですねー、と呑気に言っておったんじゃよなぁ。資料を渡した後なのにのう」


「……はいっ、みなさんはしっかり読みましょうねっ!」


『草』

『リリシアちゃんですね、わかりますww』

『資料に書いてあったのにそれはw』

『めっちゃ抉られて目泳いでるんよw』

『既存のVRとかLive2Dとかに比べても泳ぐ目がしっかり見える新技術は素晴らしい』

『顔芸が色々できそうだねww』

『なるほど、つまりこの表情も一種のプロモーションだった……?』

『これは有能』


「プロモーションじゃないけどっ!? 素なんですけどっ!?」


『草』

『自白やんw』

『めっちゃ素直に認めたw』

『これは自爆wwww』


「……リリシアよ、おぬしもうちょっと演技力を磨くことじゃな」


「ふぐぅ……っ、ふぁい……」


 そんなやり取りにスタッフやタレントたちからもくすくすとした笑いが溢れる。


 超大規模イベントということもあって、全員が全員、思いっきり盛り上げたり気合いを入れようとしていたのだけれど、うん、それはそうよね。

 3日間もあるんだもの。空回りしてしまわないように、ちゃんと緩急をつけた配信ができるように肩の力を抜かないと。


「陛下って凄いですね……」


「上手いこと緊張を完全に解してみせたのは、さすがだな」


 近くでクロクロのスタッフが喋っていて、そういえば、と思う。

 凛音ちゃんがリリシアちゃんを上手く乗せて、同時接続人数に対する緊張感を上手く解してみせた。そのおかげか、段々とリリシアちゃんの声から震えのような不安定さが消えているのだ。


 これから先、社長業と言うべきか、プロデュースや他メンバーのサポートをメインにしていく。

 そんな話を聞いた時は少し不安ではあったのだけれど、あの光景を見るとそれも難しくなさそうに思えてくる。


 臨機応変で、我が強いのに自分を引き立て役にすることもできてしまう。

 けれど、あの子が本気になれば、ソロ配信の時に時折見せるようなカリスマ性で、視聴者を完全に虜にしてしまう。


 ……ホント、あの子って前世絶対魔王でしょ。

 いえ、魔王じゃなくても王様とか権力者とか、そういう過去が本当にあったんじゃないかなって、たまにそう思うのよね。


「さてさて、では一つずつスタジオのコンセプトを紹介していってくれるのは、私の大切な同期の仲間! ルチアさん、ノアちゃーん!」


《はーい、どうもぉ~》


《……コ、バンワ……》


『ノアちゃーん!w』

『ルチアさん、ノアちゃんロボみたいなの連れてるやんw』

『ガッチガチで草』

『そりゃ視聴者数もう40万だし……w』

『普通に考えたら耐えられないんよw』

『40万人って、実際に目の前にいたらすごいことになるな』

『実質一つのちょっとした市町住人全員結集クラス』

『ひえ』

『そりゃそうなるww』


 カメラが切り替わってモニターに映し出されたのは、余裕の笑みを浮かべて手を振ってみせるルチアさんと、身体全体に力を入れているんじゃないかってぐらい、見えない何かに四方八方から圧縮されている最中であるかのように強張ったノアさんね。


 ……大丈夫なのかしら、あれ。





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