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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
180/201

熱意の理由




「――お、ヴェルちゃん! 来てたんだねー!」


「エフィ、お疲れさま」


 こちらに気が付いて声をかけてきたのは、ジェムプロのトップVtuber――つまり、業界でもトップVtuberと言える相手、エフィ。


 スタジオ内は一応暖房がついているとは言ってもまだ肌寒いぐらいの気温なのだけれど、彼女は玉のような汗を浮かべている。

 それらをタオルで拭い、身体を動かした爽快感を伴った笑みを浮かべてこちらに小走りに駆け寄ってきた。


「あれ、私汗臭い!?」


「いや、大丈夫だよ」


 というより、私がいるというエフィの大きな声に合わせて、常時展開している薄っすらとした認識阻害を解除したものだから、周りからの注目が一気に集まってきた。


 別に見られることには慣れている――というか、前世の魔王という立場であった時代に嫌になるぐらい見られていたし、気にしていられなかったぐらいのものだったけど……。


「おぉ……、ホンモノ……」


「マジで見た目とモデル一致じゃん……。あれ、バレないのか?」


「魔王様、マジ魔王様、魔王様」


 ジェムプロのスタッフとはそれなりに顔を合わせてきたけれど、マネージメント業務を行っているとか広報担当の人とかが主となる。今みたいに現場に集まっているスタッフとかになってくると、顔を合わせたことがない人は結構多い。


 そんな人達が口々に私の顔を見てぼそぼそと呟く。

 まあリアルの私のこの顔とモデルの顔が全く一緒なのに身バレしていないのは、普段から他人には私の顔を気にしないように認識阻害の魔法をかけているからなんだけどね。


 あとあっちの人、なんか五七五みたいな感じに揃えて俳句風に言うのやめて。

 夏休み、ああ夏休み、夏休み、みたいなレベルのネタにされてる気分だから。


「あはは……。ごめんね、ウチのスタッフが。――ほらほらー、見世物じゃないよーっ! 仕事に戻って頑張ってくださいっ!」


 散らせつつも地味に励ますというエフィの声に笑いながら、スタッフの人達も三々五々に散って作業に戻っていく。


「なんというか、ずいぶんとフレンドリーな空気感だね」


「あー、元々ジェムプロって数年前まではそこまで大きくなかったじゃん?」


「まあ、Vtuberっていうジャンルが爆発的に伸びたのはここ五年ぐらいだもんね」


「そうそう。んで、急速に会社も大きくなって、人員も増えたかんね。でも根っこは変わってなくてさ。だからなんていうか、小さな事務所のノリみたいなのが残ってて、こういうイベントなんかで外注使わない現場は、だいたいこんなノリなんだよね」


 Vtuberというジャンルが急速に成長したのは、いわゆる〝巣ごもり需要〟が一気に伸びて、動画閲覧者の母数が増えたから、というのもある。

 趣味や遊びというものが外に向かうものが主流だった時代から、家で気楽に楽しめるものが求められた結果というべきかな。


 ともあれ、そういう時代の流れの中で、母数も少なかった時代からVtuber活動を頑張っていた先達のおかげで、このジャンルが浸透し、大きく飛躍した。


 ジェムプロはそういう黎明期から活動していた事務所。

 そうして一気に成長したから、小さな事務所だった頃のノリが今もまだ残っている、という感じらしい。


 私はそういう方が好きかもだけどね。

 まあ、ウチの会社は割とみんなビジネスライクというか、そういうノリがないんだけどさ。


「それで、ヴェルちゃん。そっちのメンバー、紹介してもらっていい?」


「あぁ、そういえば紹介とかしてなかったね」


 さっきから静かなものだなぁ、なんて思ってウチの一期生メンバーに振り返ってみると、3人揃ってガチガチに緊張しているのか、ちょっと表情が強張っているらしい。


 さすがに大御所とも言える相手だから気持ちは分からなくはない。

 ……ただまあ、エフィが大御所ってなんていうか、ちょっと似合わないというか……うん。


 基本的に芸人感が強いから、どうしてもそういうイメージを持てないんだよね。


 いや、Vtuberとして黎明期を駆け抜け、人気を博した存在な訳だし、尊敬に値する相手なのは間違いないんだけど……エフィ相手にそれを表に出すというのはね。


 実際、ジェムプロの中でもそういう扱いを受けてるからね、エフィは。

 イジられて盛り上がるタイプというか、イジらせる方向でボケ倒すというかね。


 ともあれ、3人をそれぞれに紹介してあげて挨拶開始。

 どうやらエフィも初配信から色々と観てくれているのか、それぞれの特徴を褒めるように声をかけてくれていて、結愛ちゃんが泣きそう……あ、泣いちゃった。


「おぉぉっ!? え、私に感激してくれたの!? 新入りの後輩ですら舐め腐ってくる私を相手に!? ど、どうしよう、ヴェルちゃん!? 私今、人が泣いてる姿を見て悦に浸ってるんだが!?」


「語弊マシマシやめい」


 わたわたと慌てながらも、相変わらず天然でボケ倒してくるあたり、さすがエフィというかなんというか。

 結愛ちゃんも泣き笑いみたいになっちゃってるし。

 ただまあ、スタッフさんに至ってはエフィにドン引きした目線を向けてたけど。


「あ、あの、社長! ちょっと結愛ちゃん落ち着かせてきますねっ!」


「私もあっちに付き合ってきますぅ」


「あ、うん。よろしくね」


 玲愛ちゃんに付き添われ、薫子さんに頭を撫でられながら出ていく結愛ちゃんを私とエフィ、そしてレイネで見送ってから、私はエフィに顔を向けた。


「それで、ジェムプロは順調そうだけど、大丈夫そう?」


「あ、うん。今回のイベント、舞台上で何度もリハできたから、ホント助かってるよ。さすがに今までのライブとは全然違うんだなって思う」


「そうなの?」


「うん。ほら、今までの技術ってステージ上に映す巨大なスクリーンがあって、会場が暗くても実際に動いている私たちは明るい場所で踊ったりとかができてたんだよね。でも、今回ってガチの舞台上でそのまま踊るじゃん? 立ち位置とか明るさとか、照明を浴びるとか。そういうのが全然今までと違ってさ」


「あー、そういうね」


 既存の3Dライブはモデルの映像と背景を組み合わせるという方法を取っているから、エフィが言う通り、いわゆる〝中の人〟は明るい場所でパフォーマンスもできたし、レーザー演出だとか諸々の影響を受けずに済んだかもしれない。


 でも、新技術という名の魔道具での撮影は、基本的に背景をそのまま幻術でアニメーションっぽく変質させているに過ぎないからね。

 そういう点も鑑みた上で、ステージ演出とかも実際に行う必要があると思ったからこその、このスタジオ運営だ。


 合成で嵌め込んだステージだったり背景でやればモデルが浮くだろうし、なんというかおかしな映像になってしまう。

 もしそれをやるとしたら、追加で背景部分にも魔法を発動させなきゃいけなくなるのかぁ。


 うーん、グリーンバックとかで嵌め込む、みたいな方法で魔法を展開して、カメラ上だけで背景を作り込めるとか、指定が難しいかな?

 いずれにしてもそうなると魔力の出力も増えるから、その部分の対策とかも打たなきゃいけなくなったり、考えることが多いのは間違いないだろうなぁ。


 そんなことを考えつつ、ちらりとレイネを見れば、レイネも検討してくれるつもりなのか、手早くタブレット端末にタスクとしてメモ書きしてくれている。


「――だからかな。こう、熱が違うんだよ」


「うん?」


 唐突にエフィが言い出した言葉の真意が汲み取れなくて、訊ね返すように声をあげてみれば、エフィが目をキラキラさせながら続けた。


「私たちの今までのライブって、どうしたって自分たちのパフォーマンスと現実に自分が目で観ている景色が違ったから、そこに入り込んでいる感覚みたいなのが薄くて、頭の中で補完してどうにかパフォーマンスしてたんだ。でも、ヴェルちゃんの技術、それにここにあるセットは、しっかりと世界観も目の前に出てくるじゃん? なんかこう、ライブ、パフォーマンスに対する熱の入り方が今までとは違うっていうかさ。テンションが上がるっていうか」


「入り込める、ってことかな?」


「そう、だと思う。変な言い方だけど、今までみたいな完璧を目指すだけだったパフォーマンスじゃなくなるかもしれない。でもその代わり、ライブ特有の熱というかノリというか、そういうものが溢れる、全く新しいパフォーマンスになりそうな、そんな気がするんだよ。いい意味で、再現できないようなライブができそうなんだ」


 きらきらとした目で、明らかに興奮した様子で語るエフィのその言葉に、ジェムプロメンバー達の熱の入りようが腑に落ちた気がする。


 確かに大きなイベントだから熱が入るのも当然。

 だけど、きっとエフィが言うように、どうしたって3D配信でできる限界のようなものがあって、それは普通の技術じゃまだまだ解決するのも難しい。


 でも、今回はそういった限界を超えて、全く違う環境でパフォーマンスできる。

 現実にあるセット、その世界に完全に入り込んで行うパフォーマンスとその楽しさ、興奮といったものが熱になって込み上がり、湧き上がっているという部分もあったからこそ、ここまでのものになってきているのかもしれない。


「――だから、ありがとう、ヴェルちゃん」


「え?」


 突然御礼を言われて困惑している内に、エフィは私の手を両手で握って、さらに続けた。


「こんな舞台を用意してくれたこと。そして、私たちを更に上のステージに導いてくれて、本当にありがとう。私たちはヴェルちゃんのおかげで、もっと上に行ける」


 ……あぁ、やっぱり。

 私はVtuberとして、きっとこの人には勝てないだろうなと改めて思う。

 それと同時に、これから先、この人やその後輩たち。そしてウチの一期生の子たちが、新技術を利用してどこまで羽ばたいていくのかも見てみたい、とも。


 強く、そんな事を思った。




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