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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
178/201

将来を考える




 どれだけ忙しくても平等に時間は流れていて、雑談配信、告知配信を経て、イベントまで残り一週間を切った。


 学校にいながらもスマホを通してレイネと仕事の件で打ち合わせをしたり、昼休みにご飯を食べながらスタッフを含めたミーティングをしたりと、なんだか学生らしからぬ慌ただしい日々が続いている。


 とは言え、そういう仕事はレイネだけでは判断が難しいものであり、私の決定や判断が必要なもの以外はレイネが対応してくれているおかげで、タスクとしては非常にやってる事は少なく済んでいる。


 もしも私だけだったりしたら……いや、まあ最初から新技術配信なんてしていなかっただろうけれど、やっていたと仮定して、自分が会社を起ち上げていたりしたら、激務どころの話ではなかったんじゃないかなって思う。


 ホントレイネ様って感じだよ。 


 ともあれ、そんなこんなで冬休みも近づいてきているので、クラスの空気もだいぶ弛緩している。

 高校2年生の冬というだけあって、大学受験に向けて勉強を開始している生徒も結構な数がいるし、全員が全員、冬休みに向けて胸を踊らせているという訳でもないけれど。


 そう考えると、高校生って微妙な時期だよね……。

 純粋に夏休みだのなんだのって長期休暇を楽しめる程の余裕もないし、かと言って高校2年生から一生懸命勉強するって、なんかタイミング的にも微妙で、遊びにくいと言えば遊びにくいし。




 放課後、私とトモ、ユイカ、それにこのみんの4人は、そんな学校の状況について喫茶店でお喋りをしていた。


「――まあ、ウチの学校は他の学校に比べれば大学への受験者は少ないと思うわ」


「そうなん?」


「あなたたちもそうでしょうに。芸能関係で仕事をしている生徒は、仕事に集中していたいという子もいるもの。無理に今大学を選ばなくたって、仕事が落ち着いてから大学進学を考えるなんて話も珍しくないでしょう?」


「まあ、ウチらもそのタイプだねー。レッスンの先生からも、若い内にレッスンとオーディションを繰り返して実績を作りなさい、なんて言われてるしねー」


「んだね。若い内に大学で色々学んだ方がいいっていう先生もいたけど、やっぱアタシらはそっちの方がいいって思ったから。ほら、最近はトモもアタシもグループが人気出てきたおかげで、ちょっと忙しくなってきたし。ここで二足の草鞋を履くっていうのはちょい厳しそうっていうか」


「やりたい事が決まっていて、その為に必要じゃないなら大学に行く意味なんてないもの。滑り止め、なんとなくで大学に行っていれば就職できる、なんていう時代はもうとっくに過去の話よ。だったら突き詰めてやりたい事をやった方がいいわ」


「へー、そうなんだー」


 なんというか、みんな色々考えていて偉いなぁ、なんて。

 そんな事を思って相槌を打ってみれば、このみんから凄く呆れたような目を向けられた。


「……リンネは、正直言って大学もへったくれもないわよね。もう成功してるし、何より社長だもの。まあ何かを学びたいと言うなら、仕事をしながら大学に通うのも悪くない選択だとは思うけれど」


「んー、そこまでじゃないかなぁ……」


 ぶっちゃけ私の場合、必要な情報はレイネからも学べるしね。


 レイネは元々の性格というか性質というか、知識に対して貪欲なところがあるから色々知っているし、調べて個人的に勉強とかもするタイプ。

 でも、私の場合は必要になるようであれば調べたりするし勉強もしたりっていうのをするのはいいけれど、与えられた課題を与えられた通りにやるっていうのはあまり好きじゃない。

 実際、学校の授業も仕方ないから受けていて、仕方ないから勉強している、というのが正直なところだもの。


「うん、やっぱり私はメリットを感じないから通わないかな」


「まあリンネはそうよなぁ」


「それなー」


 というより、この世界、この時代において大学っていう場所でなければ得られない知識ってどんなものがあると言うんだろう。


 一昔前、インターネットが普及していなかった頃は、専門的な知識を得るためには相応の場所に行かなくてはいけなかっただろうし、情報の選択や取得方法が限られていたからこそ、〝学校で学ぶ〟というのは正しい方法だったのは確かだと思う。


 でも、今の時代、インターネット上に情報は色々と転がっている。

 確かに何もかもが正しい情報という訳ではないから、情報を選択する上での取捨選択方法は必要ではあるけれど、学ぼうと思えばわざわざ学生にならなくても学べるし、知らない事でも情報を取得できる、そんな世界なのに。


 学んだからこそ気付きが生まれて、そこから新たな道が選べるようになって、なんて事もあるだろうから、一概に価値がないとは言わないけれども。


 でもまあ、そういう気付きを得る人間って、別に学校じゃなくても気付きを得る事はあるし……学校だけが特別という訳でもないかな。

 大学というコミュニティで偶然出会った仲間たちと……うーん、それだってただの偶然でしかないし、大学という場所そのもので得られるものとは関係ないし。


 うーん……?


「……大学って、何のためにあるんだろうね」


「へ!?」


「リンネ、一体どしたん!?」


「……何のためにって言われると、確かによく分からなくなりそうだわ」


「このみんも!?」


「えぇ、何事!?」


 私の独り言めいた言葉に、何やらこのみんにも思うところがあったらしい。

 混乱するトモとユイカを他所に、私とこのみんはなんとなくそんな事を考えてため息を零していた。






「――大学に行く意味、ですか?」


「そう。いや、私もそろそろ高校卒業に向かって考える事が増えてきたなぁって思ってさー」


 そもそもウチの学校、学校側の方針的にも大学進学率とか一切気にしていない。

 芸能関係で頑張っていたり、実家の仕事だのを継いだりという形をサポートしているだけあって、その辺りは生徒の意思に任せている節がある。


 だから、わざわざ進路希望調査みたいなのもやらないし、相談は乗るけど大事な事なんだから家族と相談して自分で決めなさい的なスタンスを貫いている。


 そしてそれは、実は我が滝家もそう。


 お母さんは「凛音ちゃんはもう会社も持ってるんだし、カレッジライフを送りたいなら行けばいいし、そうでもないなら行かなければいいんじゃない?」とあっさりと回答。


 ユズ姉さんからは、「既存業界じゃ太刀打ちできないクオリティで、かつ安価な新技術が発表されるのよ? これからV市場は広がるでしょうし、凛音ちゃんの会社は順風満帆が約束されているようなものなのに、大学に行って何かしたい事でもあるの? 大学に行ったところで将来は約束されないわよ?」と真顔で問われる始末。


 もうね、行く意味は一切感じていないんだよね。

 ただまあ、なんというか、決断するに欠けているというか、踏み切れていないのも事実だったりするんだよね。


「――――なので、ここは一つレイネという腹心かつ相棒とも言える相手の意見を聞いてみよう、と思って」


「凛音お嬢様の人生経験を豊富にする、という意味であれば通うのも悪くはないかと思います。ただ、正直に申し上げますと、大学に通う必要があるかと言えば、それはないかと」


「あ、やっぱり?」


「はい。確かに大学は専門的な学びを得られるという側面もありますが、どちらかと言えば現代においては『大卒』という肩書きを得る程度に過ぎません。そんなものが武器となるのは就職先を探す際に多少便利になるぐらいのものですし、そもそも凛音お嬢様はすでに会社を起ち上げていますので、必要かと問われれば不要と言えます」


「あ、ハイ」


「ただ、大学という場で得られる交友関係などが、将来的に役立つ可能性もない訳ではありません。人生は一度きり……と、私たちが言うのもおかしな話ではありますが、そういう経験をしてみるというのも一つとも言えますね」


「なるほどねー……」


 うん、まあそれはそうだよね。


「……うん、決めた。私、大学は今は行かない」


「今は、ですか?」


「うん。まあ通う必要がありそうだなって思ったら通う事にするよ。世の中には大学に行きたくても行けないという人もいるだろうし、ちゃんと勉強したいって思っている人だって当然いると思うんだよね。そんな人の席を、私みたいにふわふわとした感覚で「じゃあ行こうかなー」って浅い考えで埋めてしまうというのも、やっぱりちょっとどうかと思うしね」


「そこまで考えなくてもいいと思いますが……、凛音お嬢様がそう考えたのであれば、それで良いかと思います」


「うん、スッキリした。ありがとね、レイネ」


 こうして、私は大学進学をすっぱりと選択肢の中から外したのであった。






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