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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
最終章 集大成
174/201

最終章 プロローグ




 季節は冬本番。

 夏の残暑は最近ではすっかりと鳴りを潜め、秋を通り超えて突然冬がやってきたかのように気温が下がり、本格的な冬が突然始まった。


 季節の変わり目特有の、服装に凄く悩む時期を無視できたと言えば、まあ悪くもない。

 もっとも、魔力障壁を使える私の場合、ちょっと油断したってどうとでもなるけれど。


 朝の空気が、刺すように冷たく、吐いた息が白く染まる。

 かつて、前世を生きていた頃の冬に比べればずいぶんと温かく過ごしやすいと言えるけれど、それでも寒いものは寒い。




 ――――学校に向かう道すがら、この一年を振り返って空を見上げる。




 ちょうど一年前。

 私は前世の記憶もなく、容姿の特異性から自分自身をなるべく隠していたいなんて考えていて、ウィッグをつけて、長袖を着て、肌を隠して過ごしていた。


 毎日のようにカラコンをつけて、目の色も日本人らしく。

 違和感を悟られないように俯いて。


 埋没したくて、消えたくて。


 どうして自分はお母さんと違うんだ、って。

 どうして自分は周りとは違うんだって、そうやって嘆いてばかり。


 けれど、そんな私の苦しみがお母さんも苦しめていた。

 ユズ姉さんにも、ずいぶんと心配をかける結果になっていたなんて、まったく気が付けないぐらいに、自分の事ばっかりだった。


 そんな私にVtuberという活動を、新たな自分を、自由な自分を曝け出せる場所を与えてくれたユズ姉さん。


 そういえば、当初の私はすごく嫌々引き受けたんだよね。

 どうしても乗り気になれなくて、半ば強引に追い込まれるように、あるいは腕を引っ張って引きずり込むかのように、ユズ姉さんに色々と押し付けられたんだった。


 ずいぶんと遠い昔の話であるような気がする。


 でも、自分のモデルを描いてみて、私はきっと、この時に前世の記憶の欠片みたいなものに触れたんだと思う。

 堂々としていて、自信に満ち溢れている、同じ容姿なのに対照的な私。

 それは私の憧れでもあった。


 そうやって、Vtuberとして活動を開始する――という、その瞬間に。

 私は前世の記憶を取り戻した。


 前世の自分に、今の私が乗っ取られるという訳ではなくて、私が〝妾〟であった頃を思い出した、というのが正しいけれど、最初は随分と困惑したというか、前世の意識に引っ張られていたっけ。


 でも、おかげで私は今の私になれた。


 ウィッグを脱ぎ捨て、カラコンをつけずに顔をあげて歩けるようになった。

 肌の色が日本人らしい色合いとは違う、それがなんだと言えるようになった。


 私の見ていた世界は、大きく広がった。


 そうして学校に行って、ユイカとトモと話すようになって。

 いきなり大手のVtuberとコラボしてちょっとしたいざこざに巻き込まれたり、リアルでも変な男に絡まれて問題が起こったりもしたけれど、結果としてレイネとも再会したし、このみんとも友達になって。

 

 そうやって私の世界はどんどんと広がった。


 そして魔法という技術をこの世界でも活用していくと決めてからも、なんだかんだで世間を賑わせてきた。

 まあ、さすがに魔法そのものを浸透させたり、魔石を市場に流していく事については長期目標――つまり、ゆっくりと徐々に浸透させていく事を前提にしている。


 あまり急ぎ過ぎてもろくなことにならないだろうしね。


 実際、〝新技術〟と称して私たちが使っている魔道具は、この世界では革新的な技術として注目されていて、既得権益を害される形となった会社がおかしなちょっかいをかけてきた、なんて事もあったしね。

 もっとも、そんなものも返り討ちにした訳だけれど。


 ともあれ、〝新技術〟カメラ、それに貸しスタジオ運営。

 さらに一期生こと【Pioneer】の始動。


 そうやってこの一年間突っ走ってきた最後の仕上げが、Vtuber業界の最大手事務所である二社とのコラボイベント。


 ユズ姉さんが裏方として働いている、アイドル系Vtuber事務所、『ジェムプロダクション』。そして、Vだけじゃなく数多くの配信者を擁する『CLOCK ROCK』との、スタジオオープニングイベントと共に行う二社の超特大コラボ、クリスマスイベントの本番が、いよいよ2週間後に迫っている。




 ――――本当に色々あったなぁ。




「あれ、リンネじゃん。おーい、リンネー」


「おっはよー」


「おはよ、二人とも」


 学校の校門を超えた先、昇降口で声をかけてきた二人に上履きに履き替えてから小走りに近寄って、肩を並べて歩く。

 二人も周りに比べると若干薄着に見えるけれど、その辺りは魔力障壁を上手く使えるようになってきた証拠だね。


 そんな事を考えていると、二人も私が何を見ていたのか気が付いたらしく、少し得意げに笑ってみせた。

 

「どうよ、リンネ」


「ウチらもなかなか様になってきてんじゃない?」


「うん、そうだね。いい感じ」


「だっしょー」


「さすがに慣れてきたよー。でも、おかげでめっっっちゃ助かってる」


 何が、とは大っぴらには言わずに続ける会話。

 私たちが魔法がどうのなんて言ってたら、ゲームの話をしているのか、それとも中二病か何かだと思われそうだしね。

 さすがに実際に魔法を使っているとまでは思わないだろうけどさ。


「そういえば、リンネはクリスマス忙しいんだっけ?」


「うん、色々やる事があるからね。二人は?」


「ウチらはフリーだから、また今年も二人でテレビ観ながらケーキ食べたりだべったり、かなぁ」


「んだねー。どうせならクリスマスパーティーとかやろうかと思ってたんだけどさー」


「あらら、そうなんだ。ごめんね」


「いやいや、リンネが謝ることじゃないっしょ」


「それなー。なんならこのみんも誘って、リンネのアレ(配信)観るってのはどう?」


「お、いいねいいね。なんかもうすっごい話題だし。アタシめっちゃ楽しみ」


「それなー! よっし、このみんに声かけよう!」


「おー!」


 二人が盛り上がる姿に、私は恥ずかしいとかそういう気持ちよりも先に、成功させなくちゃ、なんて思ってしまう。




 こうして、ちょっとだけセンチメンタルなような、なんだか感慨深いものを抱えて。

 私の、今年最後の大イベントに向けて、長いようで短いラストスパートが始まった。







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