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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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第五章 エピローグ




「――お疲れさまでございました、凛音お嬢様」


「ん、ありがと」


 レイネに渡された紅茶を受け取りながらほっと一息入れつつ、SNSで配信――というか、各所のコラボイベント発表の反応を見る。


 ジェムプロ、クロクロの告知に対する喜びの声。

 イベントの来場はないのか、してほしい、グッズは出ないのか、コラボグッズ希望などなど、多種多様な反応が返っているみたいだけれど、概ね好意的なものばかりだ。

 攻撃的というか批判的なものだと、「またこの2社が優遇されるのか」とか、「魔王とか言いながらすり寄ってるとか姑息」だの、まあ取るに足らないものでしかない。


「ふふ、すり寄ってる、かぁ」


「処しますね」


「やめてあげなさい。普通に考えれば、すり寄っているという判断が間違っているとは言えないもの。ただ私たちの場合はお互いにお互いを利用している(・・・・・・)のだけれど」


 スタジオも、新技術も。

 業界内の最大手2社にばかり優先的に対応しているのは、単純な話で『業界最大キャパでしっかりやれるかを見たい』という私やレイネの都合によるものだ。


 私たちにとってみれば、『業界最大キャパで技術的に問題なく配信ができる環境である』という実績は今後の指針、そして担保としても考えられるようになる。

 ウチだけだとまだまだ人数が少ないし走り始めたばかりなので、そこまで大きなイベントは打てないしね。


 一方、ジェムプロとクロクロは最新技術、最新設備を使った業界の最先端のものと成り得る代物を、今回のイベントに関しては無料で(・・・)使える。


 これはVtuber業界のみという訳ではないけれど、大規模な公演をするというのはなかなかに大変だ。


 本来なら公演当日以外にも入念に事前のリハーサル、動きの練習なんかをやりたいのに、自社スタジオでない以上、リハをやるためにライバー側、そしてスタジオ側のスケジュール調整、リハにかかる出費と公演での収支バランスなど、諸々考えると簡単には手が出しにくかったりするそうだ。


 ユズ姐さんからも聞いたけれど、ジェムプロは自社スタジオを用意しているものの、それだってキャパに限界もあるし、多くのライバーがイベントを行うために使うため、半年分程度のスケジュールは常に埋まっているらしい。


 ライバーの人数が多い分、そうしたイベントの数も増えていて、おかげで生誕ライブのスケジュールをズラさなくちゃいけなくなったり、大規模なイベントが打てなかったりと、なかなかに大変な事になってしまっているという、頭の痛い課題があったそうだ。


 一方クロクロは、大きなスタジオを持っている訳でもないため、複数人のライブであってもそこまでのキャパ、人数ではできないみたい。


 クロクロはやるとしたらリアルイベント――つまり、舞台上に巨大なスクリーンを置いて、そこに投影させながらその裏で本人たちが動き回るという形になるのだけれど、それもまたリハ回数の都合から、どちらかと言えばトークイベントに近い形になるのだとか。


 元々クロクロはライブとかに力を入れているジェムプロとも違うタイプだし、それで視聴者が楽しめるのならいいとは思うけれど、Vtuberというジャンルにおいては配信でイベントは積極的にやりたいものの、どうしてもそういうイベントには環境、方針的にどうしても力を入れにくいという課題があった。

 ジェムプロのライバーの生誕ライブとかにコラボ枠で出たりするケースもあるし、やれないって事はないんだろうけれど、環境が最大の課題みたいだね。




 ――で、そんな両社の課題を解決できるのが、ウチのスタジオという訳だね。




 バカでかい倉庫をスタジオに改装していて、しかも映画の撮影スタジオみたいに大量に独立しているおかげで、スケジュールを取りやすい。

 それぞれがそれぞれの痒い所に手が届き、そういう意味でお互いにwin-winだからこそ、私たちは手を組んでいるのだ。


 なので、すり寄っているとか贔屓しているという表現は正しくないのだけれど、わざわざそんな裏事情を説明してあげる義理なんてないしね。


 どうせそういうのは一時の感情で騒ぎ立てたいだけだろうから、放置一択である。

 まあ、こうやって放置するからこそ、それが許されているなんて勘違いする者も出てきてしまうのだろうけれど……私だけがいちいちそれらを罰し、律するという訳にもいかないしね。


 それにしても……。


「エフィたち、荒ぶってるね……」


「情報を解禁できて嬉しい、というのもあるかもしれませんね」


 私が見ていた、交流のある面々のモノロジー。

 それらを見ていると、リハ用の撮影ワンシーン――ただしリハっぽい感じで動きやすい服装になっている幻影を被せたもの――をアップして、次々に自慢……というか、共有しまくっている。

 それに触発してみんなでオフショット写真みたいなのとかもね。


 それに対するファンの反応もすごい。

 神だの、こういうのが見たかっただの、技術屋とかVの裏事情を知っているっぽい人からはスーツとか機材どうなってるんだとか、まあいい意味で阿鼻叫喚というべきかな。


 そしてクロクロもまた、同じようにオフショットを公開している。


 さっきの配信コメントで話題になったヴィル様というのは、クラーヴィルという名前で、レッドドラゴンをモチーフにしたクロクロの男性Vtuber。

 同じくソリアというのもクロクロ所属のピクシーモチーフの女性Vtuberなのだけれど、この二人、実はクラーヴィルさんの方が常識人で、ソリアさんは酒豪で酒乱配信の常連かつ下ネタバンザイというはっちゃけたタイプである。


 そのせいで二人のコラボ配信なんかでは、初見の人が印象が真逆という衝撃からなかなか立ち直れず、ちょっとした放心状態になったりもするのだとか。

 個人的には好きな組み合わせなので、今度のイベントでも途中のトークイベントなんかではガッツリ絡んでもらう予定だ。


 是非とも、ジェムプロしか観ない人や私たちしか観ていない勢にも、あの二人のおもしろトークでお腹を抱えてもらいたい。


 ちなみに幻影のサイズが全く違い過ぎるのに目と目が合うようになっているのは、幻影による〝事象認識補完〟を働かせているおかげだ。


 基本的に、幻影は幻影に過ぎない――つまり、実体ではない。

 お互い人間同士である以上、実体はほぼほぼ直線上に視線があるけれど、幻影が竜と妖精となると、目を合わせるには見下ろす、見上げるなんかが必要になってくる。なので、当然ながら演者同士が目を合わせるだけじゃ視線の向きが明後日に向いてしまう。


 そこで働くのが〝事象認識補完〟で、幻影の魔法技術が高いほど、現実的なものに沿った動きになって、目と目が合っているならば幻影もそれに合わせて動く、という訳だ。


 このクラスの幻影魔法は私には使えないし、単純な幻影魔法を使える程度では、ここまでの精度の〝事象認識補完〟を働かせることはできない。

 一流の中の一流、その中でも一握りとも言えるような、超一流の術者でなければ、ここまでの精度の魔法は発動できないし、超一流の術者以上の極めたような存在でなければ、魔道具化して刻むような真似はできなかったりする。


 このクラスになると、私が魔王として生きていた前世の世界であっても、彼女以外に使える存在はそうそういない。


「――凛音お嬢様、こちら繋ぎました」


「お、ありがと」


 SNSをチェックしながら私が色々と考えている内に、レイネが準備を済ませてくれたらしく、私の前にタブレット端末が浮き上がる。

 そこには一期生の面々、それに自室にいるロココちゃんの顔が映っていて、各自のマネージャー陣はカメラをオフにして同席するという形で参加している、ウェブミーティングの画面が映し出されている。


「待たせてごめんね」


《いえいえ! お疲れさまです! それにしても凄いですね、今度のイベント!》


《すごかったですねぇ……》


《ほ、ホントに凄い、です……! まさかそんな大規模なイベントが待ってるなんて……》


《さすがでございまする!》


 イベントの告知、その配信内容を改めて観ていてくれたのか、一期生の面々からも三者三様の反応が返ってくる。


 玲愛ちゃんは素直に喜んで真っ直ぐ称賛を伝えてくれているけれど、挑戦的。

 きっと自分も参加したい、参加して実力を発揮してみせるという自負と自信が、熱意となって彼女の中に燃えている。


 薫子さんは、まだまだ遠い世界の出来事を見ているような印象だ。

 どちらかと言えば自分とは関係ないものを眩しく思いながら見つめている、というところかな。


 結愛ちゃんは……ある意味、かなり変わった。

 元々引っ込み思案で、まだまだ自信がついているとは言い難いけれど、それでも以前までのおどおどとした空気は少しだけ引っ込んでいて、眩い世界に対する憧れのようなものを宿していて、それでいていつかは自分もその場所に行きたいと言わんばかりに、小さく静かに燃えている。


 ロココちゃんは……なんでドヤ顔?

 まあいいや。


「ありがとう。さて、みんなも観ていた通り、来月――12月のクリスマスシーズンに、私たち『魔王軍』にとっては凄く大きなイベントがある。3日間、業界最大手とも言われる2社と肩を並べて、私たちはこの業界に完全なる革命を起こすことになると思う。加えて、新技術カメラの台数限定での一般貸与、貸しスタジオの実働開始なども年明けからスタートだね。世界の流れが大きく変わる、その転換点とも言えるタイミングに差し掛かる」


 そこまで話して一人ひとりの顔を見ると、うん、さっきと同じような表情がそれぞれに浮かんでいた。


 なので私は、にっこりと微笑んで続けた。




「――せっかくの転換点だから、みんなにも出てもらう事にしたよ」




《――……ぇ?》




 

 宇宙猫みたいな顔が並んでいる光景に、私はくつくつと喉を鳴らして笑った。








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