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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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訓練風景






「――にぎゃああぁぁぁっ!?」


「ちょっ、トモ!? こっちくんな!?」


「助けてユイカ無理! マジむーーり!」


「落ち着いて! 魔法――きゃっ!? ちょっ、なんでこっちに逃げるのよ!? 射線通らないわよ!?」


「あーっ、むり! ヘルプこのみん!!」


「ちょっ!?」


「ぬあーーっ」


 トモとユイカ、それにこのみんがぶつかって転んだところに、みんな大好き緑色の皮膚に小さい身体、餓鬼のような出っ張ったお腹と醜悪な顔のゴブリンくんが、棍棒を振り下ろしたところでぼふんっと煙になって消えた。


 ……あー、うん。

 まあ、実戦経験のない平和な時代に生まれて、これまで育ってきたもんね。

 とは言え、てっきり前に私たちに危害を加えようとしてきたどこぞの政治家の子飼いの男たちをふっ飛ばした時みたいに、あっさりとクリアできるかと思ったんだけどなぁ。


 ここ(・・)の仕様上、怪我に発展する事はないからいいんだけど。


「……すごい……」


「ん? どしたの、神楽先輩」


「あっ、その、まるで本物(・・・・・)のようでしたので……。この技術を使えば、最新の3D技術を駆使したCGよりも圧倒的にリアルな映画とか撮れるんじゃ……」


 さすが芸能人。

 そっちの方に発想が飛ぶんだね。


 ただまあ、この技術については表に出すつもりはない。

 レイネが常に付きっきりで仕込まなきゃいけなくなるし。


「うへー……ヤバいって」


「メッチャリアルじゃん、これ……」


「さすがに近づかれると怖いわね……。幻影(・・)だって事は判っているのに、表情や気配がリアル過ぎるわ……」


 こっちに戻ってきて愚痴る3人娘ズが口々に感想を口にする。

 そんな中、このみんが私に顔を向けた。


「――それにしても、本当にここ、魔王城の地下(・・・・・・)なのよね?」


「うん。だだっ広いだけの空間だね」


「確かに私たちが入ってきた時はそうだったけれど、これ……レイネさんの幻影魔法のせいで、完全に洞窟の中にいる気分なんだもの。声も少し反響するし」


そういう魔法(・・・・・・)だからね」


 そうなのだ。

 このみんの言う通り、ここは魔王城の地下。

 みんなが今しがた戦っていたのも、この周りの光景も、全てレイネが擬似的にダンジョンを再現させているに過ぎない。

 レイネの結界と幻影魔法を織り交ぜた複合魔法によって生み出されたものだからね。


 いや、さすがに異世界のダンジョンにいきなり連れて行くなんて、私だってしない。

 命のやり取りとなる魔物との戦い以外にも、ダンジョンは即死級のトラップだとかが設置されているような場所だもの。


 いくら私とレイネが守って、いざという時は治癒魔法で傷を癒す事だってできるとは言っても、痛い思いや辛い鍛錬をさせたい訳じゃないし。


 それに、私たちはともかくとして、この世界で生まれ育った一般人を異世界にいきなり連れて行った結果、身体に何か異変がないかとか、病気持ちのウイルスとか、そういう心配はないかとか、私たちには分からない。


 あの自称神の少年――というかまあ、本当に神なのだろうけれど、あの少年神にその辺りの事とか教えてもらえば良かったかもなぁ。

 まあ過ぎた話だし、悔やんでも仕方ないけどね。


 一応、私とレイネの場合はそれらを魔力障壁の影響で身体に有害なモノは完全にシャットアウトできるけれど、他のみんながそれをできる訳じゃないし、確証が取れて、かつ本物と戦えるぐらい戦闘慣れして、希望があれば連れて行く、ぐらいの感覚でいる。


 そうなったら前世の事とかも含めて話そうかな、とは思うけど、そんな必要はなさそうな気もしてる。

 今更前世を持ち出さなくても、「リンネだもんね、なんでもありでしょ」って納得されそうだし。


 ――――私は近い未来、この世界に魔道具カメラを普及させる。

 それに併せて魔石の存在も発表して、その有用性を訴えたりしたら、当然どこで採れるのかって話にもなるだろう。


 そうなったら、魔石を採れる場所――つまり、ダンジョンがこの世界にも必要になったりする。

 今のところ、この世界に代替品となるようなものはなさそうだしね。


 もしそんな事になったら、この世界にダンジョンを大量発生させちゃった方が手っ取り早い気がするんだけどね。

 私だけで魔石を手に入れても、全然需要と供給のバランスなんて保てないし、勝手に採ってこい、とした方が楽だ。

 もっとも、いくら私でもダンジョンコアを生み出すなんてそうそうできそうにないけど。


 どうするべきか、まだまだ考えるべきこと、解決すべき問題は山積みではある。

 けれど、だからって「やっぱやーめた」と投げ出してしまうつもりはない。


 魔石、魔法、魔道具。

 これらはいずれはこの世界に普及させるつもりでもあるので、ゆっくりと浸透させていくつもりだ。

 そして、そんな私だからこそ、あの少年神も背を押したんだと思う。

 なんとなくだけどね。


 そういった未来を見据えて、ちょっとした運動と戦いの空気感を知り、実戦的な魔法展開に慣れる事を目的として、今日この場を設けている。


「それより、もうちょっと射線を空けて戦うことを意識した方がいいわね」


「それな。あと、逃げる時は仲間のいない方。これ大事」


「でも、他から敵引っ張ったら危なくね?」


「そうね……。今は他の通路からは出て来てないけれど、想定しておく事は悪くないわね。だとしたら、役割をもう少し整理して――」


 トモたちは今の戦いの改善点をお互いに話し合い。

 今後の立ち回りを相談しているらしく、トモとユイカが思いつく問題点を挙げて、このみんが意見をまとめて改善案を出す、という形でまとまってる。


 あの3人、バランスいいんだよねぇ。

 まあ、ダンジョン攻略っていう視点で考えると前衛と支援系統の不足感は否めないけど。


「では、神楽さん。始めましょう」


「――っ、はいッ!」


 作戦会議をしている3人とは打って変わって、今度は神楽さんの番だ。


 この世界の退魔を生業とした一族の娘。

 彼女の身体に施されていた古い技術は、おそらく何処かの代で正統な技術を失してしまったのだろう。


 おそらく、やがて徐々にただの慣習となり、簡素化され、よりにもよって改悪(・・)されたんだと思う。

 いや、悪意や害意があったか定かじゃないし、変質してしまった、とも言うべきか。


 結果として、彼女の力はその多くをおかしな術式に取られてしまい、結果として魅了魔法にも近い効果を引き出していた。


 しかもその本質は、常時発動の上に強制発動。

 本人の魔力――彼女の家風で言えば霊力――が減少し、術式を発動させる力が足りなくなってしまっても、術が止まらずに命を削って常時発動してしまうという、実に厄介な代物になっていた。


 さすがに初対面で「あなた、死にますよ」なんて言えないし、私の事を怖がっていた彼女にそんな言葉を投げかければ、取り乱したりしそうだったので、一旦は言葉を濁しておいたのだけれど。


 ともあれ、今日は訓練と称してその力の動きを観察する。

 私やレイネじゃこの世界の技術には疎いし、ロココちゃんが隠れて見ているのだ。


 意気込む神楽さんを見て、私はレイネに合図するように頷いてから、人差し指と中指を立ててくいっと振ってみせる。何の魔物を出すかという合図だ。

 レイネもそれに頷いてから、魔法を展開させた。


「……ぇ」


 ずしん、ずしんと響くような足音。

 そこに現れたのは、ゴブリンさんと並んでファンタジーの世界によくいるタイプの緑肌の強化系、ホブゴブリンさん。曲がり角風になっている場所からの登場である。


 オークとかオーガとか、そういう類もいるし知ってるんだよ。

 でもさ、オークは本物は体臭がその、なんていうか、こう、饐えたようなニオイ、とも言うべきかな。ハッキリ言って臭いっていうイメージが、ね。見たら瞬時に攻撃しちゃいそうなんだよ、私が。だからナシ。


 一方、オーガは身長で2メートル半ぐらいから3メートルぐらいあるゴリマッチョレベルの筋肉持ちで、威圧感もある。

 持ち前の体躯を活かした戦法は、おそらくこの世界の住人では相当な鍛錬を積んでいる達人と呼ばれるような存在でもなければ対処できないだろうね。


 なので消去法、身長は2メートル前後、細マッチョというよりはちょっと太めのホブゴブリンさんで間を取ったのだ。


 膂力はゴリラに近いし、動きもそれなりに早い。

 ゴブリンに比べれば雲泥の差ではあるけれど、まあ、戦いを生業にしている神楽先輩なら、あれぐらいは相手にできるでしょ。


 ほら、この世界には鬼とかいるし。

 知らないけど。


「――ひッ!?」


 間合いを詰められ、振るわれた腕。

 それが神楽先輩に当たったところで、ぼわん、と煙になってホブゴブリンさんが消えていき、残された神楽先輩がへなへなと力なく座り込んだ。




 ……あるぇ? なんで??





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