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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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交渉




 観劇の時間が終わって、お目当ての人物の魔力を追いかけるようにやって来た廊下。

 その先を歩いている目的の人物――花宮カレンこと、神楽魅琴先輩に声をかければ、こちらを振り返るなり、恐怖に染まるような表情を浮かべ、私とレイネを交互に見ていた。


 ……なんだろう、この、「絶対に会いたくない相手に見つかって声をかけられたんですけど」みたいな表情。


 私、この人と直接こうやって顔を合わせるのって初めてだし、嫌われるような覚えはないんだけど。

 というか女優なんだし、もうちょっと顔を取り繕ったりはしないのかな。


 そんな事を考える、僅かな沈黙。

 その沈黙を破ったのは、私に対する返事や用向きを尋ねる言葉でもなく、いつも通り私の斜め後ろをついて歩いてきていたレイネだった。


「……おや? どうにも見覚えがあるような気はしましたが、いつぞやのパーティーで会いましたね」


「ひ……っ、え、あ、んんっ。ご、ご無沙汰しております」


「ん、レイネ、知り合いだったの?」


「交流があった訳ではありませんが、私が篠宮の家を掌握するため――いえ、次期当主として動いていた頃、似たような家柄の面々の顔合わせを兼ねたパーティーがありまして。その時に見かけた、という程度です」


「へぇ、そうなんだ」


 篠宮の家が関わる催しっていうと、なんか旧華族だかなんだかの由緒正しい家々の集まり的な感じかぁ。

 本当にそんなの、このご時世にあるんだなぁ。


 なんかこう、悪役令嬢みたいなのとかいたりするのかな。


 黒髪ドリル……うん、そんな小さい子がいたら可愛いかも。

 おーっほっほっほって笑ったり、ですわ口調とかしててほしい。


「……そ、その、なぜ、篠宮の次期当主ともあろう御方が、そのようなメイド服と言いますか、お仕着せを……? あ、そちらが軍服ですし、それに合わせてコスプレ的な――」


「――正装ですが何か」


「……はい?」


「凛音お嬢様は確かにコスプレではありますが、私のこれは正装です。私は凛音お嬢様の侍女でありメイド。つまり、この服装は当然の帰結という訳です」


「はい?」


「それとも――よもや神楽の一族であるあなたが、何か、私に文句でも?」


「ひぃっ!? い、いえ、そんな! 滅相もないです、ハイ!」


「結構。それよりも、凛音お嬢様があなたに用があるそうです。時間を作れますね?」


「は、はいっ!」


「凛音お嬢様、時間はあるようです」


「……なんかすみません、先輩」


「い゛っ、いえっ! 大丈夫です!」


 なんかもう圧迫面接というか、あるいは上司による無茶振りというか。

 そんなテンションで時間があるかどうかを訊ねるどころか、時間を捻出しろって指示したレイネの強引さとか、そういうものを引っくるめて謝罪したのだけれど。


 ……なんで私の方が恐れられているんだろうか。

 めっちゃ顔色悪いじゃん。


「えっと、私、先輩とは初対面ですよね? なんでそんなに、なんかこう、怖がっているというか……」


「っ、けっ、決してそのような事は――!」


「――ない、と? 私の前で、本当にそう言い切るつもりですか?」


「ありますごめんなさい!」


 ……え、あるんだ。

 別に何かした覚えがある訳じゃないんだけど。


 それにしたって、何がどうしたとか聞かせてもらえる雰囲気じゃなさそうだし、とりあえずレイネに軽く釘を刺してから、近くの自販機スペースに移動する事に。

 こちらから声をかけて時間を作ってもらったので、飲み物の希望を聞いて奢りつつ、落ち着くのを待ってもらう。




 ――――結論から言えば、どうやら彼女、レイネが推察した通りこの世界の裏側というか、神秘を本当に感じ取り、視たり祓ったりなんていう事をする一族として、修行中の身でもあるようだ。




「――なので、その、冬休みが明けた途端に学校から〝人ならざるモノ〟が消えていて、その原因になる存在が何かを探ったところで、その、滝さんに気付きまして……」


「あー……、それで化け物的な感じに思われていた、と」


「……包み隠さず言うなら、そうです……」


 ……うん、なんかごめんね。


 彼女が私の存在に気が付いたのは、時系列的に言えば、私が前世を思い出して魔力を取り戻し、操るようになった頃だ。


 私もこの世界にそういう存在――いわゆる神秘というか、悪霊とかそういう存在を探していた頃、探知のために魔力を周囲に広げたり色々やってみたりもしてたけれど……この世界の神秘は弱く、脆い。

 結果、私の探知用の薄い魔力にすら抗えず、この世界のそういう存在は風船が割れるように弾け飛んでしまっていたんだよね、レイネ曰く。


 それだけなら別に良かったのかもしれないけれど、力を感じ取れちゃう神楽先輩にとっては、私にとっては「薄く広げた魔力」であっても「強大過ぎる力」を感じ取っていたせいか、学校に来る度に当時は頭がおかしくなりそうだった、らしい。


 まあ無理もないかもなんだけどね……。

 ほら、この世界の神使であるロココちゃんでさえ、私から漏れ出る僅かな魔力にさえ、最初はホントに怖がって、会話すら成り立たなかったもの。


 そんなロココちゃんの持つ力でさえ、この世界の人達にとっては凄まじく強いらしいのだ。

 そりゃ力を持たない一般人ならともかく、神楽先輩のように力を持つ人から見れば、私は確かに化け物と思われてもおかしくないだろうね……。


「……えーっと、ホントすみません」


「うぇっ!? い、いえ! 最近はそういうのないですし、大丈夫ですから! そ、それに、私もそのおかげで、ちょっとやそっとの存在にビビらずに立ち向かえるようになりましたし!」


 ……それはそれで、どうなんだろうね。

 なんかこう、フォローのつもりで言ってくれているんだろうけれど、それって言い方を変えれば、私のせいで感覚が麻痺ってきた、とも言える訳で。


 まあロココちゃんと違って、今日このタイミングまで、半年以上もの時間をかけて私の存在というか、魔力に慣れてくれたおかげで今回こうして私と喋れているんだし、うん、結果オーライってことで。


「あの、神楽先輩は別に敬語じゃなくていいですよ? 私の方が後輩ですし――」


「――無理です」


「……え?」


「無理です勘弁してくださいむしろ私にタメ口でいいですお願いします」


 めっちゃキリッとした真顔で断るじゃん。

 譲れない戦いがそこにあるのかなってぐらいに。

 言ってることめっちゃ情けないレベルなのに、魔王倒しにいく勇者かってぐらい決意に溢れてるじゃん。


「……あー、その、じゃあそうさせてもらうね」


「はい、是非」


「……なんか腑に落ちないものがあるけど、まあいいや……。で、こうして声をかけさせてもらった理由なんだけど」


「お金ですか? いくらでしょう?」


「なんでよ」


 だからなんでキリッとした顔のまま答えが卑屈なのよ。

 何その「ギリ7桁までなら」って補足情報、いらないよ。


「……そうじゃなくて、あなたのその身体に――というより、内側に刻まれてるその術式を含めての話なんだけど」


「……えっと、私の身体に、術式、ですか……?」


「……知らなかったの?」


「え、は、はい」


「あー、なるほど。えっとね、分かりやすく言えば、無駄な術式にリソースを喰われていて力を伸ばしにくくなってるし、さらに強くなれそうな素質があるんだけど、私のところで修行しない? って誘おうと思って」


「……へ?」


 この世界の人間、しかもトモ達とは違って後天的に私に魔力や魔法を教わった人間ではない、元々の神秘持ち。

 そんな彼女をどうやって味方に引き入れようかと考えてはいたけれど、私の実力の一端を理解できるなら、その方が話は早い。


 未だにきょとんとした表情を浮かべている神楽先輩に、今後のプランを具体的に頭の中で形になってきた事の喜びも含め、にっこりと微笑みかけた。





 ……いや、そんな怖がらなくて良くない????






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