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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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第三勢力? いいえ、ゴミ屋敷です(?)




 前世を思い出してそれなりに経つけれど、この世界で私の身内以外の第三者から、それも肌で感じられるほどの魔力を察知した事はない。

 もっとも、今しがた感じた魔力の量はロココちゃん以下、トモたち以上というところなので、私やレイネの力に迫るような、それこそ前世の世界にいた戦士たちのような量には程遠い。


「――つまり、魔法を使って悪さをしてきたとしても、戦いにならない程度の相手、ということね?」


「うん、そうだね。だからそんなに警戒しなくても大丈夫。さっきの魔力は漏れ出ているものだけで、攻撃しようとしているって訳でもないみたいだしね。万が一攻撃してこようとしても、3人の実力なら不意打ちを受けなければ充分に対処できると思うよ」


 客席から出て2階へ。

 登ってきたエスカレーターから少し離れ、周囲に他の生徒がいない事を確認してから、改めて先ほど感じた明らかな魔力が危険なものではないとハッキリと告げれば、3人は明らかにほっとした様子で胸を撫で下ろした。


「相手がリンネみたいな化け――こほん、ちょっと手に負えないレベルじゃないならマシね」


「ねえ、化け物って言いそうになった? よね?」


「えぇ、言いそうになったわ」


「あっさり肯定するじゃん」


 そこは普通、聞こえてないフリして否定したりとかするトコじゃない?

 あっさり肯定されるとか逆に新鮮なんだけど。


 そんな私の考えを察したのか、このみんはジト目でこちらを見てからため息を吐いた。


「あのね……ハッキリ言うけれど、リンネやレイネさんの力は普通の人間から見れば、どう頑張っても化け物クラスでしょう? だいたい、あなたを相手に国が総力を挙げて兵器を用いて戦おうとしたとして、それで負けるの?」


「……さぁ、どうかな?」


「めっちゃ目泳いでるじゃん、リンネ」


「あはっ、うける」


 まあ、正直に言えば『勝負にならない』が答えだと思う。


 そもそも魔力で作った障壁は、魔力がないと打ち破れない。

 銃があっても、ミサイルを放たれても、さらには核やらレールガンやら、科学の結晶とも言えるようなそれらを集め、束ね、周辺被害を無視した攻撃を決行したとしても、私にもレイネにも傷一つつけることはできないだろう。


 一方で、そんな私やレイネは魔法を使って兵器レベルの攻撃ができる。

 それこそ、周辺一帯を更地にする程度の魔法だって使えてしまう訳で、武器や兵器なんてものが手元になくても軍勢相手に戦えてしまう。


 要するに、戦いになったと私やレイネが理解した瞬間に、ワンサイドゲームが出来上がるのだ。

 それぐらいの力はある。


 もちろん、大前提として敵対でもされない限り、人間相手に力を振るうつもりはないけれど。


「ま、そんなリンネにとってみれば警戒する必要ないって言える相手かもしれないけれど、私やトモ、ユイカは最低限警戒するに越したことはないでしょうね」


「んぇ? なんで?」


「分かりやすく言えば、こんな場所で、警察でもなんでもない一般人が銃を持っていると考えて。今回はそういう状況なのよ」


「そりゃ、赤の他人が銃なんて持ってたら……って、そっか、そういうことね」


「あー、なるほどなー。そりゃ他の生徒だって、ウチらが魔法を――他人をあっさりと殺せる力があると知られれば、まあ警戒されてもおかしくないやね」


「えぇ、そうよ。――あ、けどリンネ、私たちがそのせいで普通の生活を失ったとか、巻き込んでしまったとか、そういう考えはいらないからね」


「んだね。これはウチらが望んだことだし」


「そそ」


「分かってるよ、だいじょぶ」


 この辺りの事は何度も釘を刺されているんだよなぁ。

 いや、心配してくれるのは嬉しいけどさ。

 私もお母さんやユズ姉さん、それに3人に関しては今更そんな事は思わないよ。


 ……というか、もうみんな、巻き込まれたなんて言える立場じゃないでしょ。

 だってみんなめっちゃノリノリで魔法練習してるじゃん。


 それで今更、「リンネのせいで普通の生活を送れなくなった!」なんて被害者感出して言われたらゲンコツですが?

 被害者ぶって悲劇のヒロインするには手遅れよ。


 んー、でも、一期生にも魔法を教えちゃったしなぁ。

 今後を考えて、いっそ魔力の封印術式でも組み上げる……?


 どちらかと言うとそういうの、私じゃなくてレイネの得意分野だし、ちょっと相談しておくのもありかもしれない。


 ……うん、チャット送っておこ。


「ともかく、相手が誰か分からない、何を考えているかも分からない以上、私たちだって最低限警戒しておくべきよ。考えすぎかもしれない、杞憂かもしれないけれど、だからって考えずにいられるほど、私たちはまだリンネみたいに強くはないもの」


「りょー」


「とりあえず舞台観にいこーよ。もしも演者なら、誰が魔力持ちか確認もできるっしょ」


「そうね」


「だねー」


「いこいこ」


「……なんかこう、割と余裕そうだね、みんな」


 私の言葉に、3人がきょとんとした顔でお互いに顔を向け合い、そしてその表情のまま、その顔を私に向けて首を傾げた。


「そりゃあ、私たちも警戒するわよ? でも、そもそも、もしも私たちに何かしようとしたって、リンネがいる以上、どうにかなるなんてことなくない?」


「それな。この前の夏休みの旅行の時みたいになるだけじゃん?」


「ほんそれ。むしろ明らかに敵対してる訳じゃないって意味じゃ、あん時より安全っしょ? だったら、そんな焦る必要なさげだし」


 このみん、トモ、ユイカの順に言われ、私も納得する。


 そういえばこの3人、地味に修羅場をノリと勢いで突破したんだっけ……。

 そんな修羅場に比べて、魔力持ちの存在が見つかったとは言っても私やレイネクラスでもなく、脅威たり得ない相手と判った以上、焦燥や恐怖といったものはないらしい。


 逞しいというかなんというか……。

 まあ、いちいち怯えて身動き取れなくなったりするよりはいいかな。


 ともあれそんな訳で、3人でようやく2階の客席へと移動する。


 2階の客席は1階の座席の後部上にせり出すように作られていて、若干舞台が遠い気もするけれど、混雑している1階に比べればかなり空席が目立っていた。

 開演前ということでざわざわとした観客の声が響く中、並んで座れる席がちょうど前の方にあったので、そこへと移動して腰を下ろす。


「……うん、いるね」


 何を指しているのかは言わなくても伝わったようで、3人も頷く。

 私は私で、その存在の魔力に干渉を開始する。


 ――この世界の住人にしては、ずいぶんと魔力量も多い。

 それに、余計な魔力を出さないように隠蔽しようとしているのか、前世に比べればまだまだ稚拙ではあるけれど、隠蔽術式らしいものも感じ取れる。


 ただ……この隠蔽術式らしい代物、なんていうか無駄が多いなぁ。


 こう、ゴテゴテに着飾って、装飾過多になってしまっている残念な代物という印象だ。

 そのせいで、こうして私が干渉していても違和感に気付けないでいるらしい。


 一応、褒められるポイントがない訳ではないけどね。

 実際、私の干渉――レイネ曰く、干渉という名の圧倒的暴力(魔力)による侵食(蹂躙)――に術式が破壊されずに済むのは、この無駄な装飾のおかげとも言える。


 とは言え、これ以上に私が探ろうとすると、そろそろ術式をぷちっと踏み潰しちゃいそうなんだよなぁ……――なんて、そんなことを思っていたら、私の魔力が第三者によって弾かれた。


「――ここからは私にお任せを、凛音お嬢様」


「……ありがと、もう来てたんだ」


 いつの間にか私の隣、空席となっていたその場所に腰を下ろしていたレイネが、小さく告げる。


 突然現れたレイネに慣れていないこのみん達が目を丸くしていたけれど、レイネの神出鬼没ぶりについては、私だって「慣れて」としか言えない。

 どうせどうやってとかいつの間にとか訊ねてみたって、「メイドですので」の一言で済まされるよ、多分。


 そんな事を考えてレイネへと再び視線を戻せば、珍しくレイネの眉間に僅かに皺が寄っていた。


「レイネ?」


「……術式という名のゴミ屋敷を見ている気分です。もしくは、どう見たって誰も使わないものを、「いつか使うから」という謎の理由付けで手元に残し、整理整頓すらできないまま放置しているような、そんな片付けられない者の部屋、でしょうか。いっそ一度踏み潰して消し去った方が良いレベルですね。凛音お嬢様、許可を」


「あぁ……とりあえずやめなさい。相手が何者かを探るのが優先」


「……はい」


 気持ちは分かるけど、ね。

 私も似たような感想を抱いたクチだし。


 そんなやり取りをしている内に、開演を報せるブザーが鳴り響いた。






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