文化祭、始まる
私たちのクラスでの扱いがそんな事になっていると知って、数日。
着々と文化祭の準備は進んでいった。
最近は文化祭なんかでも一般人の入場を規制している学校は多い。
ウチの学園は特に顕著だ。
というのも、ウチの学校は芸能関係やら上流階級的な御令嬢なんかも多い。
それ目当てに変な輩が入ってきたり、記者なんかが入ってきたりっていうのを抑制する必要があるからね。
そんな訳で、生徒は事前に招待客を学校側に提出。
その後、学校側が作成してくれるQRコードを招待客に送るという流れになる。
ちなみにこのQRコード、学生番号に紐づいているようで、招待した人数分以上は利用できなかったりする。
入場口で本人確認もするし、結構徹底して規制しているのだ。
一応、紙に印刷したものを用意してくれたりもするみたいだけど、そっちはお年寄り向けって感じ。
小学生以下の子供は保護者同伴であれば招待がなくても入れるしね。
去年もそうだったらしいけど、ほら。
去年の私、前世を思い出してなかったし、イベントとか普通に休んでたからね。
誰も招待なんてしなかったから、知らなかったよ。
ともあれ、去年とは違うとは言っても、今も学校外に友人が多くいる訳でもないし、せいぜい候補に挙がるとしてもレイネとお母さん、それにユズ姉さんぐらいだ。
まあ、お母さんはテレビ、映画で活躍している大女優な訳で、しかも子供がいるとは公言していないため、こういうイベントには来ないけどね。
変装して誤魔化せば来れなくはないんだろうけれど、どうやら私を見ると構ってもらいたくなって、他人のフリなんて出来そうにない、とのこと。
うん、そうだろうね。
お母さんだもの。
私が子供の頃から、お母さんはこうした学校行事には参加しなかった。
ちょっとだけ寂しいと思った事もあった。
けれど私の場合、自分が目立つ存在である以上、お母さんが登場しようものなら更に目立つ事になると幼いながらに理解して、むしろ絶対に来ないでほしいと思う側だったから、特にそれが原因で拗ねたり、なんてこともなかったけどね。
今なら魔法で隠せるだろうし、別に来てもらっても構わないんだけど、残念ながらお母さんは海外の映画出演が決まり、撮影の為にすでに日本を離れている。
戻ってくるのは年末になるとのこと。
空港に向かう前、また私と離れていなきゃいけないことに誰よりも凹んでいたお母さんが、ぼそりと「引退しようかしら」なんて呟くものだから、ちょっとした騒動になったりもした。
まあ、別に無理に続けるものでもないし、お母さんが今すぐ辞めたって一生困らない程度には貯蓄もあるらしいから、私は好きにすればいいと思うけど。
さすがにそれは言わなかった。
お母さんが決めることだし、私がとやかく言うものではないし。
ともあれ、ユズ姉さんがお母さんに撮影を頼まれたらしいけれど、ユズ姉さんも忙しい。
ジェムプロを支える中心的な人材だしね。
なので、結局レイネが来るついでに撮影してくれることになった。
ちなみに、ロココちゃんは来たがるかと思いきや、そうでもなかった。
というのも、ロココちゃん的に『お祭り』とは基本的に祭事であり、神仏先祖への感謝や祈りを指したものであるらしく、神使である以上、自分の仕える神が関与していない祭事には参加する訳にはいかないそうだ。
どうも神使には神使共通の謎ルールがあるらしい。
ただし、屋台なんかには興味はあるらしいので、お土産ぐらいは持って帰ってあげようと思う。
――――とまあ、そんな感じで日々は過ぎていき、文化祭当日がやってきた。
「――着替えおわー」
「おつー。お、ええやん」
「だっしょ? トモもいい感じ」
「うぇーい。これ意外とアリ」
「わかるー」
着付け用に使っていた空き教室から出てきたユイカとトモの会話が、なんかギャル感つよい。
いや、普段からギャルっぽい喋り方するなぁとは思ってたけど。
なんかやり取りを聞いているだけだと言葉が足りていないはずなのに、しっかりと通じ合っているあたり、ギャルって凄い。
この前なんて「ガチ」じゃなくて「ガチャ」とか言ってたし。
ソシャゲかなって思ったよ。
ギャル語は私には難易度が高い。
「てかリンネヤバない?」
「それな。めっちゃイケメン」
「……ありがとう」
二人の会話がこちらに向いたので、私も若干気乗りしないまま返事をしておく。
大正浪漫時代に合わせた男装衣装として選ばれた軍服。
トモとユイカと同じように、私も男装衣装として軍服を着ている。
軍服については、大正浪漫時代よりも明治中期から後期頃のものが採用された。
というのも、その頃のデザインの方が細身向けというか、全体的に印象がだぼっとしていないからね。
飾緒と呼ばれる紐みたいな飾りもアクセントになっていて、マントとか羽織ったりもできるしね。
仕事のスケジュール的に参加が難しいかもと言っていたけれど、トモも無事参加できる事になって良かったよ。
せっかくの文化祭、一緒に参加したかったしね。
色合いは様々で、トモが暗色のカーキを基調にしたタイプで、ユイカが暗赤色。
一般男子勢は黒を基調にしたシンプルなもので統一されている。
――……なのに、なんで私だけ派手な白基調なのか。
「リンネが着てると、なんかもう軍服ってか騎士服?」
「めっっちゃわかる。似合い過ぎ」
「それなー。それにポニテにして肩から流すのめっちゃいいわー」
「手足が長いし、目つきもキリッとしてるからイケメン感ヤバ。銀髪に白い騎士服とか、もう王子様じゃん」
「これ男子より女子人気ヤバげ」
「ほんそれ」
気乗りしない理由がこれである。
私だけ白基調で、こう、飾緒はもちろん、なぜか勲章みたいな装飾とかも多めに飾られているんだよね。
なんかもう、「本日の主役」とか書かれた襷でもつけられてる気分だよ。
さっきから行き交う他のクラスの生徒たちにもめっちゃガン見されてるし。
いや、最近まで一期生のデビューとか色々で私もそれなりに忙しかったんだよ。
だから衣装については、別に軍服で文句はなかったし、サイズだけこのみんに教えて手配しておいてもらっただけで、確認とかしてなかった。
で、結果として当日に届いて渡されたのがコレだったっていう、ね……。
女子は女子更衣室で着替えるものかと思っていたのだけれど、今回、私たちは男装ということで私たちだけ女子更衣室じゃなくて空き教室に案内された。
男装して練り歩いて宣伝してこい、というこのみんの発案だったらしいけど。
ともあれ、言われた通りに行ってみれば、衣装のレンタルをしてくれたお店の女性店員さんがすっごくニッコニコで待ち構えていた。
何故か着替え終わった後、妙に鼻息荒くなっていたのが印象的だったけれど……どうやらトモとユイカ、それにさっきの店員さんの反応を見る限り、似合っているらしい。
……いや、いいんだけどさ。
羞恥心が凄まじいけれど、魔王として目を向けられる立場にあった前世の記憶がある私が、今更他人に見られることに萎縮するっていうことはない。
だからって、いくらなんでもこうも主役的にお膳立てされた感があると、げんなりもするよね、っていう。
トモとユイカもいつものギャルっぽい緩さで会話しているようで、なんか結構興奮しているというか、地味にテンション上がっているっぽい空気で、私に同情してくれる気配はなさげ。
……仕方ない、割り切ろう。
いや、割り切るというより、いっそ振り切れよう。
「あ、いたよー」
「お、着替えてるっぽい? めっちゃ楽しみ!」
「3人とも、どう?」
後方からこちらの様子を見に来たこのみんと他数名の女子たちの声が聞こえてきて、私は一瞬で顔を作ってから、ゆっくりと振り返った。
表情は柔らかく、男性的な微笑みを意識して目を細め、口角をあげる。
ふぁさっと肩に掛けたマントを翻して、私は先頭を歩いていたこのみんの顎にくいっと人差し指を折り曲げて当ててみせた。
「――すまない。待たせてしまったようだね」
「――ぴっ!?」
……「ぴ」?
いや、何か反応してくれないと困るんだけど――なんて思ってこのみんについて来た他の女子たちをちらりと見れば、何やら顔を真っ赤にして目を見開いたまま、固まっていた。
……どうやら、やり過ぎたらしい、と。
私がそれに気がついたのは、手を当てていたこのみんの呼吸が止まっていることに気がついた、その数秒後のことであった。
文化祭、スタートである。




