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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
159/201

アンタッチャブル系JK




 3人のデビュー振り返り配信は、突然のロココちゃんの登場によって更に盛り上がり、成功を収めたと言っても過言ではないと思う。


 ……まあ、ロココちゃんは完全に妹枠というか、先輩ムーブしようとしても可愛い子供扱いされていたし、薫子さんには手のひらの上でコロコロされていたようにしか見えなかったけどね。


 ロココちゃんの野望というか希望というか、先輩ムーブが完全に頓挫している点については申し訳ない――とも思ってはいない――けれど、おかげで配信も盛り上がったし、ロココちゃんも大人気になったし、配信者としては正解だった、というところかな。


 ともかく、無事にデビュー配信を乗り越えた以上、これからは3人ともそれぞれに色々な配信を行って、盛り上げていってもらう。

 ついでに、ウチとしても公式チャンネルを立ち上げる事になったので、彼女たちには今後、ウチの会社の広報活動なんかも担っていってもらう予定だ。


 私のチャンネルだけで情報を発表するのもアレだからね。

 私含め各自のチャンネルで公式チャンネルで発表がある事を伝え、広報には各自で公式チャンネルに出てもらう。

 そうする事で、箱推しというか箱に所属する他のメンバーへの周知にも繋がるだろうし。


 というか、実のところをぶっちゃけてしまうと、私が配信だけに時間を取られたくないっていうのがかなり大きい。


 ほら、謎の神っぽい何かがくれたダンジョンへの移動方法もある訳だし、魔石を流通させるなら、それなりにそっちに時間も費やしたいし。


 私、JKぞ。

 仕事だけじゃなくても平日はしっかり学校にも行っているんだもの。

 時間が足りないのよ、全部やってると。




「――という訳で、こっちも少し落ち着いたって感じかな」


「ほーん」


「……なんかこう、すごくね?」


「私なんかよりもよっぽど大変よね……」


 お昼、学校の屋上にて。

 ダンジョンの事はちょっとぼかしたものの、トモとユイカ、それにこのみんに近況報告をしてから返ってきた反応がこれだった。


「文化祭、大丈夫そ?」


「それなー。リンネめっちゃ忙しすぎじゃん」


「ん、大丈夫。さっきも言った通り、むしろ私が楽になるために新メンバーをデビューさせたっていうのもあるしね。色々と割り振って、動画編集なんかもスタッフがやってくれるようになったから、レイネも少し落ち着いたみたいだし」


 レイネの手が空けば、私のタスクをある程度レイネが片付けてくれるようになって、私自身が楽になる。

 もともとレイネは私のタスクを整理してくれてはいたものの、他にやる事が多すぎて手を出す程の余裕はなかった――なお、それにしたって本人は涼しい顔して完璧にタスクをこなす模様――けれど、自分の手が空くとこれでもかという程に私を助けてくれるからね。


 ここ最近、魔王城のある島での魔道具カメラの製造工程の簡略化、つまり魔導人形の増設、技術転写なんかも一通りできてきているみたいだし、篠宮家繋がりのスタジオの改装工事も佳境を迎えているのだとか。


 そういう訳で仕事がレイネの手を離れたおかげもあり、私も一通りの広報活動、新規メンバーへの対応も手を離れた。


 久方ぶりに日常らしい日常が戻ってきた状態だ。


「まあそんな訳で私も落ち着いたし、文化祭の方で何か困ってる事とかあったら手伝うけど、どう?」


「こっちも全て段取りも済んでいるし、誰かの手を借りたいような状況ではないわよ。気持ちだけ受け取っておくわね」


「さすがこのみん」


「ウチら役割決めしか手伝ってなくね?」


「それをやってくれただけでも助かったわ。私だけじゃ、クラスのメンバーからの信頼はそこまで得られていないでしょうしね」


「え、なんで?」


「東條と関わりを持っていたメンバーでクラスに残っているのは、私だけだからよ」


「あー……ね」


「そんなん昔の話じゃん?」


「トモもユイカも、それにリンネもそうやって割り切ってくれているけれど、普段から私とあまり関わらないクラスメートはそうはいかないのよ」


「は? だっる。東條に逆らえなくて見て見ぬ振りしてたヤツとかいっぱいいるじゃん」


「ほんそれ」


 3人の会話に一瞬首を傾げ、そういえばと思い出す。

 いたね、東條とかいう変なの。

 もう記憶の彼方に消え去ってたけど。


「ふはっ、リンネガチで忘れてない?」


「あ、バレた?」


「めっちゃキョトン顔してたじゃん」


「……リンネ、あなた思いっきり当事者だったじゃない……」


 バレちゃったらしい。


 当事者って言われても、私――というか、前世魔王時代に比べれば、あんなのは降り掛かった火の粉を払う、なんてレベルにもならない。

 せいぜい近くに寄ってきた羽虫を手で追い払う程度の事でしかないんだもの。


 まあ、前世を思い出した今の私の場合、そもそも虫が近寄って来たら焼くけど。

 慈悲はない。

 無駄に目の前を横切るように飛ぶ小蝿とか、近くで「興味ないですよー、狙ってないですよー」的に微妙に届かない位置を飛ぶ蚊とか、問答無用で魔法で焼く。


 もっとも、ほぼ私が気づく前にレイネがやっちゃうんだけれど。


「ま、リンネは元々そういう子だし、しょうがないとして――」


「ちょっと?」


「――そもそもこの話を持ってきたのは私だもの。必然的に外との折衝も私がするのが道理なのだし、衣装もレンタル。あとはクラス内の役割さえまとめておけばいいだけだったのだけれど、それを二人が手伝ってくれたおかげで、何ももう問題なんてないわ。あとはせいぜい、当日にアクシデントが発生した時のマニュアル作りぐらいかしらね。そっちももう終わるわ」


 無視された、ひどい。


「んー、そっかぁ。このみん、なんか困ったらちゃんと言いなよ?」


「クラスで変なこと言うのいたら、マジ黙らせるからさ」


「……ふふっ、ありがとう。でも、そっちは本当に心配いらないわよ」


「マ?」


「我慢してたりしないん?」


「してないわよ。というより、わざわざ私におかしな真似をして、あなた達から不興を買うような真似をしたがる生徒はいないわよ」


「んぇ? なんで?」


「……3人とも、自分たちが周りからどう見られてるか把握してないの?」


「なんそれ?」


 このみんが言い出した言葉の意味が分からずに問い返してみれば、どうやらトモもユイカも思い当たる節はないようで、ついついお互いに見合って首を傾げてしまう。

 そんな私たちの反応を見て、このみんが少し呆れたような、それでいて愉快そうに小さく微笑みながらため息を吐いてみせた。


「まったく……。自覚がないようだけれど、あなた達、ウチのクラスでのカーストで言えばトップオブトップとも言える立場にあるのよ?」


「マ?」


「そうなん? 気にしたことなかったわ。リンネ、知ってた?」


「いや、知らないけど」


 どっちかと言うと私は前世を思い出すまで、クラスカースト的なサムシングだと最底辺あたりにいた気がするんだけど。

 というより、目立ちたくなくて色々気配を消そうとしたり喋らなかったりしてたし。


「トモとユイカは入学してすぐぐらいからカーストの上位にいたわよ。だからこそ、東條も気後れして二人になかなかちょっかい出せなかったのよ。でも、リンネが垢抜けて今みたいになって、そんな二人とつるむようになった。有り体に言えば、目立ち過ぎたからこそ東條が絡むようになったのよ?」


「そうなん?」


「そうよ。アイツはそれなりに小賢しかったもの。自分の言う通りになる相手とならない相手を見極める目だけはあったわ。だから、あなた達二人にはちょっかいを出そうとはしなかった。でも、リンネが目立つようになった。いくらトモやユイカとつるんでいるとは言っても、リンネだけならどうにかなると思ったんでしょうね」


「あー、そういう」


「うける。それで踏んだのが虎の尾ってヤツだったんじゃん」


「それな。というか魔法使いどころか、Vで魔王してる魔王様だった訳だけどさ」


 うん、Vだけじゃなくて本物の魔王だよ、元だけど。


 それにしても虎かぁ。

 虎型の魔物でもないただの獣の虎なんて、私がちょっと殺気を放っただけで逃げ惑うかお腹を見せるかしてくれそう。


 ……大きいにゃんこか。

 ちょっともふりたいなぁ。


 海外に飛んで行って野生の虎でも見つけて触りにいってみようかな……。


「そういうこと。実際、魔法なんてものまで使えて、一般人どころか軍隊相手にだって戦えちゃうような相手だった。だからこそ笑い話になっているけれど、もしもリンネが普通の女の子だったら、笑い話になんてならなかったでしょうね」


「それはそう」


「で、クラスのメンバーはなんとなく理解しているのよ。東條があなた達に手を出して、その結果、東條が退学になった、って」


「え、そうなん?」


「実際、リンネに無駄に声をかけていたこと。それをリンネが袖にして、トモが追い払ったでしょ。あれで東條が荒れたんだもの、何かするだろうって推測は立っていたわ。で、その後蓋を開けてみれば、3人は笑って日常を過ごし、東條が消えた。3人が何かしたんじゃないかって思うのは自明の理というものよ」


「あー……そういう感じかぁ」


「そんな3人と私が一緒にいるのよ? 下手に私に対して何かするなんて、他の子たちがする訳ないでしょ? あなた達を敵に回して、何が起こるか分からないんだもの。という訳で、カーストのトップオブトップ。むしろアンタッチャブルなメンバーよ」


「えー、扱いひどくね?」


「まあ、このみんに何かしたらぶっ飛ばすけど」


「魔法あるし。というか、それ言ったらこのみんも自分でぶっ飛ばせるくね?」


「できるわね。まあ、やるとしても気付かれないようにやる必要があるでしょうけれど」


「なにそれ、どうやんの?」


「いくらでもやりようはあるでしょう? 実際にやった瞬間が見えない以上、対抗しようがないのだから」


 ……なんか話が物騒な方向に進み始めたような気がする。

 3人がこうなっちゃったの、私のせい、だろうなぁ……。






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