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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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『魔王軍』一期生デビュー配信に対する反応 Ⅱ




 デビューを飾った3人の絡みを見たがる視聴者に向けて、どんな空気感で配信をしていくのかを示す軽いアピールをさせるための反省会というか感想会というか、ともかく雑談配信。

 その映像をタブレット端末に映しつつ、ふよふよと目の前に浮かべて眺める。


 ――いやぁ……、あまり一期生と絡むつもりはなかったんだけどなぁ。


 一期生の〝色〟は、すなわちその事務所の〝特色〟になっていく。

 良くも悪くも事務所はそんな特色に合ったメンバーをデビューさせたり、ある程度似通ったノリというか、どこか歩調を合わせていくような形に収まりやすい。


 そういう背景もあって、私のような――前世魔王であり、魔法を当たり前に使い、歯に衣着せぬ物言いでやっているような――存在が絡んでしまうのはどうかと思っていた。


 ハッキリ言って、私やレイネはVtuberとしては異端も異端だ。

 そもそもVtuberの定義に当てはまっているのかも怪しい感じではあるしね。

 それに加えて配信スタイルも、スタンスも、基本的に炎上なんて狙ってもいないけど気にもしない、そんなタイプだからね。


 そんな私が出てしまうと、〝特色〟が私に合わせなくちゃいけなくなるというか、私のせいで方向性が定められてしまう可能性もあった。


 要するに、薫子さんに土下座までされて表舞台に引っ張り出され、結愛ちゃんのフォローも兼ねて出てしまったという現状は、私にとっても誤算としか言えない。

 薫子さんがあまりにも必死で、「あ、これ今は断れても延々と言われ続けて面倒臭くなりそう」と判断し、結局折れてしまったのは私だし、しょうがない。


 配信外で勝負するならいいよと応じたりもしたけれど、それだと私が手加減するというか、本気になってくれないかもしれないからという理由で納得してくれなかった。


 意外と頑固というか、どうしても譲れない何かが彼女の中にあったんだろうね。


 ともあれ、今後は当初の予定通りあまり絡まない方向でいく。

 そうすれば最初に少し絡んだだけ、という方向で軌道修正も可能ではあるしね。

 あの3人には3人での〝特色〟を描き、築き上げていってもらわなきゃ、意味がないからね。




「――という訳で、今回のはイレギュラーもイレギュラーなんだよ」


「むぅぅぅ~~っ! ずるいでございまするっ!」


 はい、という訳でロココちゃんへそ曲げ中。


 後輩と呼べるような存在が初めて出来た事もあってか、ロココちゃんは一期生の面々とコラボとかして絡んでみたいらしいのだけれど、私は私が出ない理由に似た理由で待ったをかけていた。

 なのに私が最初に絡んでしまったものだから、それが悔しいというか羨ましいというか、そんなこんなでこの有り様なのだ。


 一応あの3人とロココちゃん、顔合わせはさせた。

 会わせないというのも手ではあったのだけれど、ロココちゃんがあまりにも私たちだけ会えてズルいだのなんだのと駄々をこね……こほん、不服な様子で抗議してくるものだからさ。

 それにロココちゃんはこの魔王城にいるし、今日はあの3人だって今日は魔王城内の連なった部屋でそれぞれに配信を行っていて、今は一つの部屋で集まって配信している訳だしね。

 さすがに会わせない訳にはいかなかったというか。


 結果、あの3人にめちゃくちゃ可愛がられてて、うまい具合にちやほやされて良い気になってた。


 残念ながら、本人がやりたがった先輩ムーブはできていなかったけどね。

 せいぜい可愛がられて煽てられる親戚の子ムーブといった方が正しかったのは内緒。

 ぶっちゃけ手のひらでころころされてたし。


 ともあれ、そんなデビュー組の配信、さっきから「いきなり3Dオフコラボは草」だのなんだのとコメントも大盛り上がりだ。


 普通の事務所の場合、3Dモデルの準備には時間もお金もかかる。

 どうしたってしばらくは2DとVCチャットを繋いでコラボするとか、オフコラボであっても2Dと立ち絵とか、そういう形になっちゃうから。

 その点、魔道具――〝新技術〟を使っている以上、ウチじゃなくてもそもそも全て3D映像に近くなるし、オフコラボも容易い。


 さすがにこの辺りの裏事情は、まだ〝新技術〟を使ったことのある人しか知らないけれども。




 ――――まあ、そんなアレコレはさておき。




 ロココちゃん、わざわざ私のところに文句を言いに来る程度には不服らしい。




「わたくしめも『おふこらぼ』なるものをしたいのでございますればっ!」


「うーん」


「お願いいたしまするっ!」


「うーーん」


「へーかぁ!」


「――そこまでですよ、ロココさん」


「ぴゃっ!?」


 背後から声をかけられたロココちゃんが跳ね上がり、恐る恐る振り返る。

 そこには、ついさっきまで3人の配信をフォローしているマネージャー陣に話を聞きに部屋を出ていた、レイネの姿が。


 彼女は冷たい目をしてロココちゃんを見下ろし、佇んでいた。


「……あわわ……」


「陛下にそのようなワガママを言うだけならば、陛下がお許しになっている以上は何も言いません。――しかし、かと言って不遜にも急かすような声をあげるなど言語道断。その性根、叩き直してあげましょうか」


「ひぃっ!?」


「あー、一旦レイネも落ち着いて」


「……はっ」


 不承不承に、といった様子でレイネが頷く。


 いや、ロココちゃんを見下ろす目が冷徹というか、もう射殺すような目というか、そんなレベルだったしね。

 ロココちゃん、蛇に睨まれた蛙状態というか、完全に固まってるし。


「ロココちゃんがあの子たちとコラボしたがっていたのは私も知ってたし、なのにそれを止めて私がやっちゃったのは、まあ面白くはないだろうからね。この件で私とかレイネからあまり厳しく言い過ぎるのはどうかと思うんだよね」


「……かしこまりました」


「……はふぅ……」


 レイネから向けられた圧が弱まったおかげか、安堵した様子のロココちゃん。

 そんな彼女に苦笑しつつ、私は改めてレイネに向かって声をかけた。


「レイネ、あっちの様子はどうだった?」


「順調です。ノアさんも復帰し、それなりに会話に混ざれているようですし、問題ないと現場スタッフが確認しているとの事です」


「そっか」


 チャンネル登録者数が想定以上に増えていることを実感して戦線離脱していたノア(結愛)ちゃんも復帰しているし、配信も滞りなく進んでいる。

 幸いコメント欄も盛り上がっているし、このまま初コラボ配信を終わらせてあげればいいだけなんだよね。


 でも、そうなるとロココちゃんが可哀想なんだよなぁ……。


「んー……、レイネ」


「はい、今の雰囲気ならば問題はないかと存じます」


「……さすがだね。私が何を言おうとしてるのか、分かったんだ」


「もちろんでございます」


「……? えっと、なんでございまする?」


 私の考えを読んだレイネとは対照的に、状況が判っていないロココちゃんは私たちの顔を交互に見やる。

 そんなロココちゃんに向けてにっこりと微笑んでみせれば、ロココちゃんの視線が私に固定され、そのまま小首を傾げる。




 そんな彼女を見つめ、笑顔のまま私は顔の横に手をあげて、中指と親指をひっつけるように構え――そして、告げる。




「――コラボ、いってらっしゃい」




「――はぇ?」




 パチンと指を鳴らし、同時にロココちゃんの足元に浮かび上がる魔法陣。

 その輝きにロココちゃんが驚愕する暇もなく、ロココちゃんの姿はその場から消え――数瞬遅れて、未だに続く3人のオフコラボ配信を映し出していたタブレット端末越しに、短い驚きの声が響いた。


《へ?》


《きゃっ》


《ふぁっ!?》


《――へぶっ!?》


『!?!?』

『ロココちゃん!?』

『顔から落ちたのでは……?』

『乱入きたー!?』

『いや、どこから出てきた!?』

『大丈夫か……?w』

『親方! 空からry』

『3人とも驚いてるけど、これ仕込みちゃうん?』


 驚愕する3人、そして闖入者の正体に盛り上がるコメント欄。

 生配信特有とでも言うべきか、喜ばしいアクシデントにコメントの流れが一気に加速していく。


 コメントを見る限り、問題なく歓迎されているらしい。

 まあ、一部ロココちゃんの顔面着地が気になったみたいだけど、あの子は神使であって人間ではないからね。

 あの程度で痛みを感じることはないと思うよ。


 ……というより、なんで顔から落ちたんだろう。

 私、上下反転させるような変な方向に落とした記憶はないんだけど。

 まさか、格好つけようとして回転着地でもしようとしたとか、そんなこと……うん、否定できないし、気付かなかったことにしておこうかな。


「――はい。そういう訳で、ロココさんを緊急ゲストとして続行してください。段取りにない? それはつまり、陛下の指示に応えられない、と……? ……そうですか、分かれば結構。臨機応変に対応しなさい」


「いや、私のせいなんだからマネちゃん追い詰めないでね?」


「いえ、今後も続けていく以上、この程度のアクシデントは余裕をもって乗り越えられるだけの実力をつけなくてはなりませんので。でなければ、一人前にはなれません」


「……そっか」


 ……レイネ基準の一人前、かぁ……。

 うん、あとでマネちゃんたちにはご褒美というか、ボーナスあげなくちゃね……。






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