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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
156/201

【配信】ノア・フリージア Ⅱ




《え、ええぇぇぇ……、あっ、えっと、じ、自己紹介を……》


『見慣れた初配信の光景』

『実家のような安心感』

『これが普通』

『声がかわいい』

『この光景を見て安心している自分がいるw』

『一周回っていっそ安心』


「――凛音お嬢様が想定されていた通り、視聴者の人数に大きな変化は見られませんね」


 カメラを遠隔で魔法を使って操りつつ、私と一緒に部屋を出てきたレイネがタブレット端末に表示された結愛(ノア)ちゃんの配信を眺めながら告げた言葉に、私も頷く。


 視聴者数、21万人。

 この凄まじい人数の同時視聴者数は、ここに繋げるまでの玲愛(リリシア)ちゃん、薫子(ルチア)さんの圧倒的な才能を活かしたパフォーマンスがあってこそ、期待が募った結果だと言える。


 そんな二人の後で配信をするとなれば、そのプレッシャーは膨大なもの。

 けれど、結愛ちゃんの場合はそれがトップバッターであったとしても、あるいは二番手での配信であったとしても、特に大きく変わらなかっただろう。


 何せあの子の場合、そもそも初配信っていうだけで緊張してたからね。

 人数が増えたところで「いっぱいいる」の認識以上のそれだと認識できていない節がある。

 彼女を大トリに持っていった理由の一つはそれ。


 もちろんそれだけが理由という訳ではないけどね。


「正直、こうも上手くいくとは思っていませんでした」


「ん、期待外れだと離れる視聴者が多いとでも思った?」


「……正直に申し上げれば、そうですね。歌声という、誰が聴いても理解のできる圧倒的な才能を見せつけたリリシアさん。スタートから視聴者にインパクトを与えて圧倒し、Vtuberというジャンルと切って離せない、ゲームというジャンルでの圧倒的な実力を持つルチアさんを魅せつける」


「うん、そうだね」


「そこまでは確かに、視聴者も目を離せない展開であったと思います。ですが、こう言ってはなんですが、そんな二人の後で、〝声〟という特徴以外に特筆できるだけの才能があるようには見えないノアさんの配信となれば……、必然、視聴者の興味が失われていくものかと」


「ふふ、そっか」


 レイネの言葉に、思わず私は小さく笑ってしまった。

 そんな私の反応が意外だったのか、理由を問うかのようにレイネがじっとこちらを見つめてきた。


「あぁ、ごめんごめん。今のは分からないことをバカにした訳じゃないからね」


「それは承知しております。それより、理由を教えていただきたく」


「そうだなぁ……。実はレイネが思っている以上に、〝Vtuberっていう存在は不完全であるほどに愛される〟んだよ」


「……どういう意味でしょう?」


 ――不完全であるほどに愛される。

 そういった要素とはかけ離れている、常に完璧を志す完璧主義とも言えるタイプのレイネには、私の言った言葉の意味がいまいち理解できなかったらしい。


「まず歌の天才、ゲームの天才。そのどちらも、その輝きを目の当たりにした第三者にとっては、『凄い才能』という認識に落ち着く。そんな『凄い才能』がもたらすもの、魅せるモノに興味を持つしファンになりやすい。これは分かるよね?」


「はい、それは当然かと」


「うん。でもね、これはあくまでも私の推察だけれど、ことVtuber……ううん、この場合はもっと広義的な意味で、『配信者』というジャンルにおいて、それらは武器にはなるけれど〝絶対〟にはならないと私は思う」


「……何故でしょうか?」


「単純な話だよ。それだけの『凄い才能』があったとしても、そもそも視聴者がその『凄い才能』は興味がない分野のものであり、『自分とは関係のないジャンル』として割り切られてしまった場合、切られてしまうから、だね」


 多種多様に、それこそ探せば飽和する程度には世の中に発信されている配信。

 ジャンルは多岐にわたり、その数は枚挙に暇がない、というのが今の世の中、動画というコンテンツの実状だ。

 そんなご時世における視聴者という存在は、大量に溢れ、存在するコンテンツを常に取捨選択して、自分が興味のあるジャンル、興味のあるコンテンツだけを消費する。


 かつてのようにテレビや映画ぐらいしかコンテンツがなかった時代ならばともかく、そうやって自分の興味、趣味によって選り好みできてしまう時代が現代(イマ)の常識だ。


 つまるところ、コンテンツを消費する側にとって、己の興味のないジャンルに対してはとことん無関心で冷たく、あっさりと切り捨てる対象であるとも言える。


 玲愛ちゃんの歌声も。

 薫子さんのゲームの腕前も。


 それらが活躍するジャンルに興味を抱く視聴者であれば、素直に称賛し、ファンとして追いかけることもあるかもしれないが、一方でそういったジャンルに興味のない人々に対してまで訴求できるかと言えば、ハッキリ言って難しい。


「――その点、結愛ちゃんは違う。彼女は歌が特別上手い訳でもないし、ゲームだって特別得意という訳でもない。真っ白な状態だと言えるね」


「……つまり、その真っ白な状態である方が『配信者』というジャンルにおいては強い、と?」


「んー、そうじゃないね。私があの子をスカウトした時に言った言葉、覚えてる?」


「はい。確か〝声〟がいい、と」


「うん、それだよ」


 未だに私が何を言わんとしているのか分からないのか、小首を傾げるレイネ。

 そんなレイネから目を逸らして、私は配信を続ける結愛ちゃんをタブレット越しに目にしながら続けた。


「喋り方、纏った雰囲気、声質、見た目。そういった色々な要素で選り好みされてしまうような業界だからね。Vtuberというジャンルは見た目と雰囲気をある程度演出できる、というのも強みではあるけれど、だからこそ余計に本人の声質や喋り方というものが重要にもなる」


 たとえば、キンキン声だったりっていうのは他人に不快感を与えるし、声は悪くなくても無意味に上から目線であったり、逆にいちいち高圧的な物言いをしていたりするなら、人によっては「気に入らない」と思われることもあるからね。


 それぐらい、配信者として喋る〝声〟が関係する要素は非常に重要だ。


「確かに大多数から見れば、結愛ちゃんは玲愛ちゃん、薫子さんのような分かりやすい才能はないかもしれない。けれど、こと『配信者』という才能があったとするなら、彼女はその『配信者』という才能の天才だよ」


「……天才、ですか」


「うん。彼女の声は視聴者に安心感を与えて、「聞いていたい」と思わせてくれる。彼女の自信のなさそうな態度は、視聴者に「応援したい」と思わせてくれる。もちろん、だからって全然喋れなかったりすれば、視聴者は観てくれないけど……――」


《――にゃぇえああぁぁぁっ!? ち、ちが……っ! これ見せちゃいけないやつううぅぅぅっ!》


『草』

『思いっきりカンペ表示してて笑うわw』

『めっちゃびっしり文字書いてるw』

『がんばれーw』


「――ま、こんな感じで失敗すらも視聴者が温かく見守ってくれて、愛されていく。そういう愛らしさを天然で持っている。だから、彼女は『配信者』として天賦の才を持つ――天才なんだよ」


「……歌の天才、ゲームの天才。そして、配信者の天才、ですか……」


《へ、へへへ……、い、今のナシ! はい、忘れた! わすれて? ……ぬぬぬ、忘れろーっ!》


『力技で草』

『はらいたいww』

『なんかいちいちコミカルで可愛い』

『ぶりっ子とかとは違ってこれは天然ww』


 配信の流れはお世辞にもスムーズではないし、いっそグダグダ。

 けれど、冷静に仕切り直すという余裕もないせいか強引に進めようとしていて、その姿が親近感を抱かせる、そんな配信が流れる。


 視聴者の反応は温かく、分かりにくい彼女の才能に気付かない視聴者に至っては、同期の二人の圧倒的かつ分かりやすい才能に比べて見劣りすると感じたのか、同情や否定的な感想を漏らしている。


 けれど、きっと同業の人間は気付いている。




 ――――【Pioneer】の面々は、それぞれの分野に極端な才能を持った集団だ、と。




 その現実に気付いている同業の反応が少し楽しみで、ついつい魔王的な喉を鳴らすような笑みを零してしまう私なのであった。







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