表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
154/201

【配信】裏 ルチア・ルベリア Ⅱ




 ――ヴェルちゃんの立ち上げた事務所から新人Vtuberがデビューする。


 そんな話を耳にした時、Vtuber業界の最大手とも呼ばれるジェムプロダクションに所属する私――奈月(なつき) 瑠流(ルル)――こと、エフィール・ルオネットは、一つの懸念を抱いた。


 個人勢Vtuberとして成功した人が、自ら立ち上げた事務所()に手を尽くさなければならず、活動が疎かになり、結果として「個人での配信を行っていた方が頻度も多くて楽しかった」と〝浅い視聴者層〟に見限られる。

 そうして個人時代の伸びから減速し、人気が失速していき、事務所として大成する事もなく、埋没していってしまうというものだ。


 私は、Vtuberの視聴者層は3つの層に分かれていると考えている。


 1つめは、私たちのようなVtuberを本当に応援してくれていて、配信をほぼ全て観てくれていて、グッズの購入やメンバーシップの加入、人によってはスパチャなんかも送ってくれる層。


 2つめ、配信はある程度チェックしてくれていて、観てくれてこそはいるけれども、切り抜きなんかでも充分に満足できるような、暇な時間に完全に娯楽として割り切って配信を観てくれているような層。


 そして3つめは、なんとなく名前は知っているから観ているだけだったり、おすすめにピックアップされたり、同時視聴者数が多いからとなんとなく開いてみたような、初見を含めてまだまだチャンネル登録にも届いていない層だ。


 ちなみに、アンチやら何やらは『視聴者』として定義しない。

 あれはウイルスとか花粉とか、そういうレベル。

 飛散していて鬱陶しいだけ。




 ……コホン、話が逸れた。




 ともあれ、どの視聴者も大事な視聴者。

 今回のように事務所を立ち上げて活動を行っていくとなると、必然的に1つめの層は応援してくれるだろう。

 これまでになかったコンテンツの増加、新しいメンバーとのコラボなんかも含めて楽しんでくれたりもする。


 けれど、2つめ、3つめの層は「配信頻度が下がった」や「色々な人が出てきて身内ノリみたいになってきてつまらなくなった」といった具合に離れていってしまう傾向の方が強い。


 結果として、事務所を立ち上げたVtuberを応援してくれているファンの、さらにその一部だけが箱のメンバーを応援する――俗に言う、〝視聴者の共有〟で終わってしまえば、もうおしまいだ。


 そこから新たな視聴者層を開拓できるだけの〝魅力〟があればいいけれど、個人勢から事務所を立ち上げ、その事務所を売っていくには、自分が個人勢として人気を獲得する際のセルフプロデュース能力とは全く異なる能力が要求される。


 トップアスリートであっても、名監督にはなれない。

 そんな言葉を聞いた事があるように、あまりにも要求される能力が異なるから。


 私だってそう。

 チャンネル登録者数は200万人なんていう凄まじい人数ではあるけれど、それはあくまでもこのジェムプロダクションという箱の、エフィール・ルオネットというVtuberの人気だ。


 箱内での絡み。

 同期、後輩たち、外部とのコラボ。

 各イベントやグッズ販売。


 それらが成り立つのも、楽しんでもらえるのも、あくまでも『ジェムプロダクションのエフィール・ルオネット』だからこそのもの。


 だから、たとえ私が新しいモデルで心機一転新しく事務所を立ち上げて活動する、いわゆる転生をしたところで、このチャンネル視聴者数のせいぜい3割から4割程度が引き続き観てくれるかも、というところが関の山だろうと思う。


 それぐらい、Vtruberが箱を作り上げるというのは難しい。




 ――――だからこそ。

 ヴェルちゃんが事務所を立ち上げ、新たなVtuberがデビューすると聞いてから、今日までずっと不安だった。




「――不安だった……んだけどなぁ……」


 引き攣った笑みを浮かべながらも思わず口を衝いて出た、そんな一言。

 胸の内に燻っていたそれが形となって吐き出されて、霧散していく。


 デビュー配信と言えば、だいたいが個性を押し出しつつも軽い自己紹介に終始する。

 興味を惹いて終わり、次へ、またその次へと徐々にキャラクター性を明らかにしていく。


 そうやって視聴者の興味を繋げていくためにも、敢えて短く簡潔に、シンプルに配信を終えるべき、というのがジェムプロのやり方だし、Vtuber業界のお約束とも言えるもの。


 ――あぁ、でも、ヴェルちゃん自身、初配信からぶっ飛ばしてたっけ。

 そんな事を思い返しながら、それでも顔は、目は、思考のほぼ大半は目の前のモニターから流れる映像に奪われていた。




《――陛下ならぁ、そうくると思ってましたよぉ……っ!》


《くっははははっ、良いぞ。その調子で食らいついてみせよ、ルチア!》


『うおおおぉぉぉ! あと2ポイント!』

『がんばれー!』

『俺達は一体何を見せられているんだ』

『初配信がプロの大会以上に高レベルなワン・オン・ワンってなにww』

『初回からこんなぶっ放してくることあるぅ????』


 流れるコメントの数々。

 同時視聴者数は、まさかの19万人。

 ジェムプロからの新人Vのデビュークラスの数字に、並んでいた。


「この声……ッ、そうだわ! この子、あのアマネね……!」


「へ?」


「今年の春頃に解散したeスポーツチーム、【SLUG】のアマネ!」


 ユズさんの声に、一瞬呆けてしまい……そして理解する。


 口数はあまり多くなかったけれど、特徴的な蠱惑的とも言える声とは裏腹に、精密に相手を分析していて、冷静に勝負を決める元eスポーツの女性プロプレイヤー、それがアマネだ。

 いつもチームの中心にいたのは他の選手だったけれど、負けそうな流れに追い込まれてさえ、アマネが声をかけたタイミングでその通りに動いた結果、辛くも勝利を拾う、なんて事も珍しくはなかった。


 私も【SLUG】のチームプレイ動画は何度も漁った。

 だから、言われて確かにこのキャラコンは見たことがあるものだと理解する。


 彼女がアマネだと言われて納得する――と同時に、けれど違和感も覚える。


「……アマネって確か、もっといつも静かでおっとりしてたよね?」


「……えぇ、そうね。アンチ勢からやる気がないとか覇気がないとか言われている事もあったわね」


「……どこが?」


《あんっ、ちょっと陛下!? 今のは卑怯じゃないぃ!?》


《お主が分析した跳弾コースはまだまだ甘かった、それだけの話であろう?》


『エッッッッッッ』

『デビュー配信なのに華を持たせないんかいww』

『容赦ねぇww』

『惜しいいいいい!』

『いやいやいや、うますぎでしょw』

『陛下相手に接戦とか、それはもうプロなんよw』

『プロより陛下の評価が高くて草と言いたいところだけど残当』


 ちょうど試合が終わったようで、コメント欄がさっきまでの勢い以上の速さで次々に流れていく。


 結果は、ヴェルちゃんの勝ち。

 ホントに華を持たせるとかしないんかい。


 けれど、接戦を八百長だのなんだのと揶揄するようなコメントは見えない。

 そんな事を思えるような次元のプレイではなかったからこそ、彼女が本物の強者だと視聴者も理解しているのだろうと思う。


 ともあれ、ゲーム画面とその左右に位置するようにワイプのような形で映っていたヴェルちゃんとルチアさんを除いて、ゲーム画面が暗転した。


《さて、ルチアよ。充分見せつけてやったであろう。初配信らしく挨拶やら何やらやってこい》


《んもぉ、次はぜーったい勝たせてもらいますよぉ?》


《くはは、いつでも挑んでくるが良い。――ではの、諸君。妾はここでお別れじゃ》


『はーい』

『この二人、マジでプロリーグとか出れるだろ』

『陛下がその気はないらしいからなぁ』

『FPSは本気でやってる訳じゃない宣言な。あれで某プロがガチヘコみしてたわw』

『さすがアマネ』

『やっぱアマネやんけ!?』


《んふふふ。ダメよぉ、私の前世のお話はぁ》


《早速NGワードにぶち込まれて草》

《気づくヤツは気づくわな》

《前世だれ? 有名人?》

《元eスポーツというか、OFAのプロチームだった人》

《なお、痴情のもつれで解散したチームの被害者代表》

《ひどい事件だったね……》

《ガチめにひどい事件だったからな……w》


 何やらコメント欄が前世の――つまり【SLUG】時代の話で盛り上がる中、アマネ――もとい、ルチアと呼ばれていた彼女の、見るからに妖艶さを携えているモデルが画面の中央にしっかりと映し出され、コメント欄の流れが『エッッッッッ』やら『すごく、おおきいです』だの、そんな流れに変わっていった。


 ……うまいね。

 前世の自分の話ばかりが続くのを、自分のモデルという名の凶悪な武器を使って流れを断ち切り、注目を集めた。


 そうして彼女は、柔らかく微笑んでみせた。


《はぁ~い、ではではぁ。改めてご挨拶させてねぇ~? 私はルチア・ルベリア。ちょぉーっと種族は言えないタイプだけどぉ、分かるわよねぇ?》


『あっ(察し』

『あーね』

『もう見るからにアレよね』

『わかる』


《んふふふぅ、せいかーい。だからぁ、種族は言わないわね~? それでねぇ、お姉さんね、人間から悪魔に転生したんだけどぉ、人間だった頃の記憶がしっかり残っているみたいだからぁ、ゲームが大好きなのよぉ》


『人間だった頃(前世)』

『そうきたかw』

『堂々と前世晒していくやーつw』

『まあその内あちこちで動画にするハイエナが湧くじゃろて』

『ぎくっ』


「あーね。そう来るんだ」


「前世のネームバリューを上手く活かしつつ、設定上は文字通り前世ってところね。記憶に残ってるって堂々と言うあたり、隠すつもりはないのかしら」


「そうみたいだね。……いや、うん、それにしても……」


 配信開始と同時に歌を乗せるという異例のスタンスで配信が始まり、瞬く間にSNS上のトレンドをかっさらってみせた、あの天使の歌声の持ち主ことリリシア・ハートちゃん。

 そして、元eスポーツのプロチーム所属で、ヴェルちゃんやレイネさん、他のメンバーにはない圧倒的な大人の色香を漂わせる、アマネさんことルチア・ルベリア。


「……一芸に特化した、才能の塊とも言えるような人材が揃う一期生、ね」


「凄まじいわね、本当に。残り一人も、きっとこの二人に比肩し得るだけの才能の塊、ということかしら……?」


 半ば呆然としながらも、私とユズさんはルチア・ルベリアのデビュー配信を最後まで観てから、最後の一人の配信を待ち続けるのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ