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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第五章 TURNING POINT
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デビューに向けて





「――さすがに疲れたわ……」


「このみんホントがんばった。おつおつ」


「それな」


「……お疲れさま、このみん」


 学校帰り、立ち寄ったファストフード店のイートスペース。

 疲れた様子で呟きながらシェイクを口にしたこのみんがぽつりと呟くものだから、トモとユイカ、私に少々の苦笑が浮かぶ。


 地域の商店街と提携して行う催し物であるが故の交渉や打ち合わせ、スケジュール調整。

 クラスの衣装サンプルの準備、各種取りまとめに、学校内の実行委員会の集まりエトセトラ。

 多岐に亘って動き回る羽目になったせいもあってか、心なしか背中が煤けて見える。


 そんな一週間も今日でようやく終わり、久しぶりに放課後に時間を作れたこのみんを連れて、私たちはお店にやってきたのである。


 今日は私の奢りだ、存分に楽しむが良い――なんて、一人あたり千円にも届かない会で偉そうなことを思ってみる。


「でも、このみんのおかげでウチのクラスはだいぶ早く落ち着いたねー」


「そうなの?」


 トモの言葉に訊ね返してみれば、トモは手に持ったドリンクをテーブルに置いて苦笑を浮かべた。


「いやさ、ウチの友達が他のクラスにいるんだけど、そっちはもう大変みたいなんよ。コスプレしたり盛り上げて青春したい〝はっちゃけ勢〟と、そういうイベントに時間をかけたりしたくなかったり、あまりイベントが好きじゃない〝適当に終わらせたい勢〟で戦ってる状態だってさ」


「あー、まあ有り得なくはないよね。アタシらはこのみんのおかげですぐに意見を纏められたけど、普通、好きに自分たちのやりたい事をやれって言われたりしたらこんな簡単に纏まる訳もないし」


「それだけこのみんのプレゼン力が強かったってことだね」


「……そ、そんなことないわよ。ただ私は事前にリサーチして、説得力のある資料を用意しただけ。それぐらい、誰だってできるわよ」


「お、ツン? ツン出てる?」


「このみんかわよ」


「からかわないで。――ちょっ、だーきーつーくーなーっ!」


 このみんの隣に座ってたユイカがこのみんに抱き着いたり、それを剥がそうと頑張るこのみんのキャッキャとしたやり取り。

 残念ながらこのみん、背も身体もちっちゃいからユイカを剥がすことはできないらしい。

 魔法を使えばどうにかなるだろうけど。


 ちなみに、ちょっとした騒ぎになってはいるけど私たちの周りには遮音と認識阻害の結界が張ってある。

 このみんは社長令嬢だし、トモとユイカはアイドルの卵で目立つ程度に容姿も優れているからね。変なのに目をつけられたくないから、こういう場所では他人から注目を浴びたくないし、話題に気をつけなくちゃいけないっていうのも面倒ではあるからね。


「っていうかリンネ、今日こんなゆっくりしてていいの?」


「ん?」


「いや、だってそっち、あの噂の一期生デビュー、明日でしょ?」


「うん。でもそっちは私が今更関与するようなものはないし。基本的には彼女たち自身と、そのマネージャーに任せてるから。一応レイネもフォローしてるみたいだし」


「あー……。レイネさんがいるならそうなるよね、うん」


 トモもレイネの存在を口にしてみせれば、何やら諦めの境地にでも達したかのような遠い目をして納得した。


 3人はレイネともそれなりに交流を深めている。

 なんだかんだで魔法についても、感覚派の私よりレイネの方が説明は上手かったりする。そのため、最近はレイネの実家の関連会社が開発したらしいチャットアプリでレイネが指導してあげてるらしいのだ。


 ちなみに、大手の有名どころであるチャットアプリを使わない理由は、「情報が外部から覗けてしまうモノは使うべきではないから」らしい。

 レイネの家が関係しているアプリなら、レイネ自身の許可がないと会社の人間ですら情報が覗けないように設定できているのだとか。サーバーを分けているからどうのこうのって話みたいだけど、私にはよく分からなかったので聞き流した。


 ホントなんでもアリだね、レイネの実家。

 歴史と地位があって、しかもその繋がりが大きく、太いものであるからこそ色々できる事が多いというか。

 まあ、そんな実家を完全に掌握しておきながらも、しっかりと自由を勝ち取って私の下についたレイネもレイネだけど。

 それでもがっつり家の地位だの権力だの、しっかりと使うべきところで使えちゃってるし。

 いや、私も助かってるから何も言うまいとは思うけど。


 ともあれ、そんな背景もあって最近は私たち4人のチャットもそちらのアプリに移行している。

 地味にお母さんとユズ姉さんも。

 ユズ姉さんに至っては、ジェムプロでそのアプリを使わせようか検討もしているらしいし、レイネも秘匿回線用のサービスを作るとかなんとか言ってた。


「それにしても楽しみだなー、リンネのとこの一期生」


「そんなに楽しみにしてくれてるの?」


「そりゃそうだよ。注目度ヤバいよ?」


「へー、そうなんだ」


「ちょ、リンネ、自分のトコの事なんだから知ってるっしょ? ネットニュースとか見てないの?」


「ネットニュースとかはあんまり興味ないから見てないかな。好き勝手書かれたり、アクセス目的のゴシップみたいなのばっかりだし」


 もともと私がマスコミ嫌いだったからっていうのもある。

 お母さんが女優という職業であるせいで、小さい頃から好き勝手に騒ぎ立てるマスコミの姿を見てきたしね。


「あーね、わかる。でもほら、最近のネット記事こんなんだよ」


 スマホを操作して差し出されたそこには、幾つもの記事の見出しみたいなものが表記されていた。




 ――【新進気鋭のVtuber事務所『魔王軍』による、一期生デビュー。〝新技術〟による伝説を生み出したかの事務所に注目が集まる】。


 ――【コンセプトはやはり魔物? 話題のVtuber事務所『魔王軍』の一期生を大予想!】。


 ――【〝新技術〟の貸与はやはり難しい? Vtuber事務所『魔王軍』、一期生のデビューは時間稼ぎに苦し紛れの話題作りか】。


 ――【「配信であれは有り得ない。あれはアニメーションだ」と語る専門家に取材! 株式会社『魔王軍』の〝新技術〟に迫る】。





「……相変わらずというかなんというか、書いたモン勝ちみたいな世界だね」


 まともなものからイチャモンに近いようなものまで、手を変え品を変えアクセス稼ぎに書かれた記事の数々。


 とりあえず一期生の面々を時間稼ぎとかなんとか書いてるコイツだけは、レイネに言って後で呪っておこうと強く決意。

 トモにURLを共有してもらってレイネに送った。


 一瞬で既読がついて、「可愛い後輩を守りたがるロココさんが、今後ずっと小さな不幸に見舞われる程度に『縁切り』した、とのことです。せっかくなのでロココさんにネット記事を片っ端から調べてもらいます。暇そうなので」と返信がきた。


 ……そっかぁ、ロココちゃんかぁ。


 後輩を可愛がろうとしてるもんねぇ……。

 この世界の神使による、この世界の住人への呪いかぁ……。

 実害が少しの間出てくるだけのレイネの呪いよりもタチが悪い気がするけど、まあいっか。

 あの子たちの想いを考えようともせず、自分勝手にその気持ちを貶めるような記事を書いたんだもの。相応の報いを受けるといいよ。


「なんか遠い目してるけど大丈夫そ?」


「あ、うん。なんでもない」


「そう? まあいいけど。ともかくさ、こんな感じでリンネの事務所って大注目なワケ」


「知らなかったけど……まあ大丈夫だよ。あの子たちの準備はもうできてるしね」


 私の方に上がってくるような報告を見ても、特に問題なく準備は進んでいる。

 正直、私に今からできる事なんて特にない。

 あとはあの子たちが、自分の才能を、その想いを示すだけだからね。


 私にとっても楽しみなその日は、もう目の前まで迫っている。






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