第四章 エピローグ
《『――ですから、えー。先ほども申し上げました通り、いま、関係している議員については聞き取りを進めており、えー、事実確認に努めている、ところでございます。えー、この問題については私としても早急に解決すべき問題であると、あー認識しております』――と、このような見解を述べており、野党の追究が厳しくなって――》
ぷつん、とテレビの画面がブラックアウト。
黒くなった画面には、呆れた様子で目を細める私がフォークに刺さったレタスを口元に運ぼうとしつつ、リモコンをテレビに向けている姿が映っていた。
「……凜音お嬢様、ご感想を一言」
「……茶番かな、と」
「……ふふ、そうですね」
あの旅行からすでに2週間半が経って、夏休み終了。
未だに外は真夏から代わり映えしない炎天下ではあるけれど、学生である私からすれば夏休みが終わった時点で夏は終わった、という感覚だったりする。
私に手を出そうとしていた、旅行を招待してきた会社であるクレアボヤンスは、私の配信が終わった翌日から大炎上。
というのも、あの末永という男性社員やその上司が所属している会社がSNSで情報が流出。かと思えば、その後に政治家との国の補助金事業などを利用した談合、癒着からあらゆるハラスメントまでもが次々にSNS上も含めて内部告発ラッシュに突入した。
さらに、その背後にいた協力者であり、今回私を狙った黒幕とも言えるような存在、大河内という議員に至っては、記者会見中に自分のやってきた様々な悪事を赤裸々に告白。
談合、癒着の件で炎上していたクレアボヤンスの件はもちろん、それに関係のない党内の最大派閥のトップの裏金。与党内どころか野党内の一部の議員までもが協力したマッチポンプ活動までもを実名付きで語ってしまったのだから、燃えないはずもなかった。
あちこちから上がってきた問題が、火に油どころかガソリンを注ぐかのように爆発、延焼を広げていて、その結果、近年稀に見るレベルの大炎上を引き起こしている。
ちなみに、大河内が何故そんな真似をしているのかというと、彼が己の行い、愚かさを悔い改めた――なんて事もなく、レイネの精神干渉による一種の催眠状態に陥っているせいだけどね。
私という存在に手を出そうとして、その結果、彼らが手にしたのは己の破滅だったという訳だね。
そうしてその事実確認が緊急国会で行われているのだけれど、この数日、国のトップの回答が冒頭のこれ。
騒動の炎上から今日に至るまで、「事実を確認する、大変な問題だと認識している」だのと口にするだけで、具体的に何も解決しないままもう2週間。
糾弾している風を装いつつも、結局は退陣要求などを具体的に要求もしない、ただただ文句を言うばかりの野党の政治家と、のらりくらりと訳の分からない「自分は認識しています」とだけ語り続け、具体的な対策を一切提示しない国のトップのやり取りが続いているのである。
……これを茶番以外でなんと言えば?
国民感情のガス抜き目的のパフォーマンスとか?
もしも後者であるとしても、見てる国民にとってはかえってフラストレーションが溜まるようなやり取りでしかない。
こんなのが本気で通用すると思っているんだとしたら、国民を馬鹿にしているとしか言えない気がするけれども。
「まあ、今回の騒動で多少は寄生虫共の掃除はできたんじゃない? 牛耳っていた連中も一度失った信用はそうそう容易く回復させることはできないだろうし、旧来の体制にメスを入れたい勢力がここで頑張るんじゃないかな。そんなのがいれば、だけど」
「はい、仰る通りかと。篠宮ではありませんが、現在は旧華族家からも現行の政治体質を一新すべきだという声が大きくなっておりますので、そういった勢力が野党側の議員を押し上げる形になるかと」
「ふーん、旧華族が、ねぇ……。ぶっちゃけ、そっちも別に国を良くしようとしているという訳ではなさそうだけど」
「かつての栄華を取り戻すべく、ここで率先して動き、家の発言力と権力を回復させようとする家がその多くを占めているというところかと」
「……こんな事態になってもそれかぁ。なんていうか、色々と極まってる感じだね」
政治家なんてものと関わったせいか、ちょっと裏事情が見えてしまった気分だ。
ついつい魔王であった頃の感覚で考えてしまい、辟易としてしまう。
……うん、もう考えるのやーめた。
わたしJKだもん、政治とかよくわかんなーい。
「ちなみに、陛下であったなら如何なさいますか?」
「……レイネ」
「はい」
「私ならどうするかぐらい、想像ついてるでしょ」
「はい」
「……はあ。うん、その通りだよ」
「ふふふ、やはりですか。失礼いたしました。少し、懐かしく思いまして」
じとりとした目を向けてみせる私の答えを聞いたレイネが楽しげに言うものだから、ついつい毒気が抜かれた気分で私も苦笑してしまう。
私はほら、力で魔界を統べた存在だからね。
そんな私が、こんな状況になった自分の国を見ようものなら何をするか。それぐらい、レイネだって容易く想像ができるだろうに。
「ま、この世界というか、この国をどうするなんてつもりはさらさらないよ。ここは私が愛し、私が守ると決めていたあの国とは違うからね」
「ですか」
「ですよ。……こら、ちょっと残念そうな顔しないの」
「ふふ、冗談です」
冗談だと言ってはいるものの、今のは割と冗談じゃなかったりするんだろうなぁ。
気付かないフリをさせてもらうけれども。
「はいはい、この話はおしまい。私はJK、これ以上むずかしい政治のお話なんてしませーん」
「はい、かしこまりました」
「って事で、魔法に関する視聴者の反応はどう?」
「多くの人間が、CGやアニメーション、合成などであると思っているようです。しかしロココさんの配信で起きた現象によって、信じる者も少数ながらに増えてきているようですね」
ロココちゃんの配信での現象っていうと、あの時のアレかぁ。
確かに魔力に近く、けれど何か異なる力のようなものを感じたけれど、前世の頃に見た神族の使っていた力とも性質が違ったんだよねぇ。
「レイネも何も感じなかったんだよね?」
「はい。私も凜音お嬢様と同様に、特に何も」
私とレイネはあの日、当然ロココちゃんの配信をしっかりと見ていた。
その時のコメント欄の反応なんかは目にしていたし、魔力とは異なる、けれど似たような力の奔流は確かに感じ取れた。
けれど、視聴者のように「泣きたくなる」や「涙が止まらない」というような感覚というのは一切感じ取れなかったのだ。
「コメントからそれらしい反応をしてみた人間の居場所を探ってみましたが、その手の反応を見せていた者は日本各地に存在しており、彼ら彼女らに規則性や法則性もありませんでした」
「そっか。ロココちゃんはなんて言ってるの?」
「神使として助言を与えただけである、という認識のままのようです」
「……ふぅむ、ロココちゃん自身は何も分かっていない、と」
土地に紐づいたものであったり、信仰に紐づいたものであったのなら分かりやすかったのだけれど、そういう訳でもなかった、と。
ロココちゃんに詳しい話を聞こうとはしたんだけど、あの子、割と天然というか、いまいち力の本質とかそういう知識がないっぽいし……。
ロココちゃんに神使として魔法の存在を断言してもらったのは、今回の騒動が私の動画が端を発している事に気が付いている視聴者に向けたものだ。
SNSでそういう事を周りに吹聴している人もいれば、ただの偶然だと決めつける人間もいて、なかなかにネット上では熱い話題になっている。そこに対するロココちゃんの配信は、さらなる燃料を投下する形になった。
軽々しく彼女を貶す輩も一定数いるみたいだけれど、そんな連中はレイネの呪いをもれなくプレゼント。
血塗れの鉈を手にした、口が裂けた少女に追われる夢を毎晩見るだけという優しさ溢れる夢だけれど、SNSで一斉に同じ夢を見た者がいると知ったようで、当事者たちを除いてちょっとした都市伝説化されそうな勢いで盛り上がっている。
「……うん、やっぱりレイネ、頼まれてくれる?」
「かしこまりました。近日中に、宮比神にお話を伺ってまいります」
「うん、ありがとう。本当は私が行けた方がいいんだけど――」
「――いえ、それは向こうから辞めてほしいと懇願されておりますので」
「……ですよねー」
ロココちゃんの保護者というか、そんな立ち位置の宮比神。
どうも力が弱いらしく、レイネの持つ魔力の僅かな余波でさえ少々息苦しくなってしまうそうだ。
向こうの社を守る結界の内側にいて、私たちと隔たれているような今の状態ならともかく、あまり同じ空間にいたくないと言われているらしい。
そんな相手の前に私が現れたらどうなるか。
レイネが言うには、「この世界の悪霊や妖魔の類と同じように、余波だけで消し飛ぶ可能性も否定できない」とのこと。
いや、ロココちゃんが大丈夫だったんだし、私がロココちゃんにやったように魔力障壁で魔力を遮断してあげれば問題はないと思うんだけど、「その一瞬で神殺しが起きてしまったらシャレにならん」と言われてしまっているのだそうだ。
神使とも違って肉体という器を持っていないらしく、そのせいで直接力を受ける事になるようで、私のような存在はクリティカルな存在であるらしい。
無理に会おうとした結果、偶然にも鼻がむずむずして、くしゃみで余波が強まるらしい私の魔力が放出なんて事になったら……図らずも神殺しとか?
くしゃみで神殺しとか、そんなの私だって嫌だよ。
「まあ、よろしくね」
「お任せください」
「それと、〝新技術〟の一般レンタル事業とスタジオのレンタル開始についてなんだけど、準備は大丈夫そう?」
「はい。予定通り、今年の年末頃には動き出します。また、魔石の公開については来年の春を目処に篠宮家で体制を整えております」
「おー、順調だね」
今のところ大手のV配信者事務所にしか貸与していない、カメラの中規模事務所、及び一般向けレンタル。
それと、元々は物流用倉庫予定地であったVtuberの撮影用スタジオのオープン時期については、合わせてリリースするという方向で話がまとまっている。
結果、ネット界隈的には今年の冬頃。
そして社会的、世界的には来年の春頃に。
それぞれが、魔法や魔石という存在によって世間を賑わせるという事になる訳だね。
なんだか忙しくなりそうだ。
「ちなみに、一般向けレンタル開始やスタジオオープンイベントとして、ジェムプロ、クロクロにもスタジオを無償で貸与する予定となっております」
「え」
「凜音お嬢様もステージに上がっていただきますので、そのつもりで」
「……え?」
……なんて??
これにて第四章は終了となります。
今回の章は割と配信主体というより配信よりもリアル側の話題でしたが、次章は配信ネタが非常に増える予定です。
今更言うまでもありませんが……
『※ この物語はフィクションです。実在する人物、団体とは一切関係ありません』
……いいね?(爽やかな笑顔)
ともあれ、改めてブクマや評価、イイネ、それにレビューもありがとうございます。
この場を借りて御礼申し上げますm
引き続きお楽しみいただけると幸いです!




