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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
132/201

【配信】断罪のお時間 Ⅱ




「――……ぁ……ぁぁ……」


『ほんの数秒で廃人になった感じ??』

『演技うっまww もうこれプロの犯行やんw』

『いや、えぐぅ……』

『数秒で数年間を体感して拷問されていたって設定だっけ』

『すんって表情が死んで涎垂らして目のハイライトが消えて遠くを見るとか、演技としては最適解やなw』


 虚空を眺め、精神が崩壊した様子でだらりと動かなくなった男たち。

 気絶させて放り込んでいた男にも同じ魔法をかけた結果、3人揃って似たような表情を浮かべ、抵抗する気概も消失している。


「……ふぅむ? もう壊れておらんか? なんじゃ、情けないのう。レイネよ、此奴ら、素人ではなかろうな?」


「いえ、そんな事は。後ろ暗い仕事を引き受ける専門のメンバーのようですので」


「それにしても耐性がないのう」


「平和ボケしたこの世界で、ただただ悪事を先手必勝で行ってきただけの愚物です。特殊な訓練らしい訓練を受けているという訳でもないのではないでしょうか」


「ふむ……。訓練された犬ではなく、野良犬が群れて餌でいいように使われている程度という事かの」


「仰る通りかと」


『辛辣で草』

『訓練された犬って、それは軍人とかスパイとかそういう??w』

『あぁ、そういうww』

『普通、大の男がこうして襲いかかったらJKはなんもできんと思うんだがw』

『↑※相手は魔王様です』

『そもそも魔王がJKって字面がすごいわw』


 盛り上がるコメントを他所に、私はついつい深い溜め息を吐き出していた。


 実のところ、私が使った魔法は実際に時間を止めたり精神世界がどうのこうの、なんて代物ではない。せいぜい〝数年分を体感したと錯覚させる幻覚をぶつけた〟だけだったりするんだよね。

 要するに事故に遭った人間がその瞬間をスローモーションに感じたりとか走馬灯を見たりとか、そういう状況に強制的に錯覚させる精神干渉系の魔法でしかない。


 前世ではこの魔法を利用して思考を加速させ、肉体を魔法で強化して魔物で戦うような技術が当たり前のように存在していたし、ちょっとでも魔法に触れていれば抵抗できてしまうような代物。

 魔法を階級で分けて考えれば、せいぜいが初級応用編程度、とでも言えるようなものだったりする。

 たとえ魔力で抵抗できなくても、気を強く持っていれば耐えられるからね。


 そんな程度もこなせないような連中でさえ、随分とまあやりたい放題やってきたらしい。


 レイネが抜き取った記憶を共有してみたところ、界隈ではそれなりに名の知れたチームというか組織というか、そんな連中であり、裏社会では名が知れている程度には手のつけられない存在であったみたいだ。

 背後にいるのはとある政党のようで、しかもその政党が秘密裏に子飼いにしつつも〝貸し出し〟までしていたらしい。


 今回のこれは、その〝貸し出し〟に頼る形で私たちをここに招待したクレアボヤンスという会社が主導したものだ。


 正体不明のVtuberという存在である私。

 そんな相手がのこのこと姿を見せる事が分かった。


 そこで、古く歴史がある会社であり、国営の事業にまで手を出していた――というか、利権でずぶずぶに癒着していたクレアボヤンスは、この襲撃犯らの〝飼い主〟ともパイプを持っていて、この好機を逃すまいと〝飼い主〟に相談。

 結果として私たちから〝新技術〟を奪い、その利権を還元するという空手形まで切って、今回この連中をレンタルした、というのが事の真相らしい。


 それらの裏事情を私とレイネは知っているけれど、視聴者は知らない。

 公開処刑と謳っている以上、ある程度の背景説明は必要だし、自白させようというのが今回の趣旨だ。


 こちらに顔を向けていたレイネに頷いてみせれば、レイネが男たちへと歩み寄っていった。


「……さて、そろそろ今回の絵を描いた張本人の名前を吐いてください」


 レイネが男の一人の眼前に手を翳してみせ、その手から淡く白い光を放つ。


 光を浴びた男の目が徐々にまともな光を取り戻し、抜け殻めいた声とも言えないような声だけをあげていた表情から一変、恐怖に染まったようなように表情を引き攣らせ、目を大きく見開いたままレイネと私を視界に捉えた。


 強制的に〝まともな意識〟を覚醒させられる事になった男は、ガタガタと震え、カチカチと歯を鳴らしながらその名を告げた。


「――――党の……――――から、の、依頼で……」 


『大事なところが聞こえない!!w』

『フィクションなんだから言ってくれてもいいのよ??w』

『配慮助からない』

『【悲報】読唇術の通信講座受講者ワイ、誰を指したか判ってしまったww』

『読唇術ニキ、答えはよ!』

『実在しとるんよ、党も人もwwww さすがに言えんてww』

『それは配慮する必要あるわww』

『マ!?!?』

『こっちも読み取れたけど、これは言えないわ……w』


 コメントを見ていたら、何人かは読唇術で名前を読み取れたと発言する人もちらほらいるらしいけれど、実のところ、この内のどれかがレイネが手を回した〝篠宮家の人間によるもの〟でもあったりする。

 その他は本当に読み取れたか、或いは読み取れた風を装ったものだろうけれど、真相はどちらでも構わない。


 ただ、〝挙げられた存在が実在する事を示唆する人達がいた〟という記憶だけが視聴者たちに残ればいいのだから。


「依頼、ですか。一体何を依頼されたのです?」


「あ、あんたらを襲って、〝新技術〟について吐かせろ、と……。しっかり躾けろ、とも……」


『うわぁ』

『サイテー』

『これはさっきの連中だけじゃなく議員もギルティやなぁ』

『議員もずぶずぶなのがよく分かるわ……w』

『これだから談合国家は……』

『談合はダメ(私たちがやっているのはお話)です、のお国だからなww』


 コメント欄も色々と思うところがあるらしい。

 まあ、かと言って今この場で黒幕というか、クレアボヤンスに協力し、この男たちを提供した党と議員の名を挙げるつもりはないんだよね。

 そんな事をしたって、確たる証拠はないと突っ撥ねるのが関の山だろうし、それどころかここぞとばかりに名誉毀損だのなんだのと騒ぎ立て、こちらを訴えると反撃し、あわよくば私たちの〝新技術〟をどうにか手に入れようと考えるのは目に見えている。


 はっきり言うと、そうなってしまうのは面倒の一言に尽きる。


 レイネの家である篠宮家を利用して権力に対抗する事もできなくはないけれど、そんな迂遠な方法を取ったところで根本的な解決にどれだけ時間がかかり、煩わされるか分かったものじゃない。そんな状況に陥るのは私も望んでいない。


 だからこそ、私たちは常識外れに魔法を使ってみせたり、あたかもフィクションであるように見せている一方で、これがノンフィクションであってもおかしくないかのようにも見せている。

 いずれ魔法や魔力という存在が世に広まった時、この映像がノンフィクションであったのだと誰にでも判るようにする為にも。

 でも、相手を表舞台に引きずり出し、世間の声と共に糾弾するつもりなんて一切ない。




 ――――だって、今回の公開処刑はあくまでも〝見せしめ〟の為のものでしかないのだから。




「陛下、飼い主の正体を吐かせました。すでに処理したメンバーと証言も一致しております」


「ご苦労」


 短くレイネへと告げてから、男たちを再び遮音結界で封じ込め、カメラへと顔を向ける。

 同時にレイネが魔法を展開し、男たちを影の中へと取り込み、その場から消し去ったりもしているのだけれど……うん。


 影から真っ黒な手が伸びてきて身体に巻き付き、さらには顔のようなものを近づけて抱きつきながらずるずると引きずり落とすように連れて行く様は、なんというかホラーの一言に尽きるね。

 遮音結界のおかげで叫び声とかは聞こえないけれど、めっちゃ叫びまくってそうだし。


 うん、さすがにカメラには映せないね、あれは……。


 トモとユイカ、このみんが何やら「ひぇ」だの「うわぁ」だの、表情を引き攣らせたようなリアクションをしている声が聞こえたけれど、今は無視させてもらおう。


「――さて、今回の配信はここまでじゃ。突発配信ではあったが、よく集まってくれたの」


『え、ここまで!?』

『ちょっ、まだ先が気になるんだけど!?』

『そんな折衝な!』

『↑殺生なww』


「む、そうは言われても、この先の騒動解決編はまだ収録……げふん、色々あってのう」


『漏れてますよ陛下!w』

『収録てww』

『メタい発言すんなww』

『やっぱフィクションだったってことかw』

『つよつよフェイス見れたから満足ですw』


「あー、まあなんじゃ。次回からはリアルの顔は出さぬぞ。基本的にはVtuberとしてしか配信する気はないからの」


『たすからない』

『もっとつよつよフェイス出してけ!』

『まあVtuberとして売り出してるならVだけでいいと思うがw』

『それはそれでリアル版もアップしてくれると助かる』

『いっそリアルの方はテレビでいかが??』

『諦めの悪い芸能事務所さんがいるようですねぇww』


「まあ、そういう訳でな。近々解決編はプレミアム公開という形でやらせてもらうからの。続編についてはそちらを待っていて欲しいのじゃ」


『はーい』

『めっちゃ楽しみにして全裸待機してます!!』

『服着て待ってろ』

『え、ホントにフィクションってことでいいんだよね、これ』

『めっっっちゃ気になるううう!!』


「ではでは、またのー。おつかれさまじゃー」


 困惑を残すコメント欄を無視してカメラに向かって締めくくりの挨拶を済ませ、ついでだからとカメラをロフト側から顔を出してるトモたちにも向けておく。

 3人とも、ドン引きしたまま表情を引き攣らせているかと思ったけれど、そんな事もなく「ばいばーい!」とノリ良くカメラに手を振ってくれていた。


 そんな姿を一通り撮ったところで、配信を終了。

 ほっと胸を撫で下ろすような素振りをする3人に向かって、私は改めて口を開いた。


「3人とも、お疲れさまー。私たちは少しだけ出かけてくるから、ゆっくりしててね」


「おつおつー、って、どこ行くん?」


「ちょっとね。多分30分ぐらいで戻ってくるから、ゆっくりしてて。――レイネ」


「はい。すでに捕捉済みです」


「うん。じゃあ、行こうか(・・・・)




 ――――表向きの公開処刑を含めた〝見せしめ〟は配信で充分に事足りる。

 あくまでも今回の配信は、今後私たちに手を出そうとする相手に対する、ちょっとした警告に過ぎないものでしかないし、これまでの配信とはあまりにも方向性が違うので、そこまで大っぴらにやるつもりはなかったからね。


 ただ、それはそれとしても。

 私やその周囲に手を出そうとしたという事を許すつもりは、一切、これっぽっちも存在していない。


 こちらに手を出しておいて、あまつさえ傷つけようとまでしておいて、のうのうと生き残れると勘違いするような輩を放っておくつもりは、微塵もない。




 私はレイネを伴ってその場から魔法で転移した。






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