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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
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抱えてきたもの






 ――どうしてこうなった……。いや、私のせいだよなぁ……。

 そんな事を自問自答しつつ、己の浅はかな言葉に頭を抱えたい気分のまま、私は目の前の光景をぼんやりと眺めていた。


「……はあ。旅先のテンションって怖い……」


 今回の作戦というか、そもそも「Vtuberとしてデビューしてもらう」というのは、ただの思いつきだった。

 心のどこかでは、そんな風に言えば引き下がるだろうとも軽く考えて口を衝いた言葉こそがそれだった。


 なのに、である。

 それがまさか、「楽しそう!」だの「面白いわね」だの、めちゃくちゃ乗り気になって返事がきたのだから……ぶっちゃけ私にとってもこの状況は想定外だった。




「――うはーっ、すっげーっ! 何これ、ウケる! つか3D配信とかってモーションキャプチャーのセンサーがついたスーツみたいなの着るんじゃないの!? え、いらないん!?」


「おわーっ! え、おぉ、こんな動きにも対応できるの!? うわー、やば」


「……これが〝新技術〟……。さすがというかなんというか、確かにこれまでの技術とは全く違うわ。魔法のような、なんて言葉があるけれど、文字通り魔法の力という訳なのね……!」


 温泉で話した、「Vtuberデビューしてね」という言葉。

 その言葉に困惑していたはずの3人だったけれど、魔道具を用いたカメラで3人を撮影し、その映像をそのままテレビに出力してみせたところで、困惑から一転、楽しげに動き回ってみせている。


 画面の中には3人をイメージして遊び半分で作っていたモデルを投影した姿が映っている。


 トモは明るい炎の精霊。

 赤みがかった金髪に八重歯がチャームポイントで、大きめのサイズのせいで肩が出てしまうようなシャツを着ていて、下は黒い無地のクロップという、アクティブで快活さを感じさせるようなモデル。

 肩にかからないぐらいの髪の長さをしていて、十代中盤の少女らしい、大人と子供の境界をイメージした顔立ちをしたモデルを見つめながら、普段のレッスンでやっているのかダンスをしてモデルの動きを確かめている。


 その横でストレッチしてみたりと、モデルの可動域を確かめるように動くユイカも画面に目が釘付けだ。ユイカのどこか飄々としていて、それでいてトモと相性のいい存在をイメージして、彼女には風の精霊風――柔らかな緑色の長い髪を波打たせている。

 ちなみに服装はトモと同じような感じ。


 一方このみんは、精霊をモチーフにした二人とは違って獣人族――いわゆるケモミミ娘をモチーフにしている猫耳少女で、金に近い亜麻色の髪でひし形ボブヘア。トモとユイカに比べて、少しだけ幼く見えるようなモデルなのは、このみんのリアルの見た目に準拠した形だ。

 服装についてはピッチリとしていて袖口の短い白いシャツに太ももまでのスパッツと、これまたスポーティーな感じ。


「スポーティーなタイプの服だけど、どちらかというと部屋着としてラフなものを着ているってテーマだね。特に動き回る訳でもないし、スポーツ系のリクリエーションを用意してる訳でもないよ」


 未だ画面に夢中な3人に向けて声をかければ、「ほぇー」だの「ほーん」だの、画面から目を逸らそうともせずに返ってきた気のない返事。

 ちゃんと聞いてないだろうな、と思いつつ3人の様子を眺めていると、席を外していたレイネがこちらに戻ってきた。


「首尾はどう?」


「準備は完了しております」


「そっか、ありがと。向こうの動きは?」


「今のところはまだ。しかし、動き出すのは時間の問題かと。すでにこの敷地内に数名、夜になってからひっそりと現れた気配が幾つか」


「ふむ……」


 夜になってから現れた気配、ねぇ。

 他の宿泊客がなんらかの理由で遅れてやってきた、とも考えられるけれど、レイネがその可能性を考えないはずもない。

 わざわざそんな言い回しをするって事は、明らかに普通の宿泊客とは違う動きをしているんだろう。


「……やっぱり、力づくで脅そうとしているってこと、かな」


「思考を読んだ限り、ほぼ確定かと」


「……相手が悪いとしか言えないけどねぇ……」


「……それは仕方のない事かと……」


 こっちは魔法っていう常人には見えない力を持っていて、一見すれば無防備なJK集団に見えるかもしれないけれど、その実、常に武装しているとも言えるような集団だもの。

 まだまだトモやユイカ、このみんの魔力や魔法は守りに特化しているだけのものではあるけれど、普段から展開している強度なら銃弾クラスの代物以外なら弾けるだろうし。

 逆に、無意識であの強度なら、意識して障壁を強化すれば銃弾も弾ける程度には強固になるはず。


 レイネに短く返してから、一度手を叩く。

 魔力を僅かに乗せていた事もあって、3人がはっとした様子でこちらへと振り返って視線を向けてくる中、私も改めて口を開いた。


「確かめるのは一旦止めて、最終確認させてね」


 温泉に入りながら思いついた作戦。

 協力してくれるならと「Vtuberデビューしてね」なんて言ってみたものの、よくよく考えずとも危険を冒すものに付き合わせるという事に他ならない。

 その場のノリと勢いで協力してもらうという方向で話を進めてしまったし、私も魔法で保護して安全を確保しているとは言っても、わざわざリスクを背負わせる必要があるのかと言うと、正直、微妙なところではある。


「――さっきも言った通り、3人に協力してもらわなくたって、私とレイネだけで秘密裏に処分する事はできる。洗脳、あるいは脅して噂を流させるなんて真似だってできなくはないんだよ。だから、無理に今回の作戦に協力する必要なんてない」


 いくら安全とは言っても、そもそも危険な目に遭わないに越した事はない。

 先に私たちが怪しい連中や盗聴器を仕掛けた張本人をどうにかした上で、レイネが洗脳、あるいは呪いをかけて行動を制限し、噂を流させれば充分に事足りる。

 それでも余計な手出しをしようとしてくる輩は一定数存在するだろう事は想像できるけれど、その都度返り討ちにしてやればいい。

 それぐらい、私たちにとっては造作もない事ではあるのだし、大した労力でもないのだから。


 だから、ここで無理する必要はないとも言えた。


 もしかしたら、3人だって旅先の熱に浮かされて了承している可能性もある。

 だからこそ、私は敢えてリスクを口にした。


「人の醜さというものを目の当たりにして、害意や悪意というものを向けられて、怖い目に遭うかもしれない。それを理解している? わざわざこんな事に協力しなくても、ちょっと私とレイネが動けばどうにでもなる。――それでも、後悔はしない?」


 恐怖を煽るような物言いは、我ながら卑怯な言い回しだと思う。

 でも、こればっかりは蓋をしておくべき事ではないからこそ、敢えて口にしている。

 たとえこれで3人に嫌われたり、付き合いが悪いなんて思われたとしても、こればかりは黙っておくような事ではないから――なんて思って3人の顔を見てみれば、3人は真っ直ぐ私を見つめていた。


「後悔なんてしないよ。それにリンネ、これはウチらの為にも必要な事だと思ってる」


「え?」


「トモの言う通りだよ、リンネ。アタシらは芸能人だし、このみんだって社長令嬢。変な連中に目をつけられるかもしれないし、妙な事件に巻き込まれるリスクは普通より高い。だから、リンネがいてくれて安全が約束されてる中で体験できるなら、それに越した事はないってワケ。自分を守って、大事な誰かを守る力を得られるんなら、躊躇う理由なんてないっしょ」


「そーそー。実際ほら、ウチの場合は東條の件もあったしさ。あの時は何もできなかったじゃん。でも今は違う。リンネの魔法のおかげで自分で自分の身を守れる力を得たんだから、それを使う事に躊躇わないようになっておきたい。そういう意味じゃ、今回はリンネも傍にいて、お誂え向きに敵もいる。やるっきゃないっしょ?」


「私も似たようなものね。ユイカの言う通り、立場だってあるけれど……何よりあの時、リンネが強かったからどうにかなったけど、私はリンネを売ろうとしたんだもの。……もう、あんな惨めな真似はしたくないわ」


「それな」


「だねー」


 3人のそれぞれの言葉を聞いて、事ここに至って初めて理解した。




 ――――……あぁ、そっか。

 どうも私は思い違いをしていたらしい、と。


 私はてっきり、トモもユイカもこのみんも、魔法という未知の力に純粋に惹かれて、ただ未知の力である魔法を使うのが楽しくて練習しているのだと、そう思っていた。


 実際、魔法は便利だし、楽しいと思う。

 それは今生の私という人格をベースに前世の妾を思い出した私も同意できる。


 だから、みんな魔法を教えた時からやけに積極的に魔法を覚えようとしていたし、今でも魔力障壁をしっかりと纏えるようになっていて、てっきり楽しくて仕方がないんだろうなって。




 そんな風に思っていた……けれど、それだけって訳じゃなかったんだ。




 3人とも、魔法に対して真剣なんだ。


 トモは東條に拐われた時の無力な自分が。

 ユイカも、そんな親友を助けられなかった自分が。

 このみんもまた、権力と暴力に屈して言う事を聞くしかなかった自分が。


 3人とも、表には出さないけれど……きっとどうしようもなく、悔しかったんだ。

 だから、魔法という〝力〟に対して貪欲になっていたし、成長するのも想定以上に早かった。


 ――もう二度と、同じ轍を踏まないように。

 その為に、魔法という〝力〟を研鑽してきたのだろう。




 ――――ならば応えてあげるのが、魔法を教えた、仮とは言え師のやるべきこと、ということか。




「……くくっ、良かろう。では、これよりならず者の成敗と同時に、世界に魔法という存在を公表する一歩目の配信を始めようではないか」







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