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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
124/201

〝楔〟の場




「海って言っても、リンネアイランドの方が海キレイだからなー。やっぱ少しゆっくりしたら、早速温泉行こう!」


「今回の旅行のメインだからね! しかも肌にいいって噂だよ!」


「へぇ、そうなのね。リンネ、知ってた?」


「ううん、知らなかった」


 トモが音頭を取る形で決まった午後の予定。

 他愛もない会話をしながらわちゃわちゃとした時間を過ごしつつ、私は食後の紅茶を口に運ぶ。




 ――「盗聴器(・・・)が見つかりました」。




 そんな報告を聞いた時、もしかしたらここに泊まった存在が遊び半分で仕掛けたのかと思ったりもした。

 何かのイタズラ目的、あるいは「仕掛けてやったんだ」や「いつでも聞けるんだぞ」という達成感だけを目的にした、快楽目的のものだったり。


 でも、どっちかと言うとその線は薄い。

 十中八九、狙いは私とレイネ――というより。


《――やっぱり、〝新技術〟を狙ってきたと考えるべきかな?》


《まず間違いないかと》


 魔力のパスを通して声に出さずに会話する念話。

 私はトモたちに相槌を打ち、レイネは荷物の整理にという名目で私たちの寝室へと移動してこそいるけれど、思考の多くは先程の代物――盗聴器と、その目的の推測に向けていて、こうして意見を交わしていた。


《招待された先にご丁寧に盗聴器、ね。まあ疑う余地はないかな》


《はい。ですが、この場所の運営側と手を組んだ、という訳ではないかと》


《ん? ずいぶんはっきり言うね。なんでそう思うの?》


《理由は幾つかありますが、まずそもそも、仕掛けられていた盗聴器はどれも最近取り付けられたものであることが大きいです。もしも盗聴器を仕掛ける上でこの場所の運営側が協力していたとしたら、わざわざ新しく盗聴器を仕掛けずとも、それ専用(・・・・)の建物に案内すれば良いので》


《……何それ?》


《この場所は有名人、著名人御用達の場所です。それ故に、第三者に見られたくない、知られたくない、後ろ暗い取引に使われる事もあります。そういった際に、ただの第三者として調停役(・・・)。それがこのホテルの裏の存在理由でもありますので》


 ……えっと。


《……つまり、もともとそういう取引を対象に情報を収集するための部屋、というか棟が用意されているってこと?》


《左様でございます。VIPルームと呼ばれるような、権力のある者達が泊まる棟にはそういった仕掛けが最初から施されているのです》


《なにそれこわ。プライバシーもへったくれもないじゃん》


 そんなとこに泊まるとか絶対嫌なんだけど。

 いや、独り言も含めて喋らなければいいとも言えるけれど、見ず知らずの人間に生活音とか聞かれるのもなんか嫌だし。


《というか、そんな風に情報を抜かれるんだったら後ろ暗い取引なんてできなくない?》


《いいえ、凛音お嬢様。知られるからこそ安心して取引ができる、とも言えるのです》


《……どういう意味? だって、第三者に秘密の話を知られるってことでしょ? それじゃ、密約なんてできないと思うけど》


《密約は、所詮は利害関係の一致から行われた一時的なものになりやすい代物です。故に、状況が変わろうものなら、場合によっては裏切った方が利益を得る事ができるケースもございます。しかしながら、ここで行われた取引においては、この場所の運営、そしてその背後にいる私の家のような存在が裏切りの真実を知る事になるのです》


《……あぁ、そういう……。つまり、裏切った側はここを使うような存在たちに「自分は裏切るような人間です」と認識されるようになる訳だ。……そうなれば、終わり(・・・)だろうね》


 この場所は有名人や著名人が使う場所であることは、レイネの家――旧華族の篠宮家も把握している。その上、聞けば法律上もグレーというかブラックというか、何やら背景に仄暗いものを抱えているらしい場所でもある。


 そんな場所を運営できるのは何者か。

 まず間違いなくそれなり以上の権力を有していて、いざという時にも介入できるだけの下地を持っているのだろう。そもそもそういう人物が背後にいると分からなければ、著名人だって安心して使えないって事だからね。


 ――そんな存在に、裏切りが露見して、挙げ句それが広まりでもしたらどうなるか。


 叩き潰される、だろうね。

 裏切り者として烙印を押され、ありとあらゆる場所がその存在、あるいはその企業から手を引き、切り離そうとする、というところかな。

 こういう場所を使えるだけの地位にある人間にとって、自分と同等、あるいは自分よりも地位が上にある人間たちから裏切り者の烙印を押されて見放されれば、未来はない。


 沈みゆく泥舟。

 その船頭は、他者を裏切るような人物なのだから、誰も手を伸ばそうとはしない。


 私たちの生きていた前世。

 あちらの世界では契約魔法があったし、それを使えば相手も自分もお互いに裏切られないと考えられたし、それが常識だったけれど、この世界にはそういう魔法が存在していないから。


 裏切られないための代わりの〝楔〟が必要で、その〝楔〟こそがこの場所という訳だ。

 よく考えたものだね。


《……はあ。華のJKが来るような場所じゃないと思うんだけど》


《……それはそうですね》


 トモとユイカ、このみんがきゃっきゃと温泉談義から肌ケア用品相談会へと話を移している声を聞きつつも、小さく小さくため息を零した。


《ま、来てしまったものはしょうがないとして、だよ。そうなると、私たちを狙っているのは今回の招待主、クレアボヤンスってところってことだね》


《そうですね。老舗と言える会社ではありましたが、ここ十数年で売上は低迷気味。かつては旧華族家の本条家とも交流が深かったようですが、今ではほぼ交流も途絶えているようです》


《ここを貸し切れたのは、その当時取った杵柄、というヤツかな?》


《おそらくは。場合によっては、私や凛音お嬢様の持つ〝新技術〟を奪い取れたその暁には、利権を共有しようなどと画策している可能性もありますが》


《……取らぬ狸の皮算用、ってヤツじゃん》


 さすがにそこまで話してたりは……あー……するんだろうなぁ……。


 レイネの話じゃクレアボヤンスとやらは落ち目であったらしいし、そうなると、そんなところからの協力要請に誰かが動くとは考えにくい。でも、この場所はその誰かが動かなければ、ここを使えなかったはず。


 協力者は存在していて、それが旧華族、あるいはその関係者であり、ここを使えるだけの地位を有した人間であることは間違いないか。


 この作戦の発案者、実行役がクレアボヤンスだとしたら、そこが指示をして独断で動いたというよりも、協力者に提案された見返りが大きかったからこそ乗った、というのが自然な流れかな。

 しかも、実際にここに私を招待したのも実行するのもクレアボヤンスなら、万が一上手くいかなくてもクレアボヤンスを切ればいいと考えた、というところかな。


《……今からさっさとクレアボヤンスの本拠地に魔法ぶっ放して解決、とはいかないかぁ》


《ガス爆発として処理する事も可能ですが》


《いや、こわ。やらないよ。計画を知りもしない、ただ働いているだけの人間まで巻き込む事になりかねない以上はね》


 これが裏組織みたいに分かりやすく全員敵だったらそれでもいいけど、現代社会の会社となるとそうはいかないだろうし。

 かと言って、重役会議にコンニチハして全員脅して回るとかもめんど……けふん、無関係な人間を巻き込んでしまうしね。


《……ひとまず、盗聴器は外したんだし、相手のアクションを待ってみようか》


《結界はいかがしますか?》


《探知とマーキングで、荷物だけはしっかり隠しておいて。華のJKのカバンを漁るなんて万死に値するからね》


《かしこまりました》






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