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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
123/201

裏事情




「……確かに海外のリゾートっぽいホテルではあるのだけれど、何故スタッフの人達がアロハシャツなのか。ハワイじゃないのに」


「いや、それな」


「かと言ってスーツだと暑苦しいし、ポロシャツとかもコレジャナイ感あるわよね」


「あるある。じゃあどんなんが正解なん?」


「……やっぱ、アロハ?」


「っぱそうなるかー」


「……もしかして本当にそんなやり取りで決まったのかしらね……」


 ホテルにしては思ったよりも広くないロビー内。

 どちらかと言えばホテルのフロントというよりも、雑貨屋を思わせるような小物が置かれているその場所にて。

 4人のJKと付き添い一人――なお全員サングラス着用――という組み合わせである私たちは、ロビーに入るなりトモが口にしたそんな言葉のせいで思わず足を止めた。


 ちなみに3人とも、この声が聞こえていないと思っているのかもしれないけれど、割りと響いてるから聞こえてるよ。フロントの人、ちょっと笑顔が引き攣ってるし。


「ほら、聞こえてるっぽいから変なこと言わない。早くチェックインだけ済ましちゃうよ」


「え、マ?」


「……やっちまったい」


 私がさっさと行こうと声をかければ、トモとユイカも表情を引き攣らせ、このみんに至っては耳まで赤くして俯いてしまった。


 というかこれ、どっちかっていうとスタッフさんの方が気まずいよね、きっと。

 平然とした対応を求められる訳だし。


 そんな益体もない事を考えつつフロントへと歩み寄っていく。


「いらっしゃいませ」


「こちら確認をお願いします」


「承知いたしました」


 私のスマホを持ったレイネが、招待客向けに発行されたQRコードの映った画面を表示してフロントの人に見せた。

 その姿を見てトモとユイカも思い出したかのようにそれぞれにスマホを取り出し、同じ画面を提示する。


 今回私たちが泊まるこのホテルは、先述した通り芸能人や著名人なんかが使う場所だ。

 プライバシーを徹底して守るという意味も込めて、身分証明書による本人確認なんかも一切行われない代わりに、このQRコードを発行し、これを提示すれば良いとのこと。


 本来、法律上ホテル営業では宿泊者名簿の正確な記載、保存、確認が義務付けられているらしい。もっとも、そもそも住所や本人確認情報なんかが登録されているサイト経由で予約したりする場合は、そちらから情報を照会できるので名前の確認、登録番号の書かれた紙をプリントしている、とかでも対応は可能なのだそうだけど。


 どうしてそんな事を知っているのかと言うと、実はこのホテルに泊まると決まった時、身バレの危険を考えたりもしたんだよね。

 そうして調べてみた上でここを知っているらしいレイネに質問してみたところ、「そもそも〝旅館業としては営業していない〟そうですので、身分証は必要ありません」だそうだ。


 ……まあ、うん。

 私も興味がないから特に深くは聞いてないけど、なんていうか黒いなって思うよね。

 そういう場所(・・・・・・)なんだなって。

 何処かから情報が漏れたら面倒な事になるかもしれないけど、知らぬ存ぜぬで通せるだけの下地はあるんだろうなぁ……。


「――3名様、それにお付きの2名様分の確認が取れました。この度はようこそいらっしゃいました。お食事の説明等は部屋へご案内いたします係の者が行います。何かございましたら部屋に備え付けられた電話よりお問い合わせください」


 ホテルならではの細やかな案内も行われず、シンプルに説明されてレイネが対応する。

 ご予約いただいたナントカ様、というような言葉とかも使わないし、ご利用ありがとうございます、とも言わないあたり、この辺もさっき思い出した黒い(・・)事情というヤツかな。


 ちなみにトモとユイカは借りてきた猫のように大人しくなっているだけだけれど、このみんだけはこのやり取りに違和感を覚えたのか、少しばかり不思議そうな顔をしているように思える。


 そんな私たちを他所に、係の人が私たちの荷物をワゴンに乗せて誘導してくれるので、それについて行く。


 案内された先はロビーのあるメインの建物とは別棟となっている場所。

 サントリーニ島同様、建物の構造上、背が高くても二階建てが関の山といった印象の建物はそれぞれが密集しつつも独立しているらしい。


 わざわざ外に出るとは言っても、正面は海、周辺は崖状に切り立っているため、この敷地外からこちらを確認する事もできないので、プライバシーをしっかりと守れそう。

 それに、敢えて別の建物にすることで、ホテルではなく招待客に使ってもらっているだけだと言い切る下地でもあるかもしれない。


 ……まあ、そういう裏事情を気にしていても楽しめないし、割り切ろう。


 係の人が言うには、食事とかについてはわざわざ運んでくれるらしい。

 時間については食事の2時間前までに時間を指定してくれればそれに合わせる、というサービスになっているみたいだ。

 もうすぐお昼の時間だし、お昼については部屋――棟?――で食べる旨を伝えてある。


 短くやり取りをしていたレイネを他所に、私たちは部屋の中を見回す。

 部屋に入って正面は広々としたリビングルームで、ゆったりと過ごせるようになっている。

 その奥にトイレとバスルームもあって、寝室は1階に2人部屋が1部屋、ロフト状になって階段を登った先に3人ぐらいで眠れる巨大なベッドのある主寝室があるらしい。


「あれなら3人で寝ても余裕そう。ウチらとこのみんが一緒でいいかな?」


「んだねー。どうせ寝る寸前までみんなでリビングで過ごすんだろうし、どこでもいいっちゃいいけどね」


「構わないわ」


「一緒のベッドで寝るの、平気なの?」


 当たり前のようにユイカから提案された寝室の割り当て。

 一緒のベッドで寝るなんて単語が出てきて、しかもトモとユイカだけなら幼馴染同士だって事もあって珍しくないかもしれないけど、そこに加えてこのみんまでも全然気にしていないものだから思わず口を挟む。

 すると、3人が一瞬だけこっちも見て不思議そうな表情を浮かべて、やがて納得した様子で「あぁ~~」と一斉に声が漏れた。


 ……え、なに?


「このみん、ウチに泊まったんだよ、この前」


「そうなの?」


「えぇ、泊まったわ。その時も布団を敷いて雑魚寝するような形だったもの、今更同じベッドで寝るって言われてもなんとも思わないわよ」


「おー、そうなんだ」


 あの3人でそんなイベントがあったんだ。

 だから慣れていたというか、抵抗がなかったんだね。納得。


「じゃあレイネ、私たちは下の部屋だね」


「凛音お嬢様、私はリビングのソファーで寝れば――」


「――あ、そういうのナシね。ベッド2つあるんだし、一緒でいいよ」


「……ハイ」


 メイドとして主と同じ部屋で寝るなんてとんでもない、とでも言いたげなレイネには悪いけれど、これはさすがに譲る気がない。

 レイネもそんな私の意志を悟ったのか、割とあっさりと譲歩してくれた。


 ともかく、寝室も決定したことだし私たちも荷物を置いてから一度改めてリビングへ集合。

 時間的にもまだお昼に差し掛かったばかりという事もあって、早速だけど昼食を待ちつつ午後の予定を話し合う事になった。


「――外の気温も高いので、口当たりのよいアイスティーをご用意いたしました」


「ありがと、レイネ」


「どこからティーセットを……って、そっか、魔法があれば運べるんだっけ」


「メイドの嗜みでございます」


「メイドすげぇ」


「……世のメイドのハードルを堂々と上げてしまっているわね」


「うん、私もたまにそれ思う」


 このみんの呟きに私も同意する。

 トモとユイカは普通に受け止めちゃってるけど、決してメイドという存在のデフォルトがレイネという訳ではないしね。

 もっとも、レイネ以外のメイドなんてこの世界にどれだけ存在しているかは分からないし、私もレイネ以外のメイドを追加で雇うなんて考えた事もないけど。


「さてさて、午後はやっぱせっかくだし海いこ、海」


「そうそう! で、早めにあがって夕方には温泉いこ!」


「いいわね。確か温泉用の建物があるのよね」


「そうそう! そこにあったパンフに載っててさぁ――」


 わちゃわちゃと盛り上がる3人の会話を聞いていると、ひとりがけソファに腰掛けていた私の斜め後ろにそっとレイネが近づいてきた。


「――時に、凛音お嬢様」


「ん?」


 返事を返せば、レイネはそのまま腰を曲げて私の耳元に口を寄せた。




「――――が見つかりました」




「……そう」





 本当に、なんとなく。

 そう、なんとなくだけれど気になった事ではあったのでレイネに注意するように言っていたのだけれど、まさか本当にあった(・・・)とはね。


「全部片付けた?」


「もちろんでございます」


「ありがとう。――もし動きがあったら、教えて」


「はっ」


 何も知らない3人には聞こえないように、私とレイネは小さな声で短くやり取りを交わしていた。





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