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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
122/201

隠れ家的ホテル




「――ほい、着いたよ」


 ジリジリミンミン、虫の声。

 生を謳歌していますと激しく主張しているかのような大合唱が鳴り響く、少し背の高い山とも言えないような、けれど他に形容しにくいそんな場所。


 私の声に、レイネ以外の面々――トモとユイカ、このみんの3人が乾いた笑いというか、引き攣った笑みを浮かべて辺りを見回した。


「……転移魔法、だっけ。やっぱ反則だよね……」


「電車とバス乗り継いで片道3時間半ぐらいの場所なのに、もう見えてるもんね……」


「……すごい」


 トモとユイカはともかく、このみんの語彙力が死んだ。


 今回招待された宿泊施設は、海沿いの建物。

 南一面に海を臨む一方、北側は私たちがいるような、こんもりと少し背の高い山――というか崖もどきというか、まあそんな場所に囲まれていて、知る人ぞ知る穴場のような場所だ。


「それにしても、こんな場所があったなんて知らなかったなぁ」


「確か配信とかSNSで風景の写真とかはアップしていいけど、地名とかは公表しちゃダメって話だったわよね?」


「んだねー。色々書いてあった宣誓書みたいなのにサインさせられたし」


「ぶっちゃけ、おかしな話よね。まあリンネが調べてくれたおかげで納得できたけど。ありがとう、リンネ」


「いやいや。それは私が調べたんじゃなくて、レイネに調べてもらったんだよね。だからレイネのお手柄だね」


「凛音お嬢様とそのお友達が泊まるのですから、調べるのは当然の事でございます」


 ユイカとこのみん、それにトモと続いた会話に答えつつ、私も私で怪しく思ったんだよなぁと思い出す。


 今回の招待に先立って、宿泊先の情報を調べようとして検索してみたんだけど、それらしいホテルはヒットしなかったのだ。

 ホテルの情報や場所、建物の写真なんかがメールに添付されていただけ。


 もしや私に対する手の込んだイタズラなのでは、なんて疑問もあったけれど、そうなるとトモやユイカに話が伝わっているという点も理解できない。


 そこで、レイネに調査を依頼。

 ほら、レイネなら色々な伝手を使えるし。

 そんな事を安直に考えて調べてもらえないかと依頼してみたところ、本当にレイネがあっさりと情報をゲットしたんだよね。


 今回私たちが招待されているホテル。

 そこはどうやら、元々はどこぞの芸能人だか政界の人間だかが建てた巨大な別荘が売りに出され、その場所をホテルとして使えるようにしたのだとかなんとか。

 ホームページで宣伝とかもしていなければ、どこかの紹介系サイトにも掲載されていないのは敢えてそうしているようで、実は今でも芸能人や著名人の隠れ家的なホテルとして使われているらしい。


 どうにも一見さんお断りというか、高額の会員料を毎月支払っている会員のみが使えるような、そんな場所だそうだ。


 ちなみに、レイネの家である篠宮家は当然のように名誉会員とやららしく、使おうと思えば使えるらしい。

 さすが由緒正しい御家。


 なのでひとまず参加の旨を連絡したところ、送られてきたのが3人が話している宣誓書。

 そこに無料の送迎バスの案内と、配信をするにあたってホテル名を出さない、地名の詳細を語らないようにとかなんとか書かれていたのだ。


 当然、これをトモやユイカ、このみんは怪しいと感じたようだけれど、私がレイネに調べてもらった情報を共有したことで、安心して参加する事になったという経緯があった。


「それにしても、オシャレだなー。海外っぽい」


「あー、地中海的な?」


「白を基調に青い屋根、ね。おそらく、ギリシアのサントリーニ島を意識しているのでしょう」


 ホテルに向かって歩きながらも、見えている外観に対してトモ、ユイカ、このみんが口々に会話を続ける。


 このみんが言うように、ギリシアのサントリーニ島を思わせるような白塗りの壁、白塗りの建物に青い屋根の建物だ。

 その周辺も白で統一しているし、意識しているのは間違いないだろうね。

 崖に面した場所に建っているところとか、まさにそれっぽいし。


 大量に同様の建物があって統一感があるサントリーニ島のそれに比べると、圧巻って訳ではないけれども、確かに日本のホテルらしいホテルとかとは趣が異なっている。


「今度見比べるために行ってみようか」


「お、海外旅行!?」


「卒業旅行とかいいかも、青春っぽいし!」


「旅費とか宿泊費とか、結構するわよ?」


「転移魔法で一瞬だし、移動は無料だよ。泊まらなくても転移魔法で夜は戻ってくればいいし」


「おぉ、便利! って、不法入国になっちゃうんじゃ!?」


「あ、そういえばそうなるね」


「飛行機で行きましょうよ。パスポートとかビザの取得を確認されたら逃げなきゃいけないなんて嫌よ。それに、現地の夜をホテルで過ごしたりするのも醍醐味じゃない」


「確かに」


 不法入国ねぇ。


 まあ私は顔立ちからして外国人っぽい感じだから、海外に行ってもパスポートを見せろって職務質問されるような事は少ないかもだけど、アジア系の顔立ちの3人は職務質問される可能性は高いと言えば高いかぁ。

 このみんが言う通り、せっかく旅行するなら飛行機に乗って現地のホテルに泊まって、っていうのが醍醐味っていうのも分かるし、だとしたら飛行機で旅行が一番かなぁ。


 そんな取り留めのない会話をしながらも、割と急斜面な狭い階段を降りてホテルに向かって歩くこと15分ほど。

 私たちはホテルの敷地内となるであろう、白塗りの場所へと足を踏み入れ――思わず顔を顰めた。


「まぶしいッ!」


「白って光を反射するものね……」


「リンネに魔力障壁教わってて良かった……。油断したら空と地面と壁からの反射でこんがり日焼け待ったなしだわ、これ……」


 トモとこのみん、それにユイカが言う通り、周囲が白くなったせいで眩しいのだ。

 遠くから見る分にはオシャレだけど、こうしてその場所に立つと目にくる。眩しすぎてくしゃみ出そう。


「凛音お嬢様、こちらをどうぞ」


「ありがとう」


「あぁっ、サングラス!?」


「こんな事もあろうかと、皆様の分も用意しております」


「おほっ、メイドすげぇ」


「ぶふっ!? ちょ、ユイカ、変な声出さないでよ」


「ちょ、おほって……あははは!」


「おほーっ」


「や、やめ……くふっ、ふふふ……!」


「ははははっ、ひーっ、ふ……っ、あっ、ダメだ! はははは!」


 このみんとトモが撃沈したのを見て、ユイカが恥ずかしがるどころか追撃を仕掛けてトドメを刺しにいった。

 私もニヤニヤするぐらいには面白いけど、私の場合、「おほーっ」って聞くとネットスラングの豚ちゃんが浮かんでくるんだよね。有名なアレ。古から時折現れる、らんらんという存在。


「はー、はーっ、つら……っ」


「ひぅ……、あーっ、くるし……」


「おほーっほっほっほ」


 ……ホテルが目の前にあるというのに、そこにさっさと向かわずにネタで盛り上がって足止めしてしまう。

 なんかこう、青春っぽいなぁ、なんて他人事のように思ってしまう私であった。





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