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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
120/201

配信鑑賞




《――ヒゲのおじさん、弱すぎまするっ!? どぉーして亀に当たって負けてしまうのですかっ!? 頭突きでブロック壊してたりする猛者でございましょうにっ!》


『草』

『頭突きじゃないんよ、一応パンチなんよw』

『猛者は草』

『腹いてぇwww』


 ロココちゃんの配信。

 さっきから終始この調子で盛り上がっていて、視聴者数もかなりの数をキープしている。


 ロココちゃんが今やっているゲームは、横スクロールアクションゲーム。

 世界的に有名になった赤と緑の兄弟を操るタイプのシンプルなゲームなのだけれど……配信開始から30分、今もまだ最初のステージで躓いている。


 ちょっとずつトライアンドエラーを繰り返して進めてはいるんだけどね。


《あぁっ、旗! 旗でございまするっ! あの御印(みしるし)を手にすれば良いのでございますね!? …………届かないでございまする……》


『違う、そうじゃないw』

『その棒にぶつかればクリアだよ!』

『突っ込めー!』

『ほぼチュートリアルステージに30分は草』


《棒にぶつかる、でございまする? ――ハッ!? もしや、棒を倒して御印を奪えば宜しいのでございますね!?》


『違う、そうじゃないww』

『かわいいw』

『くっそwwww』

『陛下、メイドさん、教えてあげてww』


「すっごい盛り上がってるね」


「はい。視聴者数も5桁で落ち着いていますね。今のところ、〝新技術〟を用いた場合の配信はどこも歌って踊ったり、あるいはテレビ番組のように集まってみんなで行う企画モノばかりですので、こういったゲーム配信の場合にどうなるかを知りたい層も多いかとは思いますが……」


「最初はそうだったかもだけど、今もここまで視聴者が多くて、しかも人数が減るどころか増えているあたり、ロココちゃんが単純に魅力的だってことだろうね」


 視聴者数は私の紹介から流れた事もあり、配信開始当初から2万人を越えていた。

 普通に考えて、この数字は大手の箱の新人デビュー配信とかでなら有り得ることではあるけれど、新人としては異例中の異例である。

 レイネが言うように、注目されている〝新技術〟を用いたゲーム配信だからこそ、というのもあるだろうけれど。


 とは言え、画面がどのようになるのか、違和感はないかなんてものはゲームを開始さえすればすぐに雰囲気を掴めてしまう。

 だからこそ、ゲーム配信が始まったら視聴者数は落ちるだろうなと思っていたんだけど……ロココちゃんが配信を始め、この調子でゲームを進めている内に、気が付けば視聴者数は3万を越えて、じわじわと増えているんだよね。


「コミカルな表情や反応がウケているんでしょうね」


「どういうこと?」


 ニコニコしながらお酒を口にして微笑んで配信を観ているお母さんの向こう側から、同じくお酒の入ったグラスを手にユズ姉さんが口を開いた。


「配信をしている配信者やプロゲーマーは、当然ゲームに慣れているから、〝ゲームのお約束〟をスルーしてしまう。でも、ロココちゃんの反応は初めてゲームに触れているのだと反応を見ていれば理解できる。幼い子どもと違って常識を理解しているからこそ、〝ゲームのお約束〟にさえ戸惑い、いちいち反応していて表情豊かで可愛らしいでしょう?」


「あー、確かにね」


 あの子は神の御使い、神使と呼ばれる存在。

 レイネが神――宮比神から聞いた話なのだけれど、どうやら神使と呼ばれる彼女たちは俗世の文化には触れないように生きてきたようで、ゲームだとかアニメだとかなんてものは一切知らなかったらしい。

 それ故に、彼女のリアクションはゲームやアニメに対して『こういうものだ』と割り切るような下地ができていない。その新鮮な反応が、マンネリ化もせずに同じステージでありながら配信を盛り上げているおかげ、という事かな。


 普通、こうなっちゃうとコメント欄に心無い一言――やれ「下手くそ」だの「つまんね」だのというようなコメントが投げかけられたりするものではあるのだけど、そういうコメントは一切見当たらない。

 レイネがチェックして弾いているという訳ではなく、ロココちゃんの配信は異様に民度がいい。


 ……まあ、ロココちゃんの配信でそんなコメントをしようものなら、宮比神あたりから神罰が与えられる可能性もあるんだけどね。

 なんかタブレット端末をレイネが買い与えて、ロココちゃんの配信を観れるようにネット環境も整えてあげてるって話だし。


 芸能の神にサブカルを普及する異界出身の元魔族。

 字面だけ見ると陰謀が渦巻いていそう。


「加えて、Vtuberじゃ細かすぎる表情の変化はモデルのパーツ的に表現できないせいもあって見落としてしまうし、表情も操作しなくちゃいけないから、どうしたってオーバーになってしまうのよ。そういう姿や反応が演技に見えるからという理由でVtuber配信を見ないという人も一定数いるというのが実状よ。でも、〝新技術〟を使っていれば実写配信となんら変わらないほどに表情も自然で、そういった疑いの目を向けられる事もないのね。だから、Vtuber推しだけじゃなく、『Vtuberなんて絵が動いているだけだ、嘘くさい、実写しか観ない』なんて斜に構えた層も多いのだけれど、そういった層を引き込めているのでしょうね」


「ほへー、そうなんだ」


 ユズ姉さんが言う通り、確かにVtuber文化に対して否定的な層っていうのは一定数存在している。Vtuberという存在が『そういうモノ』として割り切れない、受け入れられない、というのは個人の合う合わないの話だからしょうがないものではあるけど。


 私はいいと思うんだけどね、Vtuber。

 プライベートまで侵食されなくて済む訳だし、自分の顔とか外見にコンプレックスがあって、そのせいで本当にやりたい事があっても諦めなきゃいけない人だっているかもしれない。

 そういう人が活躍する方法の幅が広がるなら、それに越した事はない。


「ロココちゃんの場合、そういう新鮮な反応が可愛くて見ていて和むし、面白い。総じて、配信として非常にクオリティが高いと言えるわ」


「ジェムプロに欲しくなった?」


「……無理ね。だってあの子、そもそも人間じゃないし戸籍もないんでしょう? ウチじゃ雇えないというか、ウチだけじゃなくて普通の企業じゃ雇いたくても雇えないわよ」


「それはそう」


 魔法、人ならぬ存在。

 そういったこの世界の常識の外側にいるような代物、存在と交流する事になったお母さんとユズ姉さんだけれど、割とあっさりとそれらを受け入れてくれている。


 いや、まあ二人なら受け入れてくれるだろうとは思ってたけど。

 じゃなきゃ二人に話そうとは思わなかったし、もっと徹底的に技術を隠したと思うから。

 それこそ、魔道具だって私は案件を受けただけとして、レイネの――篠宮家の事業として傀儡の代表を生み出して活動しようと思えばできた訳だし。


 ロココちゃんの正体については二人にも伝えてあるし、彼女が見た目通り――8歳前後の見た目をしているけれど、その実かなりの歳月を生きてきた事も伝えてある。

 神使として生きてきただけであって、世俗に疎く、見た目だって幼いけれど、それでも見た目通りの年齢ではない、と。


 視聴者には何者であるか、何歳であるかをロココちゃんが語ったとしても、〝そういう設定〟としてしか受け止めないだろうし、外部コラボでロココちゃんを出さない以上、戸籍を作る必要もない。


 給料やら何やらについては発生しないしね。

 そもそもあの子、お金なんて必要もないし興味がないし、宮比神からも「人の理に合わせる必要なんぞない」と言われてしまっているし。

 その代わり、あの子が欲しがるものとかは私が出したり会社で購入したりもしてあげるようにしているけどね。


「はあ……。もう凛音ちゃんが次に烏天狗とか鬼とかをメンバーに入れたって、驚かないわよ、私は」


「いたら勧誘したいね」


「……私も見てみたいし話は聞いてみたいかも」


「私も楽しみね~。ふふふ、凛音ちゃん、もっともっとお友達を増やしていいのよ~」


 ユズ姉さんだけじゃなく、お母さんも許容するつもりであるらしい。

 うーん、さすがに私もあまり積極的に人員を増やそうとは考えていないんだけど……。


「……凛音ちゃん」


「ん?」


「その……、ケモミミっ子とか、いないかしら……?」


 …………。


「……ユズ姉さん、そういうの好きなんだっけ?」


「え、えぇ、そう、ね……。ほら、でもアレよ、ケモミミっ子が実際に耳とかどんな風に動くのか、表情と分かりやすく連動するのかとか知りたいっていう、学術的な意味での興味の方が強いというか決して直接モフモフさせてほしいとか思っていないというか」


「語るに落ちるとはこの事か」


 ユズ姉さんの趣味がそっち系だとは知らなかったなぁ。


《んににににににに……っ! ゴール前で落ちるポイントとか、性格悪すぎでございまするっ!》


『んににかわいいw』

『ロココちゃんファイト!』

『あとちょっとだよ!』

『草』


《んにゃーーっ! なぁーにが草でありますか! 笑えませぬがー!? 他人の不幸を笑うなんて、呪われても仕方のない所業でございまするーっ!》


 語るに落ちたユズ姉さんのせいで沈黙する中、ロココちゃんの叫び声だけが響き渡っていた。





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