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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
119/201

招待




 ロココちゃんの配信チャンネル始動。

 そんな発表を済ませて配信を閉じたあと、自室に戻って早速ゲーム配信を始めるロココちゃんを見送り、私は配信後の定番作業となりつつあるレイネからの報告を聞いていた。


「――相変わらず、新技術配信を用いた案件依頼が多いですね。予定通り、案件についてはお断りさせていただいていますが問題ございませんか?」


「うん、それでいいよ。夏休みだからって無理に受けたいと思うほど切羽詰まってないし。当初の想定通りで」


「かしこまりました」


 私が女子高生だと公言しているというのもあるだろうけれど、夏休みシーズンの今なら受けてもらえるのではないかと考えているのか、8月中の対応案件を提案してくる企業が非常に多い。


 魔道具を用いた新技術配信の話題性は凄まじく、実際、私のチャンネルにもその効果は数字として表れている。

 この状況で案件配信を行ってくれれば、宣伝効果は非常に大きいと踏んでいるのだろう。どの企業も好条件をほのめかしている。


 もっとも、さすがに報酬の詳細とかは「一度お話を」という形でしか明記はされていないけれど。


 今のところ、新技術を用いた案件を受ける気はない。

 これは私だけじゃなく、貸与先への条件とさせてもらっている。


 ジェムプロやクロクロにまでそんな条件を呑んでもらう理由は至ってシンプル。

 今の状態で案件に利用されてしまうと、機器をレンタルできない層から余計にいらぬ反感を買いかねないから。

 もちろん、それぐらい私が考えずともジェムプロもクロクロも理解しているようだけれど。

 

 人という生き物の中には、「他者が優遇されている」と感じた途端に不平不満を口にする者が一定数存在する。自分勝手な理由を、さも公平だとか平等だとかの聞こえの良い言葉で包んで、己の卑しさを隠して叫ぶ。

 責任を持たず、匿名だからとそれらを垂れ流し、あたかも被害者のように、あるいは正当性という名の〝正義〟を振りかざす。


 そんな自己満足に、言われる側のこれまでの頑張りがあったからこその成果だとか、言われる側の人間性だとかなんてものは関係ない。

 それを見た人も、向けられた人も不快になるとかさえ考えつかないし、そもそも何かが解決するかどうかなんて事は関係ない。


 攻撃できる場所を見つけたから、自分は正しいと言わんばかりに攻撃して悦に浸る、ただそれだけの為の発言だ。


 ただでさえ新技術用の機器を貸与されていて、さらにそれを利用して案件配信までやったりしたら、そういった存在が鬼の首を取ったかのように騒ぎ立てるだろう事は目に見えている。

 現時点で「大手だけズルい、公平にすべき」なんて騒いで私を攻撃している連中もいるようだし、そこから派生して「大手に媚び売ってる」だの「大手を贔屓してる小物魔王」だのSNSで流れてくるしね。


 あまり調子に乗らない方がいいと思うけどねぇ……。

 開示請求でお手紙が届くか、レイネからの呪いが届くから。

 泣き寝入りなんてする気ないからね、レイネが。


「――……珍しいオファーが届いていますね」


「んぁ?」


「こちらをご覧ください」


 レイネがわざわざそこまで言うなんて、と思いつつタブレット端末を受け取って内容を確認してみる。

 そこに書かれていた内容を見て、思わず首を傾げてしまう。


「……『未来を担う若い世代で活躍する皆様をご招待!』ねぇ……」


 開かれていたメール、その件名を読み上げつつも内容を確認していく。


 ……ふむ。

 目を進めてみれば、どうにも若手のクリエイターや芸能人、スポーツで活躍し、名を売っている人達を熱海のリゾート施設に貸し切っているので、遊びに来ませんか、という内容らしい。

 特に案件という訳ではないものの、配信などはしてもいいが、しなくてもいいとのこと。ただし配信をする場合は他の利用者が映らないように配慮がどうの、と書かれている。


 よくやるなぁ。

 まあ、時期的にも、今は世間一般で言うお盆休みが終わって、社会人にとっては日常が戻り、学生は夏休み終盤に差し掛かろうというタイミング。まだまだ夏休みシーズンである学生世代をターゲットにしたイベントのようだけど、なんのメリットがあるんだろう。


 そんな事を考えながら文面を読み進めていく。

 ふむ、どうやら若者向けのイベントとして今後展開していく上でモニターをしてほしい、というのがメインみたいだね。

 アンケートの提出義務みたいなものがあるみたいだし。

 大々的によくやるね……。


 それにしても、こういうイベントにしては招待のタイミングが遅すぎる気がするけど。

 4日後て。

 欠員が出て急遽追加で招待した、といったところなのかな。

 分からないけど。


「……魔王城の方がロケーションもいいし、惹かれる内容じゃないね」


「それはそうなのですが、こちらを」


「ん? 私のスマホ?」


 レイネに渡された私のスマホを見やれば、そこにはトモとユイカ、このみんのグループチャットに新着メッセージが届いていた。


 ちなみにこのグループ、レイネも参加していたりする。

 私がスマホを見なかったりもするものだからね。


 ともあれ、渡されたスマホにあったトモから届いていたチャット。

 そこには、『熱海のリゾートに招待されたんだけど、一緒に行かない?? 一人一名まで同行OKらしいから、リンネとこのみんを私とユイカで同行者にするから!』とのこと。


「……これ、メールの件かな?」


「そうかと思われます」


「なるほどね。魔王城でいいんじゃない――って、打ってる最中に……」


 さらにこちらに届いた『海とかはリンネのトコに勝てないだろうけど、熱海の温泉入りたい!』と追加の一言。


 温泉……なるほど。

 だから魔王城でいいや、とはならなかったのね。

 魔王城にある浴場は温泉水じゃないしね。


「それってもしかして、株式会社クレアボヤンスってところの招待? ……送信っと」


「……そのようですね」


「みたいだねぇ」


 返ってきた返事を見る限り、どうも私宛に届いたものと同じものであるらしかった。

 もっとも、どうもトモとユイカは所属している事務所から抽選でもらったらしく、直接的に招待されたという訳ではないそうだ。

 ここ最近、トモやユイカ、このみんも忙しくてなかなか遊ぶ時間がなかったし、なかなかそういうリゾートホテルに泊まるなんて経験もないから、せっかくだから行きたい、とのこと。


「……このみんも乗り気みたいだし、行こうか。レイネも私の同行者として連れて行けるし」


「かしこまりました。では、私から参加の旨を先方へ回答しておきます」


「うん、ありがと。よろしくね」


 企業への返事はレイネに任せるとして、私は私でトモやみんなに参加の旨をグループチャットに送信っと。


「レイネ、他に何か報告とかある?」


「いえ、特にはございません」


「そっか。じゃ、お母さんとユズ姉さんのトコに行こっか。ロココちゃんのデビュー配信、しっかりと応援してあげなきゃだしね。……でも、大丈夫かな、あの子」


 ロココちゃんは宮比神とかいう神様の神使――私で言うところのレイネみたいな侍女のようなポジションにいたはずの子なんだけど、お世辞にもしっかりとしているとは言い難い性質の子だ。


 なんていうか、すっごく失礼な言い方になっちゃうけど、〝ポンコツ可愛い系〟とでも言うべきかな。


 そんな子が配信をするようになるのだから、しっかりとフォローしてあげよう、という話にはなっているんだけどね。

 レイネが機材設置とか、分かりやすいように色々と整理して設置してあげたっていう話ではあるし。


 ただ、それでもあの子の場合、やらかしちゃいそうな気がするんだよね……。


「ご安心ください。私も後ほど彼女の部屋に向かってフォローできるよう待機致しますので」


「……うん、ありがとうね」


 ロココちゃんの配信は、私みたいにレイネがカメラを持って視点を動かすようなものじゃなくて、Vtuber、ゲーム配信者としてはお馴染みの定点カメラ配信だし、OBS――Open Broadcaster Software――を使って配信をする、以前までの私と同じタイプだ。

 まあ、モデルを動かす訳じゃなくて新技術カメラこと魔道具を使うから、Vtuberというよりゲーム実況者のそれに近いかもしれないけど、それはともかく。


 いざという時は、私も転移してヘルプに入ろう。

 そんな事を考えつつ、私は玉座から腰を上げてお母さんとユズ姉さんのいる部屋へと向かった。





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