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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
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〝優しい嘘〟




 お母さんとユズ姉さんの二人が揃ったのは夕方。

 ご飯の時間になってから話そうかとも思ったのだけれど、食事中に会話をすると料理も冷めてしまうし、内容が内容なだけに日常会話のような気軽さで話す訳にもいかないからね。

 せっかくレイネが作ってくれるご飯なのだから、冷ましてしまうなんてもったいない。


 二人がそれぞれにシャワーを浴びてスッキリとして落ち着いていた事を確認して、「L」字型のソファーに腰掛けた二人とはテーブルを挟んだ先に丸椅子を置いて、私はそこに腰掛けた。


 二人には今日、大事な話があるという事だけは前もって伝えていた。

 だからこそ、こうして私が二人の顔が見える位置に改めて腰を下ろしたことで、その大事な話とやらを始めるのだろうと気が付いたらしく、僅かに身動ぎして姿勢を整えてくれた。


 そんな二人を前にして、私は小さく気付かれない程度に深呼吸した。


 ……いや、緊張してるって訳じゃない。


 お母さんとユズ姉さんにこれから魔力や魔法なんて存在の事を話す。

 私がそんな突拍子もない話をしたところで、果たして信じてもらえるか不安……――なんて事は一切ない。

 信じてもらえるかどうかなんて実際に見せればどうにでもなるからね。


 ただ、何より「この子、Vtuberになって中二病にでもなったのかしら」なんて目を向けられそうっていう、ね……。


 なんかこう、自ら罰ゲームに赴くような、そんな気分だ。

 ため息も出るというものだよ、うん。


「それで、凛音ちゃん。大事な話って聞いたけれど~、恋人でもできたかしら~?」


「え、いや、それはないけど?」


「あら、そうなの~? 凛音ちゃん、こんなに可愛いのに~」


「……まさか、またVtuber業界を揺るがすような爆弾じゃないわよね……?」


「……ウン、マア、ソーダネ」


「……はあ。まあいいわ、話してちょうだい」


 お母さんからは明後日方面の質問をされて、ユズ姉さんからはジト目と嘆息をもって迎えられた。


 どうやら私が大事な話をするにあたり、緊張していると思って場を和ませようとしてくれていたらしい。

 いや、うん、ごめんね。

 Vtuber業界どころか、世界全体を揺るがすような爆弾なんだよね、実際。


「……大事な話、始めるね。きっかけは今年の年明けの事なんだけど……――」


 こんな言葉を皮切りに、私はレイネと一緒に考えたカバーストーリーを口にしていった。


 私が魔力や魔法を使えるようになったきっかけ。


 真実を言うのなら、前世が関係している。

 魂に宿る魔力と、それを使った魔法という技術。

 前世ではそれが当たり前に存在していたし、そもそも私が魔王という存在に至れたのは、この魔力という力が他者よりも圧倒的に大きく、強い存在であったからに他ならない。


 そんな魔王の魂を持った私という存在が、記憶と共に魂そのものが漂白される一般的な転生のシステムから外れた存在であり、前世の記憶と魔力を持ち越してしまっているからこそ、魔力を宿し、魔法を操れるというのが真相だ。


 もちろん、これをそのまま伝えるという選択を取れなくもなかったけれど、まあ私はそんな事をするつもりはなかった。

 かと言って、さすがに「ある日気が付いたら偶然使えるようになりました」なんて話じゃインパクトに欠けるというか、説得力も何もあったものじゃない。


 なので、トモが巻き込まれた事件であり、このみんと知り合うに至ったバレンタインデーの事件に紐付ける事にしたのだ。


 内容としては、トモが変な男に連れて行かれそうになって、私が助けに向かったこと。

 その時、レイネと偶然出会い、協力を求めたこと。

 無事に解決したものの、レイネが私に膨大な魔力がある事に気が付き、その力に魅入られる事になって忠誠を誓い、同時に私に魔力や魔法を教えてくれるようになった、というストーリーだ。

 ちなみにこの話はレイネが監修している。


 もちろん、これは嘘でしかない。

 他人が聞けば、「信じてくれている家族に嘘をつくなんてとんでもない」とでも口にする人間だっているかもしれない。

 でも、必要な嘘(・・・・)だと私は考えている。


 ――「嘘をつくのはいけないこと」。

 それは、子供の内に大人に教わる教えの一つ。


 たとえば、他人を騙して悦に浸るための、自分勝手な嘘であったのなら。

 己が利益を貪るために、相手を欺き、騙してしまおうという魂胆から吐いた嘘であったのなら、それらは確かに唾棄すべきものだ。


 でも一方で、相手に救いを与えるための〝優しい嘘〟なんてものもある。

 どうしようもない絶望を少しでも払拭するために投げかける嘘。

 前を向くために、そのきっかけになって欲しいと願って口にした嘘、なんてものもある。


 もちろん、「嘘をついて大事な人を騙したくないから真実を口にする」なんて選択を選び取る人もいる。


 相手の為につく〝優しい嘘〟と、容赦なく告げる〝ありのままの現実〟。

 そのどちらかを選べと言われたなら、私は迷いなく前者を取る。

 今回のように。


 洗い浚いを告白して、ただ秘密を抱えていた当事者だけがスッキリするっていうのは、なんていうか、卑怯だと私は思う。

 背負うべきものを背負わず、ただ相手に理解を求めるように真実を告げて、「あとはそっちで受け止めて理解して」とでも言わんばかりに丸投げするというのは、自分の為の嘘を吐くのとさして変わりないと、そう思っているから。


 だから、私はカバーストーリーを語った。


「――――……そういう訳で、私は魔法が使えるんだ。こんな風に」


 パチン、と指を鳴らして自分が浮かぶ。

 足を組んだままふわふわと浮かび、ついでに机に置かれたティーカップも目の前に浮かばせてみせると、お母さんとユズ姉さんは目を丸くして、口も開けたままこちらを見上げていた。


「……え、浮いて……る……」


「…………そんなことも……」


 ……一通り話してみせて、魔法を見せてみて。

 そこまでやってみた訳だけれど、二人は言葉にもならないような、呆然とした様子でこちらを見てフリーズしている。


 ……ん?

 あれ、なんか、徐々に二人の目が爛々と輝き始めたというか……。


「――凛音ちゃん!」


「わ、私たちも魔法を使えるようになるって、こと!?」


「え……? あ、うん、教える事はできるよ。ね、レイネ」


「はい、もちろんです」


 突然フルスロットルで再起動を果たした二人に答えてみて、レイネにも話を振ってみれば、お母さんとユズ姉さんは徐々に喜色を浮かべて、お互いに顔を向けあった。


「ど、どどど、どうしましょう、ユズちゃん!? わ、私、さすがにこの歳で魔法少女って名乗るのは恥ずかしいような……!」


「そ、それは私も同じよ! でも、魔法……! 子供の頃に夢見た、魔法が使えるって……!」


「きゃ~~っ! 魔法淑女って名乗っちゃおうかしら!?」


「あはははっ、なによそれ!」


 ……テンションが一気に急上昇してしまった二人に、思わず私もフリーズしてしまった。

 いや、魔法少女て。

 子持ちの魔法少女はないでしょ。

 だからって魔法淑女とか、それはもう、単純に魔女でいいんじゃないかな……。


「えー、と……。二人とも、ずいぶんあっさり信じてくれるね?」


 未だに興奮冷めやらぬ様子でキャッキャしているお母さんとユズ姉さんに声をかけてみれば、二人はこちらを見てきょとんとした後で、今度はくすくすと笑い始めた。


「えっとね、凛音ちゃん?」


「うん?」


「――私、凛音ちゃんが不思議な力を持ってるってことは、ずっとずーーっと前から知っていたわよ?」


「…………は?」




 ………………はい?





「だって凛音ちゃんが赤ちゃんの頃、しょっちゅう色々なものが突然浮かび上がったり、動いていたりしていたもの~」


「なにそれホラー」


「懐かしいわね……。あの頃、どうすればいいのか分からなくてお祓いに行ってみたら、鳥居のしめ縄がすごい音を立てて千切れ飛んだのよね」


「どう考えてもホラーじゃん」


「神主さんが吹っ飛んじゃったりしたものねー」


「めっちゃ悪霊ついてるホラー系の映画じゃん」


 ポルターガイスト現象とかにしか見えなくない?

 というかしめ縄が千切れ飛ぶとか、どう考えてもホラー要素盛り盛りなんだけど。

 神主さん吹っ飛ぶとか、もう悪霊じゃなくて悪魔憑きか何かじゃん。

 私、悪魔族ではなかったんだけど。


「それでどうしようもなくて、でも、生後半年ちょっとぐらいでピタッと止んだのよね~」


「生後半年ほど……なるほど」


「あら、レイネちゃん、何か思い当たる節があるの~?」


「はい。人間は生まれてから半年程は自我もない、いわば本能のままにしか生きられないと言われています。自我らしい自我が芽生えるまでの間、生まれ持っていた凛音お嬢様の魔力が制御できず、様々な現象を引き起こしていたと考えれば不思議ではないかと」


「……なるほどね……。あの頃は慣れない育児疲れで幻覚でも見てしまっているのかと思っていたものだけれど、そういうことだったのね……」


「そうね~。私もユズちゃんも、そう思う事にしたものね~」


 ……そうはならないと思うんだけど、普通。


「……えっと、お母さんもユズ姉さんも、そんな私という存在が気持ち悪くなかったの? どう考えても悪魔憑きとか、そんな風に思ってもおかしくないと思うんだけど」


 今の話を聞く限り、普通に考えれば「悪霊の憑いてる悪魔の子」とか、そういう系だと思われても不思議じゃない。だってどう考えたって普通じゃないんだし。

 そんなの、我ながらいっそ捨てられたって文句は言えないなぁ、って思う。


 そう思っての質問だったけれど、お母さんとユズ姉さんはくすくすと笑った。


「思わなかったわよ、一度もね~」


「それはそうね。だって私たちには危害なんて加えなかったし、何より……」


「凛音ちゃんの笑顔を見たら、それだけで悪いものじゃないって分かったものね~」


「えぇ、そうね。確かに凄いことになっていたけれど、それでも、あなたは姉さんにとっても、そして私にとっても、いっそ天使のようだったもの」


「えぇ、そうね~」


 ……なんかすっごい恥ずかしくなるんだけど。

 というかレイネ、天使って聞いてちょっと殺気漏らすのやめなさい。






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